中村憲剛「今、日本で一番うまい」大島僚太に、無理を通せる凄みが。

中村憲剛「今、日本で一番うまい」大島僚太に、無理を通せる凄みが。

 あれは、2年前のリオデジャネイロ五輪を直前に控えた頃だっただろうか。

「アップのときのボール回し。あれがカギになるんですよ」

 大島僚太がそんな風に話してくれたことがある。

 川崎フロンターレが試合前のウォーミングアップで行うロンド(鳥かご)は、他のチームに比べると、かなり狭いエリアしか使わない。そしてエリアを飛び交うボールスピードも速い。だからこそ、大島はそこで自分の感覚を研ぎ澄ませているのだという。

「試合前だと6対4、普段の練習だと7対4でやっていて、4人がボールを追いかけてくる。実際の試合で4人がプレッシャーをかけてくる状況って、まずないですよね? 4人が奪いに来るということは、4つのコースが消されるわけで。それでもうまくやれているときは、試合でも落ち着いてできるんです」

 ゴール前ならまだしも、広いフィールドでボールを持った瞬間に、4つの選択肢を消される局面というのは、そう多くないだろう。ならば試合前からその状況下で目や思考スピードを慣れさせておくことで、試合中は余裕を持ってプレーしやすくなる、というわけだ。

強めのパス交換も、いつもの光景。

 準備は、さらに続く。

 アップを終えた周囲のスタメン組が続々とロッカールームに戻っていくなか、時間ギリギリまでピッチに残ってコーチ相手に強めのパス交換を行い続けるのも、いつもの光景だ。かつては鬼木達コーチとやっていた儀式だが、鬼木が指揮官となった昨年からは久野智昭コーチがパートナー役を務めている。

「今日はどんな感じなのか、自分としてはボールを触っておきたいんですよ」とボールフィーリングを確かめてから、彼はゲームに臨んでいる。

 そして試合が始まれば、相手の重心の逆を突いてプレッシャーを簡単に剥がし、たとえ相手が密集していようとも、繊細なボールタッチでかいくぐって突破していく。一見すると、隙などないようなコンパクトな守備ブロックであっても、卓越した目と技術を持つ大島にかかれば、綻びが生まれてしまうのである。大島の真骨頂は、ここにあると言っても過言ではない。

密集する守備をど真ん中から突破。

 例えば直近の第14節・柏レイソル戦。

 相手守備陣は、人数をかけて中央を狭く構えることで、サイドから攻撃させるよう誘導していた。しかし大島は、パスワークを駆使しながらも、敵が密集する守備ブロックをど真ん中から突破していき、あわやのチャンスを作り出して観るものを驚かせている。

 閉めておいた中央の門を突破されては、守る側はたまったものではない。大島のこの突破によって、柏守備陣は中央をさらにコンパクトにして対応せざるを得なくなった。すると川崎は空いたサイドを起点にしながら徹底的に揺さぶり続ける。最後は鈴木雄斗がヘディングでこじ開けて、劇的な勝利を収めた。

 第11節のヴィッセル神戸戦では、守備ブロックを左右にパスで揺さぶりながら、大島が中央の門を射抜くボールを配給して、決勝弾をお膳立てした。受け手の小林悠はマーカーを背負っている状態で、その手前にも敵が密集している難しい状況。それでも大島の備えている目と技術からすれば、十分にボールを通せる距離だった。

「悠と僚太、絵が描けていた」(憲剛)

「ターンして前を向け」というメッセージ入りの強パスを供給すると、受けた小林がすばやく反転して見事に決め切った。二人だけの関係で神戸守備網を無力化した一連の崩しに関しては、試合後の中村憲剛も賞賛を惜しまなかった。

「相手も引いてきたなかで、外を揺さぶって開かせてから中の悠に入れる。あれもちゃんとコースが空いているから、悠が空いてターンできた。もちろん悠の技術と僚太の技術、そして目が合っていたからこその崩しだった。絵が描けていたと思う」

