バレーで欧州3カ国を渡り歩いた男。古賀太一郎、海外との向き合い方。

バレーで欧州3カ国を渡り歩いた男。古賀太一郎、海外との向き合い方。

 今年度の全日本男子チームには、今シーズン(2017/18シーズン)海外リーグでプレーした選手が過去最高の4人いる。

 主将の柳田将洋、石川祐希、大竹壱青、そしてリベロの古賀太一郎だ。

 今季初めて海外に出て、ドイツ1部リーグのバレーボール・バイソンズ・ビュールでプレーした柳田は、キャプテンを任され、攻撃の中心として活躍した。

 その柳田に、「中堅レベルのリーグからスタートし、ステップアップの足がかりを作ったというのは、今後海外を目指す選手のモデルケースになるのでは?」と聞くと、こう答えた。

「それを言うなら古賀太一郎さんですね。あの人こそリスペクトできるし、日本人もちゃんとステップを踏めば、トップレベルのリーグでバレーができるってことを現実にしてくれている。自分がこうなってみて改めてすごいと思います」

 石川も以前、同様の発言をしていたことがある。

昨年には柳田にも声をかけた。

 その話をすると、古賀は照れくさそうに言った。

「自分はそんな、誰かのモデルになろうなんて思っていないし、『オレのうしろについてこい』なんて感じでもない。ただ、そういう(海外でプレーする)選択肢もあるんじゃない? というだけです」

 そう言いながらも、海外に興味を持っている選手から連絡がくると、「じゃあオレのエージェントに聞いてやるよ」と親身になって相談にのる。

 昨年は、古賀が契約したポーランド1部のザヴィエルチェがアウトサイドの選手を探していたため、柳田に声をかけた。

「海外に行きたいというのは聞いていたので、柳田に『オレの方から監督に言うこともできるよ』と言ったら、『もう(ビュールとの契約に)サインしちゃいました』って(笑)。タイミングは合わなかったけど、そういうところから行くチームというのは広がっていくものなんです。サポートというほどじゃないですけど、自分ができることはやります。海外に出たいという選手が増えればいいなと思うので」

フィンランドで視界が開けた。

 古賀が初めて海外に出たのは2015-16シーズン。最初はただ出場機会を求めての選択だった。国際武道大学からVリーグの豊田合成トレフェルサに入社したが、豊田合成には兄の古賀幸一郎がいた。幸一郎は絶対的な守護神で、太一郎の出番は少なかったため、活躍の場を求めるうち海外に目が向いた。

 最初の挑戦の場となったのは、古賀が「マイナーリーグ」と言うフィンランドリーグだった。そこで視界が開けた。

「もともと海外に興味があったわけではありません。海外で試合に出て、その後日本に戻って、兄貴とうまくスライドできればいいかなという考えでした。でも一度外に出てみたら、目標が変わったんです」

 海外でスキルアップし、よりレベルの高いチームへステップアップしていきたいという欲が生まれた。

リベロ部門で成績残し契約オファー。

 フィンランドで活躍すると、翌年はよりレベルの高いフランスリーグのパリ・バレーに所属。そして今シーズンは、イタリア、ロシアと並び世界トップレベルのリーグと言われるポーランドのザヴィエルチェに移籍。ポーランドリーグでプレーした初の日本人選手となった。

 古賀はリベロ部門トップの成績を残し、下部リーグから昇格したばかりのチームを16チーム中9位に押し上げた。

 来シーズン、ザヴィエルチェはより多くの資金を投入して実力選手を獲得し、プレーオフ進出を狙うという。そのチームが、早々に古賀に来季の契約を持ちかけた。

 ポーランドリーグには外国人枠があるため、リベロに外国人選手を使うこと自体がまれだ。しかも選手の移籍市場はスパイカーから先に動き、通常、リベロが決まるのは最後だという。しかしザヴィエルチェは「このチームは一番最初にリベロを決める」と古賀にオファーを出した。

「うちのエージェントも、『そんな話は聞いたことがない』と驚いていました」と古賀は言う。なんとしても手放したくなかったということだろう。

当初はプロ転向を考えていなかった。

 現在、古賀はプロ選手である。

 しかし、昨シーズンまでは社員として、豊田合成の海外育成出向制度を利用し海外でプレーしていた。当初はプロになるつもりはなく、昨年フランスから帰国した後、こう語っていた。

「企業スポーツの良さもあると思うんです。今、プロ化のいい面ばかり言われていますが、リスクもある。でも企業チームはリスクが少ない中でも、今のように海外に挑戦することは可能です。そこは日本のバレーボールの良さとして、前面に出す必要があると思う。汚い話になりますが、生涯年収がどちらが多いかというと、社員としてやる方が多いと思う。無理矢理プロ化に進むより、今の企業スポーツの形からいろいろと派生していった方が、バレーの普及の面でもいいんじゃないでしょうか。

