ティーム相手に全仏4回戦敗退も、心折れない錦織圭に見た完全復活。

ティーム相手に全仏4回戦敗退も、心折れない錦織圭に見た完全復活。

 テニスというゲームの難しさは、常にベターなプレーが求められるところにある。どんなにいいプレーをしても、相手にそれ以上のプレーをされたら勝てない。ずっといいプレーをしていても、大事な場面で相手のプレーが少し上回れば、これも相手の勝ちである。

 場面場面で少しずつ相手が上回れば、積もり積もって大差のスコアになることもある。それが、第1、第2セットのドミニク・ティームと錦織圭のパワーバランスだった。

 序盤の錦織のプレーが特別悪かったとは思わない。ただ、ティームが極めてよかった。トップスピンのかかったストロークが深く食い込み、錦織に少しずつ無理をさせた。驚くのは、最初の2セットでアンフォーストエラーが9本しかなかったこと、そして、ファーストサーブ時のポイント獲得率が100%だったことだ。

 この試合の1つのカギはサーブとリターンでの攻防にあると思われたが、この点に限っては両者の差が明確だった。

 これほど隙のないプレーをされたら、いくら錦織でも持ちこたえられない。

「重い、高いボールに雑な入り方をした」

 また、錦織自身、小さな違和感を持ちながらの2セットだった。

「足が動いていなかったので、彼の重い、高いボールに雑な入り方をしていた。それが彼にいいペースを持たせ、自分のミスも多かった」

 試合後の錦織の反省だ。少々、足の運びがルーズになっても、彼の調整力をもってすれば、大抵のボールは押さえ込める。しかし、ティームのショットはそうではない。185cmの体を生かして目一杯、腕を振る。特にバックハンドは腕の振りがしなやかで、十分に回転のかかった重いボールが打てる。

 レッドクレーのサーフェスで、このトップスピンは最も威力を発揮する。赤土を蹴るようにボールが跳ねるのだ。これが「重い、高いボール」だ。

 これを自分のストライクゾーンで捕らえるには、素早く精密なフットワークが要求される。その“足”が、この試合の錦織にはなかったというだけの話。凡百の選手の言う「足が動かなかった」とは中味が違う。

劣勢の中でプランBに切り替えて。

 なぜ足が動かなかったのかと聞かれた錦織は「自分でもよく分からない」と答えた。それくらい微妙な誤差、違和感が「動かなかった」の言葉になったのではないか。

 ただ、この誤差は、好調のティームの前には致命的だった。

 これらが最初の2セットの大差の原因だ。しかし、そんな試合を、もう少しで振り出しに戻すところまで持っていくのが錦織の非凡さだ。

 第3セット、錦織のショットの弾道が高く、ボールが深くなった。ラリーのテンポを速めることを基本戦術とする錦織だが、ここでは「じっくりプレーすることを心がけた」。劣勢の中でプランBに切り替えたのだ。

 ミスが減り、深いボールがティームのリズムを崩した。ミスを待つだけでなく、ハードヒットで左右に振り回す場面も増えた。鮮やかな戦術変更で錦織がセットカウント1−2に持ち込んだ。

グランドスラムでの初対戦が初黒星に。

 第4セットは第7ゲームでの2つのミスが惜しまれる。「あのゲームさえキープしていけば、もうちょっとチャンスがあった。第5セットに持っていきたかった」と錦織が悔やんだのがここだ。

 バックハンドのサイドアウトとフォアハンドのネットで0−30。3−3からのサービスダウンは致命傷となる。絶対落とせないという重圧が錦織を硬くしたのか、ティームにラリーを支配され、ブレークを許した。事実上、これは試合を決めるブレークだった。

 ティームにはこれまで2勝0敗。グランドスラムでの初対戦が、痛い初黒星となった。

 しかし、この試合からポジティブな要素を探すのは難しいことではない。

 2セットを続けて落としたが、気持ちは折れなかった。

テニスを楽しむ気持ちが戻っている。

「ちゃんとやれば、ちゃんと調子が戻れば大丈夫だと言い聞かせてやっていた」

「何もうまくいかない状況だったが、1ポイントずつじっくり戦おうと思って第3セットに入った」

 この心の強さ、突破口をこじ開けようとする気持ちの粘りは、去年のチョン・ヒョンとの全仏3回戦、2日がかりのあの苦闘で、怒りにまかせてラケットをたたき折った錦織にはなかったものだ。コートを離れた半年の時間が、彼にテニスを楽しむ気持ちを思い出させたのだろう。

 あまりの順調さに、すっかり忘れていたが、これは彼のグランドスラム復帰戦なのだった。この気持ちの強さ、試合後の悔しがり方なら、もう大丈夫だ。

 復帰過程を終え、今の錦織は戦う男たちの集団に戻ってきた。グラスコートシーズンには、もう一段上のプレーが見られるだろう。

文=秋山英宏

photograph by Getty Images


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