敗戦後の空港ロビーで見た幸せな光景。主将・中田翔が起こす化学反応とは?

敗戦後の空港ロビーで見た幸せな光景。主将・中田翔が起こす化学反応とは?

 すがすがしく、誇らしいシーンに遭遇した。

 後輩も含めてチームメートからのニックネームは「大将」である。そう呼ばれる1人の選手の行動に目を奪われた。

 ゴールデンウイークの序盤、4月30日の夜だった。

 その日は北海道日本ハムファイターズは、敵地のZOZOマリンスタジアムで千葉ロッテマリーンズと対戦。2−4で敗れ、連敗を喫して3連戦を1勝2敗で負け越した。その足で、羽田空港へとバス移動。5月2日からの東北楽天ゴールデンイーグルス戦が控える本拠地の北海道へと戻るため、出発ロビーで搭乗を待っていた。

 選手たちは徒労感と闘い、重苦しい空気が漂っていた。搭乗アナウンスまで、45分ほど待ち時間があった。

 ふと目をやると、選手の一団の辺りに小さな人だかりができていた。その中心に、中田翔選手がいた。北海道へと向かう便だったため、その日の試合を観戦したと思われるファイターズのユニホームを着用したファンの方々、また居合わせた一般客とおぼしき人たちが、ざわざわとしている。

 入れ替わり立ち替わり、中田選手の元へと向かう。スマートフォンを差し出し、写真撮影のお願いをしていたのだ。

写真のリクエストに応え続けた中田。

 広報である私の職務としては、選手に負担、また周囲に迷惑が掛かる状況であれば「ここでは応じることはできません。ご理解ください」などと、その場を整理することもあるケースである。自然と事態が収拾するかどうかも含め、しばし観察していた。

 老若男女、世代を問わずに写真をリクエストしていた。1人、また1グループずつ応じていた。身長183cmの中田選手は時に膝を軽く折り、相手の目線に合わせていた。リクエストしてきた方が目いっぱい手を伸ばしての自撮りでの2ショットの求めにも、笑顔でフレームに収まっていた。内容は聞き取れないが、軽く会話もかわしていた。

 敗戦していただけに、勝利の後よりも気乗りするはずはないシチュエーションだった。試合の緊迫感、重圧からも解放されるひとときだったはずである。中田選手は、笑顔を絶やすことなくお願いをされた全員に応えていたのである。微笑ましい一コマ。広報ではあるが、その場を整理、制限することは控えた。

「1人と撮ったからみんなともすべき」

 近寄りがたいキャラクターでもある中田選手。

 その中には勇気を振り絞って歩み寄った方々も、きっといただろう。中田選手の心意気も含め、見て見ぬふりをすべきケース。その時の適切な「広報判断」だと考えた。

 後日、聞いた。なぜ、丹念にその求めに応じたのか――。中田選手の返答は、明快だった。

「最初に子供が1人でおって、その子にお願いされて撮ったんよ。1人と撮ったからみんなともすべきやろ」

 至極、まっとうなポリシーだった。

 見た目そのまま、メディアを通じて知られる言動などでも顕著である。中田選手は、おとこ気にあふれるタイプ。特に女性と子供には、チームでも他の追随を許さないくらい優しいのは、球団内の共有事項だ。

 移動のバスの車中から、街頭から手を振ってくれるファンの方々にも、手を振り返して、または会釈をして気さくに応じることもある。

こどもの日のインタビューでのアドリブ。

 冒頭のシーンだけではなく、よくファンの方々と触れ合うシーンを目にするが、敬服するほど体温を感じるコミュニケーションを取る。しかも、さりげないのである。私たち広報も含め、球団職員に対しても同じである。

 5月5日の「こどもの日」に、中田選手は本塁打を放った。大田泰示選手とともに札幌ドームのお立ち台に選ばれた。同日は、インタビュアーが子供2人。父でもある2人で息を合わせて、心温まるアドリブを敢行した。

 本拠地ではヒーローインタビュー終了後に、内外野をランニングして場内を1周するのが慣例。本来は、その子供2人はお立ち台でお役ごめんだったが、両選手で「いくぞ」と声を掛けていた。一緒にウイニングランをした。

 その子供2人の喜ぶ姿と、興奮した表情に、その粋な計らいの価値が表れていた。

野球人生初となるキャプテン。

 今シーズン、中田選手の思いの詰まった言動は確実に増えた。栗山英樹監督が、その資質をくすぐる手を打ったのである。昨年11月のファンフェスティバル。中田選手を2018年シーズンのキャプテンに任命することを発表した。場内は騒然。本人も「歓声とブーイングが入り交じってたな」というサプライズだった。エリート街道を歩んできた野球人生で、初めての肩書きの大役を背負うことになったのである。

 そして今、立派に務めていると感じている。これまでは、好不調によって感情の波が激しく、グラウンド上での言動にも表れる場面を見聞きしたこともあった。それは、時に全力疾走を含めた走塁などプレーの細部にも明らかに反映されていた。

 今シーズンは、変化した。凡打でも足を緩めず、一塁まで駆け抜けるシーンが増えた。後輩たちが活躍すれば、ベンチで無邪気に喜び、納得がいかない打席があっても心を静めてグッとこらえる。

 自らの一挙手一投足が、士気に影響する。そんな秘めた自覚を、身内でも感じている。

「人は役割を持たせることで変わる」

 強固な和に、なりつつある。移籍2年目を迎えた大田選手は今シーズンのヒーローインタビューで、よく中田選手を引き合いに出す。「中田さんをいい後押しできればいい……」など、ことあるごとに先輩スラッガー、キャプテンを立てている。雑談しながら、その極意を聞いた。

 ただイジルのではなく、芯の通ったピュアな思いが隠されていた。「中田さんのチーム。中田さんが元気なかったら、よくない。チームの顔ですから」。シーズン序盤ではあるが、キャプテンを中心に動き始めている。

 栗山監督には1つの信念がある。

「人は役割を持たせることで変わる」

 その選択は現状、ファイターズの原動力になっている。

 「大将」ではなく「主将」が起こす化学反応。そこに、2018年のファイターズの希望が潜んでいるのである。

文=高山通史

photograph by Kyodo News

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索