Bリーグ準々決勝のビッグショット。三河・比江島慎が天を指した理由。

Bリーグ準々決勝のビッグショット。三河・比江島慎が天を指した理由。

 昨シーズンのセミファイナル第3戦、シーホース三河は栃木ブレックス相手に残り30秒で2点をリードしていた。ところが、頼りになるはずの比江島慎が時間を最大限使うことを優先せず、得点機会と感じて仕掛けてしまう判断ミスが要因となり、まさかの逆転負けでB1制覇を逃した。

 鈴木貴美一コーチはタイムアウト中における自身の指示が甘かったことを悔やみ、大黒柱である桜木ジェイアールは、第3戦で1分もプレーできなかったことに対するフラストレーションを感じてのシーズンエンド。比江島はこう語る。

「常に(あの敗戦が頭の中に)ちらついていましたし、本当に成長した姿をファンの皆さんに見せたかった。絶対勝たせるという強い気持ちを持ったので、去年とは気持ちの部分で違いました」

 今シーズンの三河はこの敗戦を1日たりとも忘れることなく、モチベーションとして全員で共有し、戦い続けた。

 60試合のレギュラーシーズンでB1最高成績を残すと、チャンピオンシップのクォーターファイナルで、チームのだれもが待ちわびていた栃木へのリベンジの機会を手にする。

第2戦の終盤、栃木の猛攻にさらされ……。

 第1戦は3Q途中で7点をリードされる展開になったが、ディフェンスの奮闘と金丸晃輔の26点という爆発が決め手となって、77−63のスコアで勝利。

 第2戦も橋本竜馬が3Pシュートを3本決め、シーズン途中で加入したコートニー・シムズも12点、11リバウンドと奮闘したこともあり、三河は最大で21点のリードを奪った。

 しかし、オフェンスの起点となる桜木ジェイアールが3Qでファウルトラブルに陥ってベンチに下がると、試合の流れは一変。栃木の猛攻がスタートする。

 鵤誠司の3Pシュートをきっかけに13連続得点を奪われると、三河は桜木を4Q残り5分24秒にコートへ戻したものの、わずか6秒後にドライブしたジェフ・ギブスに対するディフェンスで5つ目をコールされてファウルアウト。

 冷静で的確な状況判断ができる点でも貴重な存在を失った三河は、じわりじわりと差を詰められていく。

唯一の選択肢は比江島のアイソレーション。

 残り31秒で田臥勇太に2本のフリースローを決められ、76−75の1点差になった直後のオフェンスは、正に昨年のことを思い起こさせるような局面。桜木がもう出られなくなったことに加え、栃木の徹底マークで金丸がシュートをほとんど打てない状況が続いたことからすれば、三河にとっての選択肢はたった1つ。比江島が1対1で攻めるアイソレーションだった。

 ビッグマンをスクリーンにしてのピック&ロールからオフェンスを仕掛けると、栃木のディフェンス対応次第で比江島はチームメイトにパスせざるを得なくなる危険性もあった。

 この状況とターンオーバーの危険性を極力避けるための作戦としては、喜多川修平との1対1からシュートを打つのが、三河にとってベストの選択。栃木もアイソレーションで来るとわかっていたものの、ヘルプに行くか否かの決断を下すのが非常に難しかった。

「昨年の悔しい思い出が甦えるというか、パスだけはしない、自分が(シュートを)打ち切る。落ちても(アイザック・)バッツやシムズが(リバウンドを)取ってくれると信じていたので、気楽にではないですけど、打ち切ることだけを考えていました」

 こう語った比江島は、ゴール正面でドリブルからゴールへアタックすると見せかけながら、左側へ少し動いたところでジャンプストップ。躊躇することなく放たれたシュートは、見事にリングの間を通過する。

 残り11.9秒でスコアは78−75。ウィングアリーナ刈谷に駆けつけた三河ファンの大歓声が湧き上がる間、普段あまりジェスチャーをしない比江島が、少し顔を上げながら、人差し指を天に向けた。

「見ているのかなと思ったので、母に向けてやりました。母の日なので、それも多少意識はしていました」

シーズン終盤に母を亡くす辛い経験。

 レギュラーシーズンの終盤、比江島は母親の淳子さんを亡くすという辛い経験に直面した。日本代表の海外遠征時に必ずと言っていいくらい現地まで駆けつけて応援するなど、淳子さんは比江島にとって掛け替えのない存在。

 2016年のリオデジャネイロ五輪最終予選が行われたセルビアのベオグラードでも、淳子さんの姿はあった。五輪最終予選の代表として一緒にプレーし、淳子さんとの面識があった松井啓十郎は、次のように話す。

「うちらが一番一緒に時間を過ごすじゃないですか、練習でも試合でも遠征でも。そういう中でうちらが少しでも比江島がここも家族だという雰囲気を創り出さなきゃいけないし、比江島も優勝してお母さんに報告したいと思うから、そういった意味で最後のシュートや攻め気というのはそういう風に見えたのかな。母の日ということも含め、そういったことが全部混ざっていたというのはありますね」

あのジェスチャーに込められた意味。

 あのビッグショットが決まった瞬間、“母親が最愛の息子のためにもたらしたもの”ということが筆者の頭の中をよぎる。

 比江島とチームメイトになって5年の桜木も、「正にその通りのことが起こったということさ。すごくハッピーな気分になったよ。シュートを決めたことは、彼にとって(昨年の悪夢を)払拭するものだったから、見ていてすばらしいと思ったね」と口にした。

 2018年5月13日。因縁の相手に決めたビッグショットは、亡き母への思いがこもった比江島からのすばらしいプレゼント。あのジェスチャーには、こんな意味が込められていたと言っていいだろう。

 Happy Mother’s Day!

文=青木崇

photograph by B.LEAGUE


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索