清宮幸太郎の「左ヒジ」が気になる。才能がある者だけに許された構え。

清宮幸太郎の「左ヒジ」が気になる。才能がある者だけに許された構え。

 日本ハム・清宮幸太郎選手が、このゴールデンウィークから一軍に合流した。

“昇格”と書かないのは理由がある。清宮選手はファームの公式戦で圧倒的な成績をあげたわけではないが、「日本ハム」というチーム独特の育成プログラムの中に、一軍戦力の兆しが見えた若手、新人選手には早い時期に一軍の実戦を体感させて、さらなるモチベーションにしてもらう、という考え方があるからだ。

 ある意味、一般の企業にもあるような「現場体験実習」としての一軍と考えて“昇格”はふさわしくないと考えた。

 4月後半、イースタンリーグの実戦で、清宮選手は持ち前のスラッガーの資質の片鱗を見せ始めていた。

 5試合4アーチ。

「いやあ、さすが清宮、出てきましたね〜」と盛り上がる声も何度か聞こえてきたが、そのたびに「こんなもんじゃない、まだまだこれから……」と内心つぶやいてきたものだ。

ホームランとアベレージの素質を兼備。

 確かに1試合に1本放り込んだかもしれないが、清宮幸太郎の「爆発力」はこんなもんじゃない。ファームなら1試合で長打、シングルとり混ぜて、3本4本打ったってぜんぜんおかしくない。

 彼の本領は、もちろんパワーもそうだが、それ以上にタイミングとバットコントロールの上手さ。つまり「技術」だ。

 清宮幸太郎とは、ホームランバッターの資質もさることながら、稀代の「アベレージヒッター」の素質を兼備した天才打者であることは、彼が早稲田実業の頃からずっと感じてきたことだ。

すでにプロの常套手段を普通に使いこなしている。

 5月2日の札幌ドーム。清宮幸太郎のプロ初安打は、「お見事!」のひと言だった。

 楽天のエース・岸孝之を向こうにまわして、最初の打席だ。わずかに甘く入った146キロの速球を、ひと振りでジャストミート。打ってヒットになるボールを、ちゃんと見極めていた。打球はあっという間にセンターフェンスを直撃していた。

 その後、2度の打席は、岸の意地に翻弄されて、チェンジアップで空振りの三振に仕留められたが、その翌日。ここでも、清宮幸太郎は本領の片鱗をキラリと光らせてみせた。

 楽天の先発左腕・辛島航のスライダーに、すでに空振りの三振を2つも食らっていたのに、あえてその“鬼門”を狙って、真ん中に入ったスライダーを真っ芯で捉えた。

 一、二塁間に飛んだ低いライナーに、守っていた2人が1歩も動けなかった。猛烈な打球だった。

 思わず「うまい!」と膝を叩いてしまった。

 やられたボールを狙っていく。それはプロの“常套手段”であって、ルーキーがあっさり出来ることじゃない。

 打てそうな真っすぐしか考えないか、普通は「なんとかヒットを……」と、来るボールを全部追いかけ回し、なかばパニック状態で打ち取られてしまうのが普通の18歳ルーキーのデビューというものであろう。

 それが、きちんと四つに組み合って“勝負”に持ち込んでいったのだから、それだけでも見上げたものだ。

左ヒジを上げた新たな打撃フォーム。

 プロ初安打を鮮やかな「ワザあり」できめた清宮選手の、打席での構えが変わったと、新聞が報じていた。

 ポイントは「左ヒジ」だ。

 100本以上の本塁打を量産した早稲田実業当時も、確かこの春のキャンプの頃も、打席で構えた時の左ヒジは地面を向いていて、したがって左脇は締まっていた。しかし、今はその左ヒジが肩の高さほどまでも上がっていて、左脇が大きく空いている。

 この構え方は「大谷翔平スタイル」とも評されて、同じようにステップアップした大谷翔平選手が、MLBの野球に適応するために自分を改良すべく取り組んだテーマの1つだった。

後ろヒジを上げると、闘志が漲ってくる?

 ある野球解説者が、左ヒジを高く掲げた構えの利点をテレビで語っていた。

 振り出しの瞬間に、高く上げていたヒジを一気に下ろすことで、スイングスピードが増速でき、打球の速さや飛距離を生める。

 確かに、そうだ。こういう話、自分が現役で野球をしていた頃に聞きたかった……。“人生”が少し変わっていたかもしれない。

「いい事」はもう1つある、と思った。心の問題である。

 ちょっと、やってみた。

 後ろのヒジ(清宮選手のように左打ちなら左ヒジ)を下げて構えた時の心持ち。逆に、後ろのヒジに高さを持たせて構えた時の心持ち……結構大きく違っていないだろうか。

 私なら、後ろのヒジを高く掲げて構えた瞬間、胸の内ではっきりと闘志の炎がメラメラと燃え上がり始めるのがわかる。

 逆に下げて構えると、心中は平穏のまま。写真でも撮ってもらうためにバットを構えているような気分で、この姿勢から闘いのパッションはなかなか生まれてこないようだ。

この構えはもしかして……。

 ならば、それはなぜか?

 バットを構えた姿勢から前の腕を外し、バットも外して、脇を大きく空け、ヒジに高さを持たせた後ろの腕だけの形。その形をジッと見てみた。

 どこかで見たことのある形だと思った。あまりよろしくない喩えかもしれないが、ケンカで相手を痛打しようとする直前の「このやろー!」の形ではないか。

 そういえば、強烈な張り手を得意ワザとするお相撲さんも、張り手を繰り出している時のヒジの位置が実はすごく高いことを、報道写真で見たことがある。

 大谷翔平の、そして清宮幸太郎の、後ろのヒジを高く掲げた構えは、強力な相手に対して“闘い”を挑もうとする闘志の象徴なのではないだろうか。

 もっと俗な表現をすれば、「このやろー! かかって来い!」という心の雄叫びの体現ではないのか。

 ヒジに怒りを!

 それは闘う心の“原点”なのかもしれない。

 ならば……と、さらに考えた。

 スランプに落ち込んで、なかなかバットを振り出すふん切りがつかなくなっている選手。気がやさしくてファーストストライクから振っていくのをついためらってしまう選手。そういう選手に、この「後ろヒジの高さ」というカンフルを注入することで、選手の野球が変わってきはしないか。

とはいえ、この構えには条件がつく。

 大谷翔平がメジャーで結果を出し、さらにこちらで清宮幸太郎までがある程度の結果を示しでもすれば、きっとこの「上げヒジ」、野球界で広く流行ることだろう。

 王貞治、落合博満、イチロー……今なら坂本勇人(巨人)の左足を大きく泳がせるようなタイミングのとり方。誰もがまねて、そうなろうとして、ほとんどがそこまでいかずに断念したその選手一流の独特のスタイル。

 それらほど“難解”な技術ではないようだが、それでもグリップを回転の軸から遠く離すのだから、それだけ「手打ち」になりやすく、動作が激しくなるぶん、インパクトでのブレも生じやすいはずだ。

 普段の素振りで、ビュンと音がするほどバットが振れるだけの腕力と下半身の強さ。そこが、この「ヒジ上げ」を技術として取り込める絶対条件だろう。

 そこのところを、どうか外さないように。

 坂本勇人のマネをすれば坂本勇人になれると思って前の足を大きく泳がせ、ステップし遅れて速球に差し込まれ、逆に“害”になっている例を、アマチュア野球の現場で数えきれないほど見ている者からの「お節介アドバイス」を、最後に書き添えておきたい。

文=安倍昌彦

photograph by Kyodo News


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