W杯総合優勝に輝く渡部暁斗が、五輪金メダルを渇望する理由。

W杯総合優勝に輝く渡部暁斗が、五輪金メダルを渇望する理由。

 輝かしき栄誉を得た喜びの一方で、どこか苦さをかみしめた――。

 5月7日、全日本スキー連盟は「SAJ SNOW AWARD 2018」を東京都内で開催した。昨シーズン活躍した選手やスキーの発展に貢献した関係者を表彰する式で、昨年に続いて行なわれた。

 平昌オリンピックイヤーであった昨シーズンを受けて、スキー・スノーボード各種目の選手や関係者が数多く参加する中、最優秀選手賞を受賞したのはノルディック・コンバインドの渡部暁斗だった。

 オリンピックでは、ソチに続く銀メダルを獲得。何よりも、コンバインドでは荻原健司以来、日本人選手では23シーズンぶり2人目となるワールドカップ総合優勝を果たした成績が光った。発表された瞬間、場内から沸き起こった歓声と拍手もまた、渡部が成し遂げた功績の大きさを物語っているようだった。

「やっぱり、あまり伝わらなかったかなと」

「いろいろな意味で、骨の折れるシーズンでした」

 スピーチの際、骨折を抱えてオリンピックに臨んだエピソードを絡めた挨拶で笑いを誘った渡部だったが、式を終えてからの表情には屈託があった。

「選手もたくさんきて、関係者もいて、僕の活躍をほんとうの意味、というか理解できる、してくれる人たちに評価されて表彰されたことはうれしく思っています」

 含みのある表現だったが、真意は次の言葉にあった。

「やっぱり競技をそんなに知らない方には、あまり伝わらなかったかなという印象があります」

日本でのこの競技の認知度を上げたい!

 昨シーズン、開幕前から渡部は競技の認知度向上を望む言葉をたびたび発してきた。「オリンピックで金メダルを目指す」と語ってきたのも、その1つだった。

 ソチで銀メダルを獲得したあとにもこう語っている。

「メダルが獲れずに発言しても、ただの負け犬の遠吠えなので。ワールドカップの方がレベルが高いと言っても、オリンピックのメダルがなければ、『そんなことはないだろう』と言われるかもしれません」

 世界のトップ選手として活躍してきた渡部だったが、それに相応しい知名度や評価を得られてきたとは言いがたい。

 何よりもノルディック・コンバインドという競技の認知度も、海外でのそれと比べれば高くはない。そうした状況を塗り替えたいという思いをストレートに表した。

 結果として昨シーズンは、オリンピックで2大会連続となる銀メダルを手にすることができた。何よりも、ワールドカップで自身初となる総合優勝を果たした。

「自分が世界一だと納得ができるシーズンではあった」

W杯は五輪や世界選手権よりも重要?

 スキーの世界では、ワールドカップ総合優勝に重きを置く選手が多い。

 オリンピックや世界選手権より重要だと語る選手も、また多い。

 日本でも諸外国でも同様だ。

 ノルディック・コンバインドで言えば、荻原はオリンピックで個人種目の金メダルはない。でもその事実によって、ワールドカップ総合優勝の肩書きが損なわれることはない。今もなお、たしかな存在感と足跡を残している。

 ジャンプとクロスカントリーからなるコンバインドの場合、一発の勝負ではジャンプ時に吹く風のように、その時々の運にも左右される。シーズンを通してのワールドカップの総合順位はまさに地力を示すものだから、価値は大きいのだ。

W杯の凄さは選手や関係者には分かるが……。

 渡部はこの6シーズン、総合順位で2位と3位を行き来していた。昨シーズン、ついに壁を破って価値ある1位に輝いた。

 だが、そのあとの実感を、あらためてこう語る。

「ワールドカップの総合は、選手や関係者にはすごさや意味は分かるし、自分の中でもそれがいちばんという揺るぎないものがあります。自分が納得するためというか、納得させるためには必要です。でも対外的に伝わるものではない。ほかに伝えるにはそれじゃなかったのかなとそういう漠然とした感覚があります」

 そして、あらためて思ったのは、金メダルの必要性だった。

認知度の低さを自分の力で変えるための金メダル。

「多くの方に知ってもらうためにはメダルの色が大事かなと思いました」

 だから今、4年後の北京五輪を大きな目標として見据える。

「3度目の正直として、全力で獲りに行きたいです」

 そのための手がかりとして、世界選手権をあげる。

「今シーズンと2シーズン後の、2回あります。レース内容というか、大会の雰囲気自体はオリンピックに似ている。2年に1回か4年に1回かの違い。世界選手権を獲れればオリンピックの金メダルにも近づくし、確実なものとなる。さらに厳しい4年になると思うけど挑戦していきたいです」

 ノルディック・コンバインドという競技における、周囲の価値観とのギャップを埋め切れなかった。壁を壊せなかったし、競技の魅力を浸透させるまでに至らなかった。

 理解のなさを嘆くことなく、自分の力で変えたいと、新たなスタートを切ろうとしている。

文=松原孝臣

photograph by AFLO

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