サッカー界で国境が急速に無意味に。「自国の代表監督」にこだわるな。

サッカー界で国境が急速に無意味に。「自国の代表監督」にこだわるな。

 そこがいいのだと言う人もいるだろうが、イギリスで残念なのは天候と食事だと個人的に思い込んでいる。だが、食事に特段こだわりを持たない父いわく、今までで一番おいしいカレーをいただいたのは、ロンドンだそうだ。

 以前、マルセイユのレストラン、というよりも食堂にふらりと入ったときのこと。モロッコでよく食べられるクスクスが、普通に供されていた。

「おいしいか?」

 問いかけてきた店員に、もちろんだと答えると、顔をくしゃくしゃにして喜んでいた。

 今年の6月に開幕するロシア・ワールドカップ(W杯)に5大会ぶりに出場するモロッコ代表は、ヨーロッパ風味である。

欧州で生まれ育つアフリカ国籍選手。

 マルセイユでプロとして歩み始め、ウディネーゼとローマを経て、最近はバイエルンにユベントスと各国王者でプレーする大黒柱のメディ・ベナティアは、フランスで生まれ育った。

 このキャプテンを筆頭に、オランダ生まれのノルディン・アムラバト、アヤックスやチェルシーの下部組織で成長したムバラク・ブスファなど主力の多く、いやメンバーのほとんどがヨーロッパを“地元”とし、育まれてきた選手たちだ。

 ライトバックのアクラフ・ハキミは2年前の2016年10月、17歳でフル代表にデビューした。同じ年にはU-23代表でも「飛び級」を経験しているが、U-17、U-20とモロッコ代表のユニホームに袖を通してきた。

 そんな彼の生誕地は、スペインの首都マドリードだ。今シーズンから正式にトップチームに昇格したレアル・マドリーでは、ジネディーヌ・ジダン監督からも高い評価を受けている。

地元出身者で固めるチュニジアは意固地?

 アフリカの「地図」、いや「勢力図」は書き換えられたのだろうか。

 今年のロシアW杯でアフリカ大陸からやって来る5チーム中、連続出場するのはナイジェリアだけである。お馴染みのカメルーンやガーナ、コートジボワールは予選で敗退した。

 北アフリカ勢が2枠以上を占めるのは、20年ぶりとなる。モハメド・サラーが世界中で話題となるエジプトとともにロシアへ向かうのが、前述のモロッコと、チュニジアである。

 チュニジアとモロッコは、ともに5度目のW杯となる。だが、選手たちの顔ぶれを見る限り、アプローチの仕方は随分異なるようだ。

 同国代表の歴代得点ランクでトップ10に入っているユセフ・ムサクニなど、チュニジア代表の主力は地元出身で、国内リーグや中東を職場としている。率いるナビル・マールール監督も、首都チュニスの生まれだ。モロッコと同じく深い縁を持つフランス生まれの選手が少ないのは、まるで意固地であるかのように映る。

「欧州産」で力をつけるのが世界の主流。

 だが、世界ではモロッコ風が主流である。

 イランは日本と同じく、国内リーグで育った選手をヨーロッパに送り込む、優秀な輸出国である。ウインガーながら今季のオランダ・エールディビジで得点王に輝いたアリレザ・ジャハンバフシュの決定力には、所属するAZの監督も目を丸くする。

 負傷からの復帰が待ち望まれているアシュカン・デジャガーは幼少期に移住したベルリンでサッカーを学んだし、前回W杯でイランの唯一の得点を挙げたレザ・グーチャンネジャドも、U-19までは幼くして移ったオランダの代表チームでプレーしていた選手だ。

 日本と対戦するセネガルも、守備のキーマンであるカリドゥ・クリバリーをはじめ、「欧州産」の選手たちがチームに欠かせない存在となっている。

 実際、モロッコの人々が代表チームをどう捉えているのかは分からない。だが、2026年W杯招致が成功したならば、アトラス・ライオンズ(代表チームの愛称)への期待はさらに高まるだろう。

 たとえ実現しなくとも、カナダ、メキシコとの共催を狙い、大統領が得意のツイッターで「我々を応援しない国々を、どうして支援しなけりゃならんのか?」と力ずくでW杯をつかみ取ろうとけん制するアメリカに立ち向かうとなれば、俄然盛り上がりは増すはずだ。

なぜ自国人の代表監督にこだわるのか。

 とにかく。本場のものだろうが文化的輸入品であろうが、美味い物は美味いのだ。世界の趨勢が、そう物語っている。

 頑なな姿勢を見せていたかと思われたチュニジアも、前線の核であるムサクニの負傷も後押しとなったのか、今年に入って初招集したフランス生まれの若手3選手がW杯メンバー入りに近づいている。

 世界を旅すれば分かる。地元の居住者のみならず、なかなかたっぷり野菜が摂れない旅行者には、安価で美味なケバブは欠かせない。日本の国民食であるラーメンは、世界各地でさまざま発展を続け、ご当地の味として定着している。もちろん、スシ、テンプラは世界の共通語。カリフォルニアロールを寿司だと認められないならば、口にしなければいいだけのことだ。

 断絶が悲しいニュースとして伝えられるのは、世界がつながっていることの裏返しだ。今年もまた4年に1度の世界の祭典が、その事実を心に訴えてくることだろう。

 それなのに。

 W杯という檜舞台に上がる代表チームの責任者たちが、本当に「W杯後の代表監督も自国の人間で」と、根拠の見えない人選にこだわるのなら、選手たちとは裏腹に世界との距離はさらに開いていく。

文=杉山孝

photograph by Takashi Sugiyama


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