バルサの指導者研修に日本人が参加!楽天の仲介で実現した史上初の事件。

バルサの指導者研修に日本人が参加!楽天の仲介で実現した史上初の事件。

 FCバルセロナには、同クラブのアカデミーで働く指導者たちに向けた“新人研修”がある。「マシア」と呼ばれる寮の1階に40人を集め、朝10時から夕方5時まで、約2週間にわたって講義と実践が行われるのだ。

 バルサの歴史や哲学から始まり、サッカーの考え方、練習法、タレント発掘法、データ管理法、マネジメント法などが叩き込まれる。撮影、録音は一切禁止。バルサとしての企業秘密が凝縮された“虎の穴”だ。

 そのコーチング研修に、今年2月、2人の部外者が参加することが認められた。ヴィッセル神戸の新スタッフ、45歳の林健太郎と43歳の平野孝である。

 平野はこう振り返る。

「バルサでアテンドしてくれた担当者から、研修プログラムを部外者に受けさせるのは初めてのことだと言われました。楽天だから協力するんだと」

 2016年11月、楽天がバルセロナのメイングローバルパートナーになったことで、同社傘下のヴィッセルもバルサとの関係が深まった。そして楽天の橋渡しにより、バルサのコーチング研修に参加することが認められた。

三浦SDが指名した2人の元チームメイト。

 クラブ内で誰を派遣するべきかが議論されると、三浦淳寛スポーツダイレクター(SD)は林と平野を推薦した。3人は元ヴィッセルの選手であり、東京ヴェルディ時代の元チームメイトでもある。

 そもそも林と平野がヴィッセルに加わることになったのは、今年1月、三浦がSDに就任したのがきっかけだ。

 7年間アマチュアの指導現場で経験を積んでいた林と、選手会(日本プロサッカー選手会)で執行役員として活躍していた平野に、三浦が「一緒にヴィッセルに来てくれ」と声をかけたのだ。2人は元チームメイトの思いに応え、新たな挑戦を決意した。

 今年2月、林と平野がバルセロナへ飛び、研修がスタートした。すべての講義はカタラン語で行われる。2人は通訳が話すことを必死にメモに書き留めた。

「講師が通訳を待ってくれるわけではないので、メモが大変。汚い字でいいから書き続けた。それでも間に合わないから、とにかく頭に詰め込んで、アパートに帰ってからパソコンに打つ。本当に貴重な体験でした」(林)

「表現や言い回しにこだわる」という発見。

 まず講義に現れたのは、クライフが率いていた時代のレジェンド、ホセ・マリア・バケーロやギジェルモ・アモールだった。

「他にも(シャビやプジョルを指導したことで知られる)ジョアン・ビラや、現在バルサのアカデミーダイレクターを務めるジョルディ・ロウラが来た。そういう人たちの話を聞けるだけでも価値がありました」(平野)

 では、実際に講義では何が教えられたのか? 林がすぐに気がついたのが「表現や言い回しにこだわっている」ことだった。

「たとえば『ボールはもともと僕らのものだ。だから取られたら、取り返そう』ということを、1人だけでなく、ほぼすべての人が言うんですね。表現にこだわり、それが共有されていることが伝わってきました」(林)

練習メニューを作る部署、チェックする部署。

 例を挙げればキリがない。バルサでは「パスコース」のことを「コミュニケーションコース」というそうだ。

「パスはコミュニケーションですよと。一般的にコミュニケーションというと、言葉を介したものをイメージしますが、パスを介してもコミュニケーションできる。パスコースというのは、コミュニケーションをするためのルートですよという発想。だからパスコースではなく、コミュニケーションコースと呼ぶんです」(林)

 練習法に関してはどうか? バルサのアカデミーには、練習法を開発する「メソッド部」がある。林が驚いたのは中身はもちろん、その運用体制だった。

「メソッド部は練習メニューの構築が仕事で、1つの練習メニューに対して、どうしたら実戦に近づけて、効果的にできるか、それを常に考えている。すごいのはメソッド部のメニューが、実際の練習で機能しているかをチェックするスタッフがいること。確かその部署は『パフォーマンス最適化部』という名前。各年代の練習を、常に約2人がチェックしていました」(林)

