沢村賞の才能秘める広島・岡田明丈。異常に低い被打率を誇る球質とは?

沢村賞の才能秘める広島・岡田明丈。異常に低い被打率を誇る球質とは?

 人は未完成なものに、どこか魅力を感じる。この先が気になってしまう……と引き付けられる要因を「ツァイガルニク効果」と呼ぶらしい。

 プロスポーツの世界でも完成された選手のパフォーマンスに胸を躍らせながら、若い選手の才能にさまざまな未来像を描くことがある。

 プロ野球のセ・リーグペナントレースで首位を快走する広島にも、そんな楽しみがある。ファンは完成度の高い打線の攻撃力に心躍らせながら、若い選手が多い投手陣の投球にはやきもきしながらも「その先」の完成形に夢を描いているのではないか。

 その中でも、最高傑作とも言える「未完成」の投手こそ、岡田明丈だろう。5月14日現在、6試合に先発し、4勝0敗、防御率3.40の成績をマークしている。

沢村賞を受賞できるほどの才能を秘める。

 投手主要成績ではパッとせず、先発投手の指標のひとつであるクオリティースタート(投球回6回以上、自責点3点以下)率も67%と高水準なわけでもない。

 特筆すべきは被打率だ。

 セ・リーグの先発投手では唯一の1割台。1割9分6厘にとどめている。ここ最近でシーズン通して被打率を1割台に抑えたセ・リーグの先発投手は、昨季の巨人・菅野智之くらいしかいない。そして、彼は沢村賞を受賞している

 もちろん、岡田も沢村賞を受賞できるほどの可能性は秘めている。ただ、まだ「秘めている」という域は超えない。

 なぜなら、まだ投手として「未完成」だからだ。

独特の球質は「真っすぐが特徴的でカット滑りする」。

 未完成のものゆえ、見る者、見る視点からも、岡田の現在地は異なって見えるようだ。岡田評はさまざま。

 広島の井生崇光スコアラーは得意球の真っすぐを高評価。「真っすぐが特徴的でカット滑りする(カットボールのように変化する)。(右投げなので)いいときは左打者に食い込むように入っていく」。

 そう分析しながら「だからこそ岡田にはもっと真っすぐにこだわってほしい」とさらなる成長を期待した。

 昨季、被打率3割7厘と苦手にしていた左打者(右には2割1分7厘)を今季は1割7分9厘に抑え込んでいる。右にも2割1分1厘と苦にしているわけではない。

 バッテリーを組む会沢翼は「スライダー、チェンジアップがいいと、真っすぐが生かされる。岡田の真っすぐは相手も狙ってくるので、その中でスライダーなどが使えると大きい」と成長を認める。

岡田の球は「速くて、強い」(今村)。

 投球の軸はやはり真っすぐ。

 岡田自身、昨季まで「自分の中で球種は1つというくらい。ストレートと同じくらいのレベルまでには、どの球種も行っていない」と話していた。しかし変化球の精度向上によって、そのストレートはさらに威力を増した。

 では、岡田の真っすぐの特徴とは……。

 同じ投手の今村猛は「速くて、強い」と表現する。「(球の)回転数とは違う。きっと球持ちがいいんだと思う」

 球速や軌道だけでは計れない「強さ」が岡田の真っすぐにはあるという。

昨季後半、二軍降格になった事情とは?

 入団して3年。未完成の精度は着実に上がっている。

 ここまで6試合に登板し「昨年よりは確率的には上がっているかな。そのイニングを伸ばせている」と手応えを口にする。確かなものを掴んだのは、3本塁打を浴びた4月25日DeNA戦(横浜)。

 7回7安打5失点も、勝ち投手となった。

 大量リードがあったからこそ、マウンドで試したことがあった。それは、力感だ。

「昨年は最初からぶっ飛ばす、というくらいで投げていた」

 力を入れすぎた力感は、ハマッたときは力を発揮できても継続することが難しく、安定感に欠く。それを昨季の投球が示していた。

 前半戦好スタートを切りながらも、シーズン中盤からバランスを崩し、立て直せないままシーズン終盤には二軍降格を味わった。

いくら長打を浴びても冷静だった岡田。

 ちょうどいい力感を求めながら投じた87球だった。

 今季本塁打を浴びたのはこの試合だけ。しかも3本。コースにこだわって無駄な走者を溜めないように、ストライクゾーンの中で勝負する投球に徹した結果だった。

 その中で力の入れ具合、抜き具合を試行錯誤。いくら長打を浴びても、マウンドでは冷静だった。

「調子は良くなかった。でもすごい点数を取ってもらって、力感をテーマにして入った。マウンド上で『ああ、この感覚では(球が)高くなるな』とか整理できた」

「自分が投げ切れたか、投げ切れなかったか」

 続く5月3日巨人戦(マツダスタジアム)は8回3安打2失点、9日DeNA戦(マツダスタジアム)は完封目前で失点も8回2/3、1失点と抜群の投球を続ける。

 確かな手応えを感じているものの、それが過信にはなっていない。被打率1割台も「そうなんですか。打たれている感覚しかない。毎回ランナーを出している気分なんで」と苦笑いする。

 リーグワースト15位タイの13四球を与えている制球面は、課題の1つでもある。

「打たれた、打たれないは別で、自分が投げ切れたか、投げ切れなかったか」

 まだ自分との戦いの中にいる。

 自分の投球ができれば、抑えられる。

「自分の完璧な投球、配球ができたときはあまり(打たれた記憶が)ないですね。なんで打たれたんだろうというのはない」

 絶対的な自信は揺るがない。

「ただ立っていればいいわけではないと思う」

 のほほんとした印象もあるが、野球人としての探究心は強い。

 スコアラーが持つ映像データを自分のパソコンで確認。自分の感覚と客観視したイメージをすり合わせる作業は怠らない。

 また、入団1年目の一昨季、打率7分4厘に終わったことで打撃の個人練習を始めた。

「少しでもチームの流れに加われるように。バントでないケースでも、ただ立っていればいいわけではないと思うので」

 オフには30分間、1人でマシンを相手に振り込んだこともあった。昨季は1割2分8厘に打率が上昇し、広島投手陣最多の8打点をマーク。相手投手に警戒心を与えるため、映像で見たメジャーリーガーをまねた構えにする工夫もある。

 投手として、野球選手として、自分自身が「未完成」であることを自認し、より高い理想の先に「完成図」を描いていることこそが最大の魅力なのかもしれない。

 ファンは、岡田のその先にある未来が気になる、「ツァイガルニク効果」で引き寄せられている。

文=前原淳

photograph by Kyodo News

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