サッカーも野球も指揮官は大変。カープ緒方監督が気を付けていること。

サッカーも野球も指揮官は大変。カープ緒方監督が気を付けていること。

 監督業とは酷なものだ。常に結果を問われ、内容も求められる。勝てば称賛され、敗れれば罵声を浴びせられる。

 ロシアW杯に臨むサッカー日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が本大会を目前に解任された。結果や内容だけでなく、現場をまとめ、現場以外との関係性も大事ということなのだろうか。

 日本プロ野球界で今、最も「解任」から遠い立場にいるであろうと思われる広島の指揮官、緒方孝市監督に「ハリル解任」について問うと、「俺に辞めろと言っているのか」と笑いながら怒られた。

 すべての責任を背負う立場で常に解任と背中合わせなのは、連覇中の指揮官であっても同じ。チームが連敗中の時期ということも含め、愚問だったと猛省している。

 広島の監督に就任して4度目の春を迎えた。監督として初めて過ごしたシーズンは、心が折れそうになるほどの罵声を浴びせられた。真っすぐな性格ゆえ、強い使命感や責任感から必要以上に力が入っていたのかもしれない。

 厳しさは言葉だけでなく、表情にも表れるようになり、誤解やすれ違いを生んでしまった。チームは最終戦に敗れ、クライマックス・シリーズ進出すら叶わなかった。

「1つの色に染めようとは思わない」

「無力」とすら感じた1年だったという。

 現役時代から、自ら「一匹狼」と言うほどチームメートと群れることなく己を磨いてきた。だが、今は時代が違う。ときの流れ、チームの変化に合わせたチーム作りが求められた。理想は違う。それでも強くなる術を選んだ。

「個人的には物足りないところはあるよ。でも、それでいい。1つの色に染めようとは思わない。チームの色は毎年変わる。2016年は黒田(博樹)と新井(貴浩)が引っ張ってくれた。今はタナキクマルの世代が中心。彼らが作る空気がチームの空気」

 才能と練習量をこなせる力を持った選手がグラウンドで存分に力を発揮し、チームには明るさと結束が生まれた。

「采配に情なんか入ったら駄目」

 選手の力で勝っている。それは指揮官も認める。選手が待っている力を最大限に発揮できる環境をつくるのが指揮官としての役割。指導はコーチ陣を信頼して任せ、選手とは対話を重ねた。

 練習中、二塁ベース後方が定位置だ。

「俺が選手のロッカーに行くわけには行かないし、監督室に呼べば萎縮してしまう」

 投手と野手の中間地点で選手の動きを俯瞰し、選手に声をかける。ときには身ぶり手ぶりで助言することもある。またトレーナーやスコアラーなどにも話を聞き、選手の素顔や本音、状態などを確認する。

 ただ、采配に情は入れない。

「情なんか入ったら駄目。駄目なものは駄目なんだから。俺の役割は、1人ひとりに役割を伝えて選手を育てること。機嫌を取ることじゃない。ファンが応援しているんだから。チームを勝たせないと。そこが1番。

 ただそれが全てでもない。そこが目標で、そこに行く中でカープの伝統の野球をベースに、自分の野球観を踏まえながら采配を振って勝ちにつなげる。情でしゃべってしまったら、選手のためにならない。そこで自分も負けてしまう」

どんな敗戦でも選手を責めることはない。

 現役時代から猛練習で一時代を築いた努力家らしく、監督となっても努力を惜しまない。

「野球人である以上、次の戦いに備えて、どうすべきかを考えて、頭の中を常に巡らせている」

 時間があれば他球団の試合映像を見る。セ・リーグだけでなく、パ・リーグも。試合の流れ、采配、選手の表情……。そこから見えてくるものがある。開幕が近づいた3月になると、グラウンドに出てくる時間が遅れるようになったのも、監督室で他球団の試合映像に見入る時間が自然と長くなっていたからだった。

 開幕4連勝も、投手陣が安定せずに4連敗を喫するなど不安定な滑り出しとなった。それでも、どんな敗戦でも選手を責めるような言葉は吐かなくなった。

「今の選手に厳しく言うと折れてしまうかもしれない。外には発信していないけど、コーチにはきつく言っている」

 いつものように「一戦一戦」と繰り返し、強力な打線を擁してもミスのない野球を求める凡事徹底は変わらない。

外国人も日本人も育てるために使う。

 今だけを見て戦っているのではない。広島一筋の指揮官は広島の未来も見ながらチームづくりを進めてきた。たとえば今や貴重な戦力となっているアレハンドロ・メヒアやサビエル・バティスタのドミニカアカデミー出身の2選手を、育成選手だった昨年春からオープン戦に積極起用した。

 チーム作りが本格化する時期にも、背番号3桁の外国人がスターティングメンバーに並ぶ。そのことに他球団のスコアラーは疑問を抱いていたが、そこにも明確な狙いがあった。

「外国人として見ていない。日本人選手と一緒。育てるために使っている。今季は無理でも、必ず将来チームの力になる」

 2人の成長は指揮官の期待を上回り、同年ともに支配下登録され、バティスタは連覇に貢献。メヒアは今季開幕を一軍で迎えた。投資は間違いなく、実を結んだ。

 緒方監督は外国人選手とコミュニケーションをとるため、春季キャンプ中に彼らを食事に誘う。今年のオープン戦終盤の福岡遠征では、OBが営む焼肉店でともに舌鼓を打った。

「家族的なところを感じる」(エルドレッド)

 外国人に日本化を求めるだけではない。日本人選手は片言であっても英語やスペイン語を使ってコミュニケーションを図る。ドミニカアカデミー出身の投手が3人いる二軍のブルペンでは、指導するコーチ、球を受ける日本人のブルペン捕手までスペイン語を使っている。

 来日7年目のエルドレッドも「この球団には家族的なところを感じる。大きな会社ではなく、家族で経営している雰囲気がチームの中にも出ている。すべてがこぢんまりとしていて、1人1人とのつながりを感じる」と語る。信頼関係は一方通行では築けない。互いに向き合い、歩み寄ることで「絆」は生まれる。

 日本サッカー協会は「オールジャパン」を旗印に挙げているが、広島には「オールジャパン」ではなく「オールカープ」の精神が宿っている。

文=前原淳

photograph by Kyodo News


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