ボールを持っての判断が子供でも的確。

 実際の練習では、選手の判断と自主性が重視されていた。

「ボールを持ったときに、パスなのか、ドリブルなのか、シュートなのか。状況から把握・判断・実行する。バルサの子供たちはそれが的確。さらに言えば、ドリブルならどんなドリブルがいいかが細分化されている。その技術をどういうタイミングで使うかを、子供が自ら学ぶ環境をつくっている印象を受けました」(平野)

「メニューでルールを加えるなら、守備側に制限をつける。攻撃側はウォーミングアップ以外、基本的にフリータッチ。なぜならボールを持っている側は、試合と同じ状況で判断できるようにするため。タッチ数に制限がないから、スペースが空いたら、どんどんドリブルをする。彼らはパスサッカーというイメージではなく、しっかりそこにドリブルの要素も入っているんですよ」(林)

 DFのピケがボールを持ったとき、目の前にスペースがあると、迷うことなくドリブルで進み、相手が近づいて来たらフリーになった味方にパスを出す――というのは、バルサの試合でよく見るシーンだ。

「アカデミーでは、それを小学生がやる。アカデミーのコーチが『イニエスタは1人が来てもまだパスを出さず、2人目が来てからパスを出すのが桁違いにうまい』と言っていました。スペースの使い方が体に染み付いているんだと思います」(林)

あえて荒削りな子も練習に混ぜる。

 よりピッチを俯瞰した視点で見ると、発掘してくるタレントのタイプに興味深い点があった。バルサは4-3-3の布陣をベースにし、各ポジションに背番号を割り振っていることは有名だ。そういうシステマティックな枠組の中に、あえて荒削りな子も入れていることに林は気づいた。

「どの年代を見ても、荒削りで身体能力が高い子供をあえて入れているんですよ。そういう選手に考え方やプレーの仕方を教える。現時点ではその荒削りな子より日本の子供の方がうまいと思いましたが、大人になったときに差が出てくるのだと思います」(林)

学業、人間的成長を支える「マシア360°」。

 当然ながら、バルサのアカデミーではピッチ外のサポートが手厚い。平野が興味を持ったのは、「マシア360°」というプロジェクトだ。

「バルサは学業との両立にこだわっていて、一作年『マシア360°』というプロジェクトを立ち上げた。寮のまわりにある、家族、学業、人間教育をすべてサポートするというもの。素晴らしいなと。寮では毎日のように補習が行われていました」(平野)

 2週間の講義中、他の受講者は夕方5時に帰宅していたが、林と平野は特別にアカデミーの練習見学を許された。アカデミーは基本的に保護者も見学できないが、これも楽天の橋渡しのおかげだ。

 研修プログラム終了後、さらに2人は2週間滞在し、毎日、各部門の担当者に通訳を介してヒアリングを行った。集中講義のあとに、家庭教師に教えてもらう感じだ。

 ただ、わずか1カ月でバルサをわかったと言えるほど甘くないことを、当然2人は自覚している。

 林はトップチームのアシスタントコーチとして、平野はアカデミー部部長兼スカウト部部長として、今回の経験を生かし、ヴィッセル独自のサッカースタイルを確立することに挑戦していく。

バルサ化の先にあるヴィッセル化へ。

「アツがヴィッセルに入り、僕たちも加わり、神戸のスタイルを築く試みが始まった。バルサから真似できるところは真似して、盗むところは盗む。でも完コピはできない。どうやって色を出して行くか。特にアカデミーについては、1つ1つ触りながら、確認しながらやっていく必要がある。

 バルサは言葉を大事にしていた。ちょっとした言葉のニュアンスで、100人が違う解釈を持つ可能性がある。共通した考え方で、同じ方向へ進むために、丁寧にやっていきたいと思います」(平野)

「クラブの意図としては、学んできたことを僕がトップチームに、平野がアカデミーに伝えてほしいというのがある。今年からスタイルを変えようとしている中で、僕がバルサで見て学んで来たエッセンスをトップチームに加えるのが役割だと思います。そんなに大きく変わるわけじゃないですが、監督をサポートしながら伝えていきたい」(林)

 元チームメイトの3人が神戸の人たちと力を合わせ、ともにバルサ化の先にあるヴィッセル化に向かって進み始めた。

文=木崎伸也

photograph by VISSEL KOBE


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