テニスの試合後会見はスリリングだ。ジョコビッチや杉田祐一に見た内面。

テニスの試合後会見はスリリングだ。ジョコビッチや杉田祐一に見た内面。

 テニス選手にとって試合後の記者会見は義務である。メディアからの要請があれば、正当な理由なしに拒否できない。敗れた選手でも同じ。ミックスゾーンを素通り、はありえない。

 試合終了後1時間前後で行なうことが多いため、興奮と歓喜、失意と落胆をそのまま会見場に持ち込む選手も多い。泣きはらしたような目であらわれたり、心の中で泣いているのが分かる場合もある。大坂なおみが昨年、全米のインタビュールームで涙を流したように、選手が急に泣き出すのも珍しい出来事ではない。

 ただ、感情や心の内をストレートに吐き出す選手は少数派だ。

 今はテレビのコメンテーターもつとめる沢松奈生子さんは、様々な思いを一度飲み込んだうえで、冷静に、しかも記者が使いたくなるような気の利いたフレーズを織り込んでくれることが多かった。試合後、涙を流すこともあったが、シャワールームで悔しさと一緒に洗い流し、会見に臨むと聞いた。

グルテンフリーのスイーツを配るジョコ。

 いずれにしても、選手が素顔をさらす貴重な機会である。ときには自分を守ろうと虚勢をはり、両者の間に透明な壁が立ち塞がるケースもあるが、それはそれでスリリングだ。

 ノバク・ジョコビッチは第一人者にふさわしく、どんな質問にも丁寧に冷静に受け答えする。ビッグトーナメントの優勝会見で、記者たちをねぎらおうと(グルテンフリーの)スイーツを配るのも恒例行事だ。ただ、意地の悪い質問にやや気色ばんで答えたり、母国セルビアに関する質問に長広舌をふるうこともある。

 マドリードでジョコビッチは初戦で錦織圭に競り勝ったが、2回戦で若手のカイル・エドモンドにフルセットで敗れた。ジョコビッチは試合終了後すぐ会見場にやってきた。

 シャワーさえ浴びていない様子。悔しさや失意を洗い流すだけの時間はなかっただろう。

ポジティブさが強く出すぎた感も。

「負けたことはもちろん残念だが、テニスの向上についてはうれしく思っている。2試合しかしていないんだ。でも、その二人はタフな相手で、タフな試合だった。ポジティブな要素を見つけることもできる」

 ジョコビッチは感情を封印し、淡々と答えた。ただ、ポジティブであろうとする気持ちが強く出すぎた感もあった。

「世界が終わるわけじゃない。長年プレーしてきて、山ほど成功も収めてきた。僕はそれを心にとどめたいし、そのことをうれしく思っている。誰かに強制されてプレーしているのではない。自分がやりたいから、好きだからやっていることなんだ。それが僕に幸せをもたらす。強さの源なんだよ。テニスが好きでいる限り、前に進みたい。それだけです。ありがとう」

 長年、運命共同体を築いてきたコーチのマリアン・バイダやフィジオなどのスタッフが約1年ぶりに陣営に戻ったが、復調への道はまだ険しい。グルテンフリーにとどまらず、完全菜食主義に踏み切ったといううわさも聞こえてくる。ジョコビッチの今がくっきりと映し出された会見だった。

「トップレベルで悩めるのは貴重」

 杉田祐一のマドリードとローマでの記者会見も興味深かった。彼も昨年の好調から一転、もがいている。初戦敗退はローマで8大会連続となった。

 マドリードでは、こんなやりとりがあった。遅咲きの杉田は以前、負けが込むとなかなか抜け出せない悪癖があった。それを念頭に「なつかしい感じではあります」と自虐的なジョークをかまし、こう続けた。

「トップレベルでこうして悩んでいられるというのは本当に貴重な経験」

 四大大会本戦出場をなかなか果たせず、苦しんでいた頃に比べれば、贅沢な悩み、次のステップにつながる経験という意味だろう。

 選手とは、こうやってポジティブな要素をいくつもつなぎ合わせてツアーの過酷さと闘うのだ。

ローマでは「3分でお願いします」。

 ローマでは、会見場に姿を見せると「3分でお願いします」と牽制球を投げてきた。

「あまり気にしていなかったんですが、けっこう負けが込んで、みんなに心配されて、あれ、俺、そんなに負けているのかと。なんか、そこから迷走ではないですけど、ちょっと抜け出せなくなっている感覚はあるんですけど、そこはあんまり言いたくないっていうか。

 弱っているような感じは見せちゃいけないというのはあります。とは言っても、ひどすぎる試合が続いているので、どう立て直すか、今、考え中です」

 ネガティブな言葉を口にすれば、ますますその感情に支配されるので、それを避けたいのだ。

「調子いい選手は生き生きしていますし、エネルギーが出ている。それは今、自分にないのかなとは思っていて。でも、そういうふうに思われたくないというのもありますし、自分自身でもそういう状況を作り出してしまったらだめだと。一回、怒りからパワーを出したいとも思ったんですけど……。ドイツ(ミュンヘン)でラケット折って。

 でも、折ってもエネルギーが出てこないですし。一番ダメですね。とにかくどんな形であれ、自分のエネルギーをコートに置いてこないといけないんですけど、それがうまいこといってないのが残念、そこが一番悔しいです」

結局10分近く、内面を言葉にした。

 杉田は、あまり言いたくないと言いながら、現状をさらけ出した。弱っているように見られたくない、という複雑な内面も率直に言葉にした。

 3分間の約束だったが、結局、通常の記者会見と同じ10分近い取材となった。

 悔しい負けを味わっている選手の会見は、だから我々には貴重な機会なのだ。

 蛇足になるが、こうした10分間が、選手にとって冷静に試合を振り返る機会になれば、自分の考えをまとめ、次のチャレンジへのモチベーションの一助になれば、と心の隅で思いながら、彼らの話を聞いている。

文=秋山英宏

photograph by Getty Images


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