鹿島はACLもリーグも優勝を目指す。上海相手に発揮した、勝つ方法論。

鹿島はACLもリーグも優勝を目指す。上海相手に発揮した、勝つ方法論。

「選手の顔、眼を見て、いけるという確信を持った。守り切るというメッセージは(ディフェンダーを投入した)交代選手でも伝わっていたはず。自信を持って選手を見ていました」

 試合後の公式会見。外国人記者の「ラスト10分をどういう戦い方をしようとしたのか? そして、どういう気持ちで試合をベンチから見ていたのか?」という質問に大岩剛監督が答えた。

 5月16日、ACLラウンド16セカンドレグ。上海上港対鹿島アントラーズ。第1戦は鹿島が3−1で勝利し、1点差の敗戦ならば無条件で勝ちぬけが決まる状況だった。

 1−1で迎えた後半は、鹿島が守勢に回る時間が長く続いた。81分に際どい判定でのPKが決められ、1−2。

 延長に持ち込む3点目、勝利のための4点目を奪おうと上海上港の圧力が一層増した。そんな残り10分間について、記者は聞いたのだった。

 試合は監督の確信通りに1−2で終了し、2戦合計4−3で鹿島の準々決勝進出が決まった。鬼門と言われ続けたラウンド16の壁を突破した。

昨季は最終節で優勝を逃し、今季も。

 振り返れば、この4カ月間の戦いは苦しかった。リーグ戦13試合、ACLを8試合。大岩監督は忍耐を試される時間だったに違いない。選手たちを信じ、自身の采配を信じた。

 鹿島は昨年のJリーグで、あと1勝すれば優勝という状況だった。しかし勝ちきれず、最終節に首位の座を奪われた。

 今季は安西幸輝、犬飼智也など若い即戦力と、ドイツから戻ってきた内田篤人という補強を経て開幕を迎えた。しかし4月末の第11節終了まで、3勝3分5敗で15位という低迷ぶりだった。

「自分の形を作り切れていない」

 川崎に1−4と大敗したあと、内田がそう語るほどチーム状況は困難を極めていた。けが人が続出し、10名近い選手が離脱する時期もあった。

 三竿健斗、鈴木優磨、小田逸稀、そして安西、犬飼など、出場機会を得て成長を見せる若手選手もいたものの、結果にはなかなか結びつかなかった。

「何かを取り戻した」気配はあった。

 試合の入り方の悪さ、簡単にゴールを破られることだけでなく、得点も決め切れない。課題が山積する。

 誰もが自分ができる限りの力を尽くそうと奮闘しているにもかかわらず、鹿島の哲学でもある「勝利へのこだわり」を表現できない。

 そんな状況でも、中3日、中2日という日程で試合は訪れる。コンディション調整にも時間を費やさねばならない。選手たちは会話を重ねることで、トレーニングの不足分を補う。

 第11節、横浜に0−3で敗れたあと、大岩監督は、守備組織の立て直しが急務だと話した。続く12節長崎に勝利し、第13節の浦和戦は1−0で逃げ切る。押し込まれながらも冷静にゲームをコントロールする実に鹿島らしい戦いで、今季初の連勝を手にした。

 復帰したけが人の存在も大きかったが、守備の安定感は鹿島が「何かを取り戻した」ことを示しているように感じた。

 好転の兆しが見えたなかでのACLベスト16突破だったのだ。

「90分使って勝つ」という発想。

 ゲームキャプテンの遠藤康は、チームの変化をこう話す。

「けが人が戻ってきたのもそうですけど、試合を通しての落ち着きとか、行くときと行かないときの使い分けが上手くできるようになった。攻撃と守備の両面で。

『90分間使って、勝つ』というのが徐々にチームに浸透してきている。シーズンの最初は、去年優勝できなかったこともあって、『勝たないと』というプレッシャーでみんなが頑張りすぎるところがあったと思う。

 今は、その頑張りが噛み合うようになった。そういう意味ではいい感じになっている」

 当初はディフェンスラインを高く保つ守備を続けていたが、あっけなくやられるシーンが続いた。そこで「ディフェンスラインを下げて守る」ことで逃げ切れるようになり、チームに安定感が生まれた。

 植田直通も「(ディフェンスラインを)下げて守ること、上げて守ること、状況に応じていろんな形があってもいい」と語っている。

 攻撃面では、効果的にサイドを使い、後ろの選手がボールホルダーを追い越していく。

「積極的に前から行く」という指揮官の描く絵が、少しずつ試合で表現できるようになってきた。それが上海上港相手のファーストレグでも、3得点に繋がったのだろう。

ACLも、リーグも優勝を諦めない。

「鬼門のベスト16を突破したことは、まあよかったと思っています。だけど、ただベスト8が決まっただけだから。それでクラブの歴史を変えたという意識は薄い。ACLで優勝することで、歴史を変えたいから」と植田が固い決意を語る。

 鹿島にとって10年ぶりのACLベスト8となったが、試合後の選手たちは、締まった空気を醸し出していた。

「ロッカーでも『次の仙台戦が大事』だという話をした。『負けたら意味がない』と」と植田が言えば、遠藤も気持ちを引き締めたようにいう。

「まずは仙台戦を勝ちきること。リーグ戦ではまだまだ(順位が)下なので、ここからを勝っていかないと。うちはリーグ戦も優勝しなくちゃいけないので、そういう意味ではまだホッとするところじゃない」

 2連勝で10位まで順位を上げたが、1試合未消化とはいえ首位との勝ち点差は19ポイント。広島の背中は遠い。

 それでも、本当に鹿島の選手たちはまだ誰も、優勝を諦めていない。

 最多タイトルホルダーで、勝利への強いこだわりや執着心という鹿島の伝統が血になり肉となっているから、この状況でも「優勝」を口にし、そこへ向かっていく。

文=寺野典子

photograph by Getty Images

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