正式メンバーとしての米ツアー初戦。小平智と、彼を支える4人の仲間。

正式メンバーとしての米ツアー初戦。小平智と、彼を支える4人の仲間。

 今年のマスターズ出場を目指して、アジアやメキシコ、アメリカの大会に次々に挑み、見事、オーガスタへの切符を手に入れた小平智。

 初出場したマスターズでは堂々4日間を戦って28位になり、その翌週、RBCヘリテージでは韓国のキム・シウとのプレーオフを制して米ツアー初優勝を遂げた。

 米ツアー正式メンバーとして臨んだ最初の大会は「第5のメジャー」と呼ばれるプレーヤーズ選手権だった。米ツアー優勝者としてトーナメント会場に足を踏み入れれば、眼前に広がる風景は以前とは何かしら変わるのではないか。

 そんな想像を巡らせながら、TPCソーグラスのクラブハウス前で小平を待った。

 やがて1台のオフィシャルカーが近づいてきた。助手席に座っていた小平は、通りすがりに笑顔で会釈。車は選手用の駐車場へと進み、「Reserved for Satoshi Kodaira」とネームプレートが掲げられた小平のための専用スペースに停まった。

「おはようございます。今週も頑張ります。じゃあ、ちょっと練習してきます」

 車から降り立ち、そう挨拶した小平に緊張の色は見られなかった。

 振り返れば、2月にメキシコ選手権で会ったときも、3月にアーノルド・パーマー招待やマッチプレー選手権で会ったときも、彼はいつも同じ表情をたたえ、いつも同じトーンで話した。「ずっと目指してきた」という夢のオーガスタで会ったときでさえ、彼の表情や口調は、やっぱりいつも通りだった。

「そこが小平智らしさなんです」

 そして、プレーヤーズ選手権初日のスタートホール。

「2018 PGAツアー・ウィナー、サトシ・コダイラ!」

 そのアナウンスを聞いたとき、小平は「ここがこれから主戦場になるんだな」とは思ったが、「緊張は全然なかった」。いつも通りで緊張も気負いもない。

「そこが小平智らしさなんです」

 彼を支える面々は、みな、そう言っていた。

準備期間なしで大海原へ漕ぎ出した5人チーム。

 日本人選手が米ツアーに本格参戦を開始した過去の例を振り返れば、Qスクール(予選会)を突破して翌年のツアー出場権を手に入れたり、あるいはスポット参戦を続けた末にテンポラリーメンバーから正式メンバーへと進んでいった先人たちには、正式メンバーとして参戦を開始するまでに、それなりの準備期間があった。

 だが、スポット参戦でいきなり初優勝した小平の場合は、準備期間のない状態で本格参戦を開始することになり、体制を整える余裕がないまま、手持ちの船で大海原に繰り出している。

 小平と常に行動を共にしているのは4人。ロープ内で小平を支えるのは、ベテランキャディの大溝雅教。

 そして、マネージャーの三上諒は小平の日大ゴルフ部時代の1年先輩に当たり、かつては用具メーカーに勤めていたが、数年前から世界を目指す後輩・小平のマネージャーを務めている。

 三上はつい最近婚約したばかりだそうだが、その矢先に小平の初優勝、米ツアー参戦となり、「いやあ、これからどうなるんだか」と苦笑して見せたが、彼の目には希望の色が溢れている。

仕事ではないのに手伝ってくれる人たち。

 小平の契約先である株式会社ヤマニの社員、桐生賢太郎はウエア担当だが、マネージャー的な業務も三上とともにこなしている。

 ヤマニはウエアやバッグ、練習器具などを扱う会社で、世界各国、全米各地に拠点を持つ総合商社の豊田通商とつながりがある。桐生は商社のネットワークと連携して「試合のエントリー手続きや通訳をお願いしたり、現地のホテルやレストラン情報を提供してもらっています」という。

 商社マンにしてみれば、そうやって小平の試合会場に出向き、アシストすることは本来の業務ではなく、ゴルフをまったくやらない人ももちろんいるそうだが、「みな笑顔で小平に手を差し伸べてくれるんですよ」。桐生はうれしそうに、そう言っていた。

「僕らは誰も英語が話せない」

「僕らは誰も英語が話せない」

 しかし、通訳はあえて雇わず、試合のエントリーなど最小限のアシストを商社マンたちから受ける以外は、自力でやりつつ、「早く英語に慣れ、上達したい」と桐生は言う。小平も英語の習得には意欲を見せており、同組の選手やキャディとは積極的に言葉を交わしている。

 そして、もう1人。小平の用具契約先であるプロギア(横浜ゴム)から派遣されているツアーレップの中村好秀も小平とともに歩み続けるチーム小平の一員である。なかなかクラブを変えたがらない小平の性格や考え方をよく把握している中村は「時に心を鬼にして」小平を叱咤激励しながら支えている。

 大溝キャディはロープ内の世話役。三上は小平自身の世話役、桐生は小平のウエアを含めた転戦の世話役、中村はギアの世話役。

 彼ら4人によるサポート体制は、米ツアーで初優勝を挙げる以前も現在も変わってはおらず、今まで通り、いつも通りのサポート体制に小平が絶大の信頼を置き、それを快適だと感じているからこそ、彼は米ツアーという新たな環境に飛び込んだ今、その変化にどんどん順応していけるのではないだろうか。

基盤があるからこそ、変化に対応できる。

 何もかもがすべて変化してしまったら、何事も収拾は付かなくなるもの。しっかりとした基点や基盤があるからこそ、そこを頼りに別の何かを変えていくことができる。

 小平はプロだった父親から授かったゴルフの技術を基盤にして、そこに自分自身の工夫を加えながら上達への道を歩んできた。

「小平はとても研究熱心。気になる選手のスイングを動画に撮り、分析しては自分で試しています」と中村が明かしてくれた。

 そう言えば、マスターズ出場を目指してメキシコやアメリカで試合に出続けていたころ、ショットに苦戦していた小平は「試したいことがあるので」と言い、その翌週は「試していることがあるので」と言い、マスターズ出場が決まったころは「間に合って良かった」と安堵の表情を見せた。

「日本では予選落ちしないけど、こっちでは落ちる」

 それが、マスターズでの健闘と翌週のヘリテージ優勝につながった。それが小平流の歩み方。ビッグ大会でいきなり特別なことをしようとするのではなく、培ってきた基盤に日々努力で変化を加え、時間をかけて地道に進み、その中でチャンスをモノにする。予選落ちしても、敗北しても、その中で必ず何かを得て、その後の糧にする。

 初出場したプレーヤーズ選手権は予選落ちとなったが、小平の表情は明るかった。「まだコースに馴染めていない。初めてのコースということもあって経験不足」と謙虚に振り返る一方で、「ショットは悪くない。パットも最後のほうは良くなった。こういうゴルフをしていたら日本では予選落ちしないけど、こっちでは落ちる。それがアメリカの厳しさなんだろうなと思う」。

 厳しさを1つ噛み締めては、それを克服すべく努力する。そんな小平の傍らには、いつもの仲間の姿がある。小平と仲間たちが乗ったその船は、「いつも通り」と記した帆を掲げ、信頼と笑顔を糧に大海原を進んでいく。そんな彼らの船出を温かく見守っていたい。

文=舩越園子

photograph by Sonoko Funakoshi

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