サンウルブズを3カ月半追いかけて。スーパーラグビー初勝利は必然だった。

サンウルブズを3カ月半追いかけて。スーパーラグビー初勝利は必然だった。

 今シーズン、僕は別府で始まったプレシーズンの初日に行われるチームミーティングから、サンウルブズを追うという幸運を与えられた。

 ラグビーというのはものすごく「仲間」という感覚を尊ぶ世界だ。そのチームミーティングでチーム全員の前で紹介してもらった日から、ある日突然現れたカメラマンは、彼らとともに行動するという自由を与えられた。

 通常は試合前日に行われる夜のレクリエーションタイムにも、試合当日の朝に行われるミーティングにも、試合後のロッカールームにも、その場に居合わせることを許された。

 ここまで唯一立ち入らせてもらえないのは、試合前のロッカールームだが、ここは一種の聖域なのでシーズン終了まで入れることはないと思う。

 そのミーティングからおよそ3カ月半、サンウルブズの面々は近くで見ている側が吐きたくなるようなトレーニングを積み重ね、毎週毎週本当に細かい部分を修正しながら、限られた戦力と財力の中で懸命に戦ってきた。

負けるたびに伝わってきた「やっぱりな」。

 しかし、レッズ戦までの9試合、サンウルブズは負け続けた。初戦のブランビーズ戦で25−32の接戦を演じ、今季のチームへの期待感は高まったものの、その後はいい試合を演じては負け、悪い試合を演じては負けた。

 そして負けるたび、チームに対しての、やっぱりな、という雰囲気がひしひしと伝わってきた。

 それでも、これは身びいきでもなんでもなく、チームは歩み続けてきた。HCであるジェイミー・ジョセフも、コーチのトニー・ブラウンも、様々な言葉を絞り出して、選手たちの心を鼓舞していた。

 そして選手たち自身も決して投げ出すことも諦めることもなく、与えられたタスクを最大値でこなしていった。

20万のペルシア軍に挑む300人のスパルタ兵。

 そして何よりも、サンウルブズが負け続けた一番の理由は、単純に相手チームの方がこちらよりも強かったことだと、個人的には思うし、間違ってもいないと思う。

 まず、明らかに身体のサイズが一回り違う。当たり前だがどの選手もラグビーを熟知している。ワラビーズ、オールブラックス、スプリングボクス、世界の最高峰に位置付けられる代表チームでレギュラーを張っている選手がどのチームにも何人もいる。

 とにかくどのチームも、どんだけ強いんだよ、と思うほどに強い。スタート地点で一番弱いのはサンウルブズ、これは卑下するわけでも謙遜するわけでもなく、ただの事実だった。

 おまけにその一番下に位置するチームが、国内のスケジュールの事情で参加15チームの中で最もキャンプインが遅く、他チームが通常2、3カ月かけて準備してくるところに、わずか1カ月足らずの準備で挑むのだから、ある意味で勝てるわけはなかったのだ。

 プロップの浅原は映画のスリーハンドレッドに自分たちの置かれた状況をたとえた。20万のペルシア軍に挑む300人のスパルタ兵、非常にわかりやすく、実感のこもった表現だと思う。

勝ってほしい、ではなく勝つはず。

 レッズ戦は1週間のバイウイーク(お休み)を挟んで、ニュージーランド遠征の2週間後に行われた。遠征では、優勝争いの常連であるクルセイダース、2016年覇者であり今シーズンも今までのところ最強と評されるハリケーンズと対戦した。

 これまで書いてきたことと若干矛盾するし、試合の後で語ること自体後出しじゃんけん的な言葉であることを自覚して書くと、僕はサンウルブズはレッズに勝つと強く確信していた。

 勝ってほしい、ではなく、勝つはずだった。

明らかに右肩上がりで成長した3カ月間。

 1月28日から5月12日、別府からこの日の秩父宮に至るまで、サンウルブズは明らかに右肩上がりで成長し続けていた。3カ月の期間が過ぎ、他チームが通常準備に費やす期間をサンウルブズもようやく消化できていた。

