打撃投手イチロー、華麗なるデビュー。監督も絶賛するWIN-WINの関係とは?

打撃投手イチロー、華麗なるデビュー。監督も絶賛するWIN-WINの関係とは?

 6月5日、テキサス州ヒューストン。

 灼熱の太陽が照りつける午後2時過ぎにもかかわらず、開閉式ドームであるアストロズの本拠地ミニッツメイド・パークの屋根は開いていた。

 体感気温は、およそ36度にも及んでいた。それでも早出特打を行ったマイク・ズニーノ、ベン・ギャメル、ギレルモ・ヘリディアの3人は気持ちよさそうに快音を響かせていた。

 打撃投手が打ちやすいボールを投げているから、と思うのはひいき目であろうか。

 打撃投手イチロー、メジャー18年目にしてのデビュー。

 テンポ良く約100球を投げ込んだイチローは気持ちよさそうに汗をぬぐった。

「面白い。いい練習になるね、うん」

 イチローはこれまでも、オフになるとひとりケージで、ネットに向かいボールを投げてきた。打撃投手のそれも、昔からのルーティン・トレーニングと全く同じこと。来季以降の現役復帰へ向けての鍛錬のひとつ、と言う位置付けに変わりなかった。

「指先の感覚で(送球は)どこへ行くかが決まるのでね。それは野手のスローイングと同じことですよ。肩を使うことも大事なことですからね」

打撃投手は、あくまでもバッターのために。

 投球を終えたイチローは、今度は誰もいない中堅へ向かい、打球を追った。早出特打では外野を守る者はいない。広い空間を縦横無尽に走り回り、ジャンピングキャッチやお得意の背面キャッチも見せた。5月2日を最後に今季の現役を退いた44歳にとって、これほどの運動量をこなすことができた日はなかった。久々に味わった野球選手としての小さな満足感。喜びを感じていた。

「(周りに)遠慮しなくていいからね。うん。いい練習になりますよ」

 打撃投手と外野守備で約30分。イチローにとって充実の時間になったことは間違いなかった。

 だから、思った。

 今後も早出練習では打撃投手役を買って出て、その後は外野で打球を追う。それが彼にとっていい練習になる。だが、イチローの考えは違った。

「バッターがどう感じているか。これが良ければね。それがわからないからね」

イチローとの「対戦」を打者たちは?

 世界最高峰の4367安打を放った選手だからこそ、打撃投手の重要性がわかる。フリー打撃は現役選手のためのものであり、自分のための練習ではない。イチ流の思いに頭が下がった。

 今回の打撃投手デビュー。発案者はスコット・サービス監督だった。指揮官は会長付き特別補佐となってからも常にトレーニングを続けている背番号51の姿を知っていた。

「試合中にケージの中で100球から200球を控え選手相手に投げていると聞いた。いい球を投げていると言うことも聞いた。10日くらい前にイチに打診したんだ。彼は準備万端だったと思うよ」

 イチロー打撃投手との対戦を味わった野手陣も贅沢極まりない至福の時間を楽しんだ。

「イチロー相手に打撃練習ができて嬉しかったよ。すごく打ちやすかった。その上にヒットも打つことができた。これはみんなに自慢できることだね」とは、マイク・ズニーノ。

 ベン・ギャメルは「すごく良かったよ。彼はいつも試合中にケージで練習をしているけど、打撃投手は誰でもできることじゃない。イチは何でも出来るんだよね」。

 評価は上々。イチローが気兼ねするようなことは何もなかった。

 更に。この日の試合では2回にギャメルが中前打を放つとズニーノが左翼へ131メートルの特大弾を放ち、昨季の世界一軍団を撃破。

「イチローには毎日投げてもらわなきゃ!」

 イチロー効果でマリナーズは地区首位を守った。試合後、サービス監督に聞いてみた。

「イチローは毎日、打撃投手で投げるべきじゃないですか?」

 指揮官は飛び切りの笑顔を見せ、答えた。

「そうだ、その通りだ! イチローには早出特打で毎日投げてもらわなきゃいけないな!」

 再登板決定。イチローのためにも、選手のためにもなる『WIN-WIN』の練習法が見つかった。

文=笹田幸嗣

photograph by Kyodo News

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