ク・ソンユン「札幌は1つの家族」韓国のクルトワに股抜きは通じない。

ク・ソンユン「札幌は1つの家族」韓国のクルトワに股抜きは通じない。

 座って話している顔を覗き込むぶんには、まったく気づかない。ところが、立ち上がった全体像を見て「えっ」と驚く体型の人間というのが、ごく稀にいる。

 小顔で長身。この類の人はそうそういるわけではない。女優の榮倉奈々などが、その典型だろう。そして、サッカー界にもそんなシルエットを持つ選手がいる。

 ク・ソンユン。今シーズン、想像以上の躍進を見せる、北海道コンサドーレ札幌の23歳の門番だ。

 195cmの身長は、Jリーグでレギュラーとして活躍するGKのなかでは、FC東京の林彰洋と並んで最長身。しかも体重は82kgと細身だ。体型的に見ると一時代前のオランダ代表のファンデルサール、

 現在でいえばベルギー代表のクルトワのような部類だろう。東アジアの人間としては珍しい体型。その意味でク・ソンユンは、現代サッカーのGKとしての最先端に合致しているといえる。

身長と同じくらい、肩の高さが大事。

 日本ではGKの体格を単純に身長だけで比較しがちだが、厳密にはそうではない。肩の高さの位置が重要になる。「肩が高い=手足が長い」ことを意味する。ボクシングでいうリーチの長さだ。

 指先の第一関節で触れるだけでシュートの軌道を変えるというGKのプレーの特性を考えれば、数cmでもリーチが長ければ、それだけ有利になる。

 サイズを活かしたク・ソンユンのゴールキーピング。

 今シーズンの第10節、対横浜F・マリノス戦の開始3分のプレーが典型だろう。至近距離から、頭上を襲ったウーゴ・ヴィエイラのヘディングシュート。ク・ソンユンはクロスバーぎりぎりにきたそのボールを、ジャンプもせずに両手でディフレクトした。

 一見、簡単そうに見えるこのプレーは、反応の速さはもちろんだが、長身であるからこそ可能なものだった。

高3でセレッソに加入し、日本へ。

 韓国の在鉉高校3年時にセレッソ大阪の目に留まった。それが日本との出会いとなった。18歳の誕生日を迎えた翌月の2012年7月に入団テストを受けて、高校在学のままセレッソ大阪U-18に加入。翌8月には2種登録選手ながらトップチームに登録された。

 しかし、チームには韓国代表GKのキム・ジンヒョンが君臨していた。公式戦での出番はなかった。

 2015年にコンサドーレへ完全移籍したことが転機となった。新天地でレギュラーをつかみJ2での活躍が認められたことで、韓国五輪代表の正GKの座を獲得。2016年リオデジャネイロ五輪では、4試合中3試合に出場しベスト8進出に貢献した。

 来日してもうすぐ丸6年になる。本人は「あんまり日本語がうまく出てこないです」と笑って謙遜するが、とても流暢に日本語を話す。その語学の上達と同様に、サッカーでも充実の時を迎えている。

長身GKの弱点である股下もケア。

 今シーズンのコンサドーレは、第14節を終えて7勝5分け2敗の3位と誰もが予想しなかった順位を走っている。

 無敗記録も第4節から11試合に伸ばした。躍進の基盤となっているのが守備力だ。昨年、第14節時点での失点は21だったのに対し、今年は13。明らかに向上している。その一翼は、間違いなくク・ソンユンが担っている。しかも、高いレベルで。

「僕自身、無敗記録ということはあまり気にしていないんで。とりあえず目の前の試合を勝つ。そういう気持ちでやっている。失点が少なくなっているのは、うちのサッカーの守備のスタートが前になっているから。それがいいんじゃないですかね」

 結果はスコアレスドローとなったが、2位・FC東京との上位対決となった第14節でも素晴らしいプレーを見せた。

 44分の大森晃太郎のミドルシュートを、魔法のように伸びる左手一本でセーブ。54分には右サイドを抜け出した室屋成との1対1を「股抜きもあるから気をつけなければいけない」と低い姿勢で入って、左足でブロックした。

 長身GKの最大の泣き所は、股の下。その弱点をケアした上での判断は、とても熟考されている。

自分のミスで負けた試合。そして……。

 プレーの一つひとつに、研ぎ澄まされた集中力を注ぎ込まなければいけない。教訓を得た試合があった。昨年8月9日に札幌ドームで行われた第21節のマリノス戦だ。

 0−2で敗れたこの試合で、メディアはク・ソンユンが犯した2失点目となるオウンゴールを大きく取り上げた。右サイドの松原健の低いクロスをセーブしにいって、自陣ゴールに弾き入れてしまった。

 しかし、そのGKがより高い要求に応えられるポテンシャルを備えるのであれば、1失点目にも言及すべきだろう。扇原貴宏のワンバウンドのヘディングシュート。記録上はオウンゴールにはならなかったものの、右の肩口で弾いてしまった失点も、GKの責任と言われてもしょうがないものだった。

「2点とも自分のミスだったと思う。試合は自分のせいで負けちゃったと思います」

 そして時が経ち、いまはこう言える。サッカーには、最高の喜びを得るための最悪の試合があるのだと。

「ク・ソンユン、俺たちを救ってくれ」

 4日後のヴァンフォーレ甲府との第22節、ドラマは同じ札幌ドームで待っていた。

 試合前のウォーミングアップ。サッカーの場合、真っ先にピッチに入るのがGKのグループだ。ク・ソンユンは、いつも通り金山隼樹とGKコーチとともにピッチに入った。

 目に飛び込んできたのは、ゴール裏の横断幕だった。感動的な内容だった。そこにはハングル文字で、「ク・ソンユン、俺たちを救ってくれ。チームを助けてくれ」の文字が。サポーターは自分のミスを責めるのではなく、励ましの言葉を贈ってくれたのだ。

「いやー。本当に鳥肌が立ちました。泣きかけましたね。感謝しかなかったです」

 これまでの人生で味わったことのない、心の奥から込み上げてくる深い感情。ク・ソンユンが心から救われた瞬間だった。

 この一件を境に、思いを強めた。

「僕たちは普通のプレーヤーとサポーターの関係じゃなくて、1つの家族という感じですね」

 文字通り「北の家族」のために、ク・ソンユンは新境地を突き進むコンサドーレのゴールを守り続ける。加えて、その長身の体躯を活かしたゴールキーピングに注目したい。そのプレーは、これから出現してくるであろう日本、さらに東アジアの超大型GKを導く指針に必ずや、なるはずだからだ。

文=岩崎龍一

photograph by J.LEAGUE


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索