「ああ、ベースボールしてるなぁ」西武・木村文紀の野手転向6年目。

「ああ、ベースボールしてるなぁ」西武・木村文紀の野手転向6年目。

 強く印象に残っている言葉がある。

 2012年、木村文紀が投手から野手へと転向した直後の秋季練習で、木村が練習後に語った言葉だ。

「バットを振って、守って、走って……。ピッチャーのときには避けていたヘッドスライディングを始めてしたときには“ああ、ベースボールをしているなぁ”って思いましたね」

 6年前の言葉を、現在、木村は高いレベルで実現しつつある。ここまで25試合の出場ながら2割9分7厘の打率を残し、得点圏打率は5割を越える(5月15日現在)。バッティングはもちろん、守備と走塁でもチームの勝利に貢献してきた。特に守備では、その強肩がチームのピンチを救う場面も多い。

強肩と足を生かして打撃にもつなげる。

 5月13日の千葉ロッテマリーンズ戦では2安打2打点と活躍し、チームの連敗を4で止めた。今シーズン2度目のお立ち台に上ったが、辻発彦監督が高く評価したのはバッティングより守備だった。

「ランナー二、三塁の場面でホームインを阻止した木村の守備は大きかった」

 強肩を生かし、犠牲フライかと思われる打球をホームへダイレクト送球。ランナーを三塁に釘づけにした。

「守備にはスランプはないと思います。それに堅実な守備を維持しておかないと、それが、自分が期待されている部分なので……」

“脚にスランプはない”とは野球でよく語られる言葉だが、木村が心掛けているのは常に安定した守備力を見せることだと言う。

「脚はケガとか、どこか張っていることもあるので、自分ではスランプはあると思っています。実は今日も朝、起きたときに脚が重かったんです。それで、練習のときにダッシュを多めにしました。ダッシュを繰り返せば体にキレが出るし、そのキレがバッティングにもつながると思います」

 野手転向6年目、こうして自分の体を日々、確認し、自分なりの調整もできるようになった。

渡辺久信二世が2012年に野手転向。

 木村は埼玉栄高校時代から超高校級のエースと騒がれ2007年、ドラフト1位でライオンズに入団した。背番号は41。マックス150キロを超える速球を武器に、渡辺久信(現シニアディレクター)二世と期待を寄せられた。

 2007年に一軍初登板を記録。2011年には一軍で自己最多の21試合に登板し、プロ初勝利を挙げた。しかし制球難や腰痛に悩まされ2012年のシーズン終盤、投手から野手に転向する。

 野手転向直後の秋季練習では連日1500回以上バットを振り込み、守備練習にも汗を流した。体重が10kg落ちて、ベルトの穴が足りなくなった。そして野手に必要な筋肉をつけるうちに体形が大きく変化したという。

投手の心理が手に取るようにわかる。

「いつまでもピッチャーからの転向組だという目で見られるのは嫌なので……」と意地を見せる一方で、こうも語る。

「打てなかったことをずっと引きずって、守備でミスをするのは僕のような選手は最もやってはいけないこと。野手に転向したばかりのころは、エラーをしたら『ヤバいヤバい』と焦り過ぎて、バッティングにも影響してしまった。この何年かでバッティングはバッティング、守備は守備と切り替えることが大事だと学びました。何より、守備のミスはピッチャーに迷惑をかける。足を引っ張ってしまったという罪悪感が大きいんです。やはりピッチャーの気持ちがわかるので」

 投手経験が長い分、ピッチャーの心理が手に取るようにわかると語った。

 野手転向後、2014年には一軍で100試合に出場し、10本塁打という成績を残した。2017年に自己最多の105試合に出場。しかし今シーズンはライオンズ打線があまりにも好調だったため、3月、4月は15試合の出場に留まった。

 そして、ようやく5月に入り、出場機会を徐々に増やしている。

出てない時は他の選手を全力で応援。

「今は、与えられたチャンスを逃すことなく、しっかりものにしたいと思って毎日練習しています。連勝中は、試合に出る選手全員に打ってほしいし、全員に活躍してほしいと言う気持ちでベンチにいました。勝っている場面では、僕は守備固めで出させてもらいましたけど、自分が出ていないときは他の選手を全力で応援します。

 とにかく優勝したいので、その姿勢は変えません。もちろん、試合に出られない悔しさはありますよ。でも、そこで僕1人が違う方向を見てしまうのは、チームに悪い影響を与えます。スタメンじゃなくても、あとから行っても、守備固めでも、代走でも、自分の仕事がある。与えられた仕事をまずはしっかりやろうと思っています」

『優勝をしたい』という部分で語気を強めた。

「どんな打球でも『H』がつけば」

 最も期待されているのは、その脚力だろう。盗塁だけではなく、シングルヒットだと思われる当たりで二塁をねらう。捕手が弾いたボールを見て、果敢に次の塁をねらう。そんな貪欲な姿勢が木村の大きな武器だ。

「シングルヒットで出ても、盗塁で得点圏に行けるのは大きいし、相手からしてもピンチを迎えて気分は嫌だと思う。相手の守備にプレッシャーをかける走塁は僕だけではなくてみんなで目指している野球。そういう場面が増えるのは、いい傾向だと思います。

 もちろんベストは、鋭い打球でヒットを打つこと。でも、どんな打球でも『H』がつけばうれしいですね。ボテボテの当たりで打球を見ずに無我夢中で走って、何が起きたのかわからないという内野安打もありました」

 これこそが、木村が野手転向後、目を輝かせて語っていた『ベースボールの醍醐味』ではないか。

「今後、また連敗することもあるかもしれない。苦しい場面が来るかもしれません。そのときにチームが暗くならないように、負けていても連勝中のいいムードを維持できれば、結果はついてくると思います」

 開幕時のライオンズ打線の破壊力は、そうそう維持できるものではない。対戦が増えるほど、相手バッテリーの警戒も強くなる。そんなときこそチームに必要なのは、貪欲な走塁や、堅実な守備であるはずだ。

 野球の醍醐味を体現する、木村の存在感が増すことに期待したい。

文=市川忍

photograph by Kyodo News


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