 僕は豊田合成にとってもらって、今回、海外に行くにあたってもヘルプしてもらった。豊田合成に入部できたことによって今がある。だから、今いろんなオファーがあって、おいしい話が来たからそちらに飛びつくというのは、どうかなと……。自分はバレーの技術が向上すれば、それ以上求めるものはないし、会社も協力してくれているので、プロは考えていません」

「これ以上無理、の時どうするか」

 海外に行く上で、社員であるデメリットはないかと聞くと、こう答えた。

「ないんじゃないですか。リスクがないことによってプロ意識に欠けると言われたらそれまでですが、そこは個人の気持ちの持ちようですから。海外に行けば誰も助けてくれないので、自然とハングリー精神も身につきますしね。

 だからデメリットは特にない気がしますけど……あ、1つありますね。会社に所属しているので、自分がやりたいからといって、いつまででも海外で、というのは不可能ですよね。これ以上は無理、となった時にどうするか。自分の目標と、会社のプランニングがズレた時には悩むかもしれません」

家族の言葉もあり、海外を選択。

 昨年の夏、まさにその状況に直面した。

 古賀は既に海外育成出向制度を2シーズン使っていたため、それ以上、同じ形で継続することは難しいと判断された。

「社員はみんな平等に扱わなければいけないので、僕だけ3年も4年もというわけにはいきませんからね……」

 社員として国内でプレーするか、社員を辞めて海外でのプレーを選ぶか、逡巡した。海外で続けたい思いは強かったが、家族のために安定した生活も手放したくはない。

「でも最終的には家族が『好きなようにやればいい』と言ってくれたので、『じゃ好きなようにやる!』と(笑)」

 そうした経緯で古賀はプロ選手となり、豊田合成はスポンサーとしてサポートすることとなった。

“名前負け”を日本から払拭したい。

 海外でプレーする中で古賀が得たものの1つは、「世界の中での自分の立ち位置がわかったこと」だと言う。

「そこはシーズンを通して行くことによって、だんだん鮮明になります。最初は不安でしたが、思っていたよりも通用する部分があった。もちろん上には上がいますけど。Vリーグのレベルが低いわけじゃないですが、世界と戦うのが目標なのであれば、やっぱり海外に出て、そういう視点を持つことが絶対にアドバンテージになる。日本人同士でやっていても、その中で得た自信は、海外とやる時の自信にはつながりませんから」

 昨年、古賀は全日本に選ばれた。

 だが、デビュー戦となるはずだった7月の世界選手権アジア最終予選の直前に頸椎を捻挫してしまい出場はかなわなかった。だからこそ今年こそはと、期するものがある。

 プレーで貢献するのはもちろんだが、古賀が代表で示したいのは、メンタル面で世界と対等に向き合うということだ。

 相手のことを知らないと、実際の力の差以上に相手のことを大きく捉えてしまうことがある。いわゆる“名前負け”。日本代表からそういうものを払拭したいと密かに考えている。

全日本は可能性を秘めているから。

「今シーズンのポーランド、昨シーズンのフランス、欧州チャンピオンズリーグを経験して、自分としては世界と対等にできる自信はあります。

 それに今年の全日本はすごく可能性を秘めたチームです。でも自分たちが相手チームより下だと思ったら、対等な試合にはならないので、そうならないようなサポートというか、日本代表はしっかり世界と戦えるんだよというのを示したい。

 それができる選手は限られていると思う。福澤(達哉)さんや石川、柳田。自分にはそういう責任があるし、自分の発言には今シーズン裏付けもできたと思うので、コートで(世界の強豪と)対峙した時に、メンタルで負けずに世界としっかり戦える集団になる手助けができればと思います」

 古賀は以前、「『小さい=劣っている』と捉えること自体ナンセンス。小さな選手でも、海外で活躍している選手はいくらでもいる。低いから、パワーがないからと言ってもしかたがないんだから、『じゃあどうするか』というところに発想を持っていかないと」と語っていた。

世界を知るから、アイデアがあふれ出る。

 それはチームにも置き換えられる。今シーズン、組織立ったバレーをするポーランドでプレーして、「日本も同じようなシステムでやろうとしていたけど、これは大きい選手だから成り立つんだと気づいた」と言う。

「今年の全日本はサイズが小さいから、特にブロックシステムは、世界と同じことをやっていても差は縮まらない。独自の方法を探していかないと。例えば、相手のオポジットが後衛の時は、セッターは(相手の)ライト側でブロックに跳ぶとか、複数枚ブロックの時は端のブロッカーが一番高い方が後ろの選手が守りやすいから、ミドルブロッカーを端に置くとか……。単に自分の案ですが、監督と話してみようかと思います。日本は受け身になるんじゃなく、いろんな可能性を探って、何かやらなきゃいけないですから」

 世界を知っているからこそ、アイデアがあふれ出てくる。

 日本が世界トップとの差を縮めるのは簡単なことではない。

 しかし古賀の話を聞いていると、日本男子バレーの未来にも希望が湧いてくる。

文=米虫紀子

photograph by Kiyoshi Sakamoto


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