 パスが通らないような狭いエリアでも、味方にボールが通る。スペースなどないような圧縮されたエリアでも、ボールを運んで突破する。「無理が通れば、道理が引っ込む」と言うが、大島のプレーには「無理を通して、セオリーが引っ込む」とでも言うような凄みがある。

 そんな圧倒的な進化を続けている背番号10について、中村憲剛はこんな風に太鼓判を押す。

「今、日本で一番うまい選手だと思う」

数値に穴のないレーダーチャートを。

 ただそれを伝え聞いた大島は、最大級とも言える評価にも、あくまで謙虚である。

「嬉しいと言えば嬉しいですけど、自分自身はそこまでとは思っていないんです。それに、サッカーはうまいことが全てではないですから、もっと自分の課題に目を向けてやらないといけないと思っています」

 ここ2年ほど、大島に課題を尋ねると、どこか1つの項目ではなく、「何でもできる選手になりたい」と全ての部分を伸ばしたい旨を口にすることが多い。

 例えばサッカーゲームなどで見かける、選手の能力数値をパスやドリブル、シュートなどの項目に分けて表示をするレーダーチャートを思い浮かべてほしい。

 大島が目指しているのは、どこかひとつの数値を伸ばすのではなく、あらゆる項目の数値を高めて、レーダーチャート全体の面積を大きくするようなイメージなのだろう。だから「うまいことが全てではない」と語る彼の向上心は、オフ・ザ・ボールの領域にも急速に注がれている。

「ボールがないときもサッカーの一部なので。自分自身、いろんなところに目を向けて、成長しなければいけないところがたくさんあります。フロンターレでボールを扱うところは意識しているし、そこは武器としてプレーできているので、自信を持ってやりたいと思ってます。その上で、もっとたくさん走って、いろんなところに顔を出したいですね」

ときに鬼神のようですらあるデュエル。

 実際、守備の局面で大島が見せる切り替えの早さや球際の強さ、そしてプレー強度の成長は、特筆すべきものがある。前節柏戦の開始直後には、スピードとパワー満点のカウンターを繰り出してきたクリスティアーノに対して、躊躇なく体をぶつけるデュエルを挑んで渡り合った。

 広範囲のカバーリングをこなしてボールを奪い取り、そして攻撃に転じてゴール前に侵入していく。そんな獅子奮迅の姿は、ときに鬼神のようですらある。「小柄な体格とテクニックや戦術眼に優れた選手」という先入観で彼を捉えている人がいたら、その変化に驚くはずだ。

「勝利の道筋のどこかに自分がいれば」

 今や小林悠と並ぶ看板選手であることは、誰もが認めるところだ。ならば、自分がチームを勝たせるという気概や、自分がゴールを奪うという欲が、彼の中でも強く芽生えているのではないだろうか。そんなメンタリティの変化を尋ねてみたが、そこは笑顔で否定した。

「……いや、そこにしれっと関われれば、僕はいいです(笑)。その(勝利やゴールの)道筋を描いておいて、そのうちのどこかに自分がいれば、いいかな」

 期待した答えを返してくれなかったどころか、まさかの脇役宣言である。だがそれでいいと思った。それでこそ、大島僚太なのである。

 ワールドカップ本大会に向けた日本代表メンバー発表は、刻一刻と近づいてきている。

――1%でも勝つ確率を上げるために。

 その目的のために、本大会直前の監督交代という世界でも稀な「無理を通す」ことで生まれた西野ジャパン。就任した西野朗監督がどんなサッカーを志向するかはまだおぼろげだが、ピッチで「無理を通せる」目と技術を持つ大島僚太は、果たしてどう位置付けられているのだろうか。

 そこに名を連ねるだけの価値は、十分にあるはずだ。

文=いしかわごう

photograph by Getty Images


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