 初戦からしばらくチームを固定することなく全ての選手を使い続けてきたHCのジェイミー・ジョセフは、次第にこのメンバーの中で一番勝てる可能性のあるメンバーを絞り始めているように見えた。

 彼の周りを固めるスタッフはアタックコーチのトニー・ブラウンからチームマネージャーのTさんに至るまで、誰もが自分の仕事を毎日サボることなくやりきっていた。サンウルブズが苦しんでいたラインアウトは少しずつ改善されていっていた。姫野、徳永といった若手選手は順調に成長していた。

 浅原の言葉を借りるなら、ペルシアの大王の喉元は少しずつではあるが見え始めていた。あとはそこをめがけて渾身の力を込めて槍を投じればよかった。そして、相手のレッズは調子に乗れていなかった。

試合当日、朝食前のミーティング。

 毎試合、サンウルブズは当日の朝食前、短いミーティングを持つ。選手の数だけ椅子を並べ、その前にジェイミー・ジョセフ、あるいはアタック、ディフェンスのコーチが立って、簡単だけれど非常に考えられた短いコメントを述べる。レッズ戦の朝もそうだった。

 まず選手たちの前に立ったジェイミーが、ラグビーとは、について簡単に自分の哲学を述べたあと、みんなもう一度どこからこの挑戦が始まったのか思い出してほしい、と言った。

 その後、選手たちの前に天井から吊るされた白いスクリーンに、彼らが別府での合宿最終日に行った自衛隊での訓練風景が数分映し出された。20キロの荷物を背負っての山道の行軍訓練、太い丸太を数人で肩に背負って、いくつもの障害を乗り越えてゆく訓練。

 その訓練の厳しさを、キャプテンの流が「これまでの練習で一番しんどかったですよ」と笑いながら語っていたのを思い出す。

1人の男が「きょーつけーっ!」。

 ビデオが流れ終わると、選手たちの前に1人の男が現れ、いきなりものすごく大きな声で「きょーつけーっ!」と怒鳴った。選手たちが一斉に席を立って、直立不動の姿勢をとる。それは彼らが訓練でお世話になった鬼のように厳しい自衛隊の指導官だった。

「気合が足りーん!」選手たちはちょっと嬉しそうな笑顔を浮かべながら、「はいっ!」と大きな声で返事をする。

 すると、指導教官はこう続けた。しかし、今日のお前たちを見て、俺は安心した。お前たちには気合がある。だから、俺はお前たちが今日は勝てると信じている……。

 勝てると信じていたのは、誰よりも信じていたのは選手たち自身だったのかもしれない。

 そのミーティングからほぼ7時間後、サンウルブズはレッズ相手に63−28という大差で今シーズンの初勝利を手に入れた。63という数字はこの3シーズンでチームが記録した最多得点でもあった。

 SOに入ったパーカーのキックは冴えに冴え、SH流の判断はいつにも増して速く精確だった。FW陣の前へのキャリーは鋭かったし、DF陣のサイドでのディフェンスも最後まで穴を見せなかった。

 相手のレッズが波に乗り切れていなかったことを差し引いても、この日のサンウルブズは素晴らしかった。レッズがメンバーを落としてきたのではなく、サンウルブズが強かったのだ。

 そして、この事実、決して相手が一軍半で挑んできたのではない試合に大勝したという事実は、サンウルブズにとって大きな転換点になるかもしれない。

サンウルブズが宝に見える。

 最初の話に戻ると、別府での合宿からほぼ3カ月半、僕はサンウルブズとスーパーラグビーを見てきた。1勝9敗、勝率は10分の1、しかし僕にはこのサンウルブズというチームは宝に見える。あるいは、ダイヤモンドの原石に見える。

 ものすごくハイレベルでものすごく面白いプロラグビーリーグがあり、そこにアジアから唯一参加しているチームがある。

 もしこのクラブが本当に勝ち始めたら……もし僕が大企業のオーナーか社長なら、今のうちにサンウルブズのスポンサーになっておく。ここにはとんでもない可能性が潜んでいる、そう僕は確信している。

文=近藤篤

photograph by Atsushi Kondo

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