イングランドの問題児スターリング。厚顔の10番がタトゥーに込めた想い。

イングランドの問題児スターリング。厚顔の10番がタトゥーに込めた想い。

 面の皮が厚い男。

 いかなる時も結果を求められるトップレベルの選手にとっては、一概に悪い評判ではない。プレッシャーを背負って立つ場所が、W杯という世界の檜舞台であればなおさらだ。一世代前のイングランドでは、不倫疑惑や人種差別発言騒動の渦中でも平然とプレーしたジョン・テリーが、呆れるほど心臓の強い男の代表格だった。

 開幕まで1週間を切ったロシアW杯に臨む今夏のイングランド代表では、次世代の1人であるラヒーム・スターリングが、テリーから「厚顔」のバトンを受け継いだ感がある。

 周囲の好き嫌いが極端に分かれる点は、先代譲り。当人は、プレミアリーグで名を成したリバプール時代から、「一目見ただけで他人に嫌悪感を与える顔なんだ」と開き直ってさえいた。

右足に自動小銃のタトゥーを入れた理由。

 W杯前の強化合宿で物議を醸した“ある出来事”に関しても、スターリングは「大して気にならない」と、6月5日に代表のトレーニングセンターであるセント・ジョージズ・パークでのメディアデーで語っている。

 ある出来事とは、右足に入れたM16自動小銃の最新タトゥーが「子供たちの見本となるべきプロ選手でありながら非常識すぎる」と非難された件だ。英国内でも増える傾向にある銃犯罪の撲滅を目指す団体などからは、「タトゥーを除去しないのならW杯代表から除外されるべき」との声も上がった。

 さらに、他の選手たちよりも1日遅い合流を認められていたが、生まれ故郷ジャマイカでのバカンスから更に半日遅れで合流。この規則違反は、代表番記者陣の間ではタトゥー以上に問題視された。高級紙『ガーディアン』では、学生時代のスターリングに「素行を改めないと、17歳になる頃には代表入りか刑務所入りのどちらかだぞ」と告げたという教師の言葉が、前回大会に続いてW杯代表に選ばれた問題児の背景として社会面に掲載されていた。

W杯前の親善試合での先発起用に物議が。

 しかし、代表を率いるガレス・サウスゲイト監督は、個人マターであるタトゥーを問題にはせず、合流遅れにも注意とチームへの謝罪で片をつけた。そして、6月のテストマッチ初戦となったナイジェリアとの親善試合(2−1)でスターリングを先発起用。当然、国内では指揮官に対しても「甘い」との指摘があった。

 だが、先入観を抜きにすれば、サウスゲイトの対応は妥当だったと見るべきだろう。「けじめ」としてベンチを命じていれば、国内メディアでスターリング嫌いの意見が前面に出て、まだ23歳へのバッシングが続いていたと思われる。

 そもそも、予定より半日遅れの代表合流は故意の仕業ではなかった。タトゥーには、幼い頃に父親の命を銃で奪われた者として、「絶対に銃には触れない。自分が撃つのは右足のシュート」という極めて私的な想いが込められていたのだと、当人がソーシャルメディアを通じて説明している。特別な想いや決意を体に刻む感覚がある持ち主としては、理解できる部分もある。

10番を与えられたほどの高い期待度。

 スターリングのタトゥー・コレクションには、左腕に彫られた、ボールを片手にウェンブリー・スタジアムを見つめる少年の後ろ姿もある。5、6歳で移民した当初、ウェンブリーから4キロと離れていないニーズデンに住んでいた自分自身の姿なのだろう。

 代表での将来を夢見ていたジャマイカ生まれのサッカー少年は、犯罪者ではなくプロ選手への道を歩み、17歳でイングランドA代表デビューを果たしている。ちなみに、前腕に描かれた少年の背番号は「10」。スターリングは、今夏のW杯代表メンバーとして「イングランドのナンバー10」になる夢も実現したわけだ。

 先のナイジェリア戦で「ベンチスタートも考えた」と言う指揮官だが、10番を与えたことから分かるように、本来であれば迷うことなくスターリングを先発起用していたのだろう。

 当人はバッシングにも耐え得る「面の皮」を持っていることもあるが、何より、攻めの姿勢を基本とするサウスゲイトのイングランドには欠かせない攻撃力の持ち主である。ブラックジョークの得意な国内紙風に言わせてもらえば、監督が先発メンバー表に名前を「彫り込みたい」主力であることは間違いない。

今季リーグ戦では18ゴール11アシスト。

 今大会、イングランド最大のキーマンを挙げるとすれば、エースで主将も兼ねる背番号9、ハリー・ケインになる。しかし、トップ下でコンビを組むスターリングもキーマンの1人だ。特に相手が守りを固めてきた場合には、独力での状況打開が可能なチーム随一のドリブラーとなる。

 快足に加え、起こし気味の上半身の脇に両肘をつけるような独特の走り方は、勝負を挑まれる相手DFにすれば、どちらから抜きに来るのか読み難いのかもしれない。しかも、左右どちらにも進路を見出せる中央でボールを持つ機会が多いため、余計に厄介な存在なのだろう。

 先のナイジェリア戦でも、相手を圧倒した前半に最も働いていたのがスターリングだった。ケインのチーム2点目をアシストする一方で、自らも度々ゴールに迫っている。絶好機に代表通算3点目を狙ったシュートは、1本目がファーポストの外へ、2本目もバーの上を超えた。いずれも左足だった。

 本人が「左足でも撃つ」意味のタトゥーを入れるレベルまで精度が上がれば――。そのデザインが世間の顰蹙を買う類であったとしても、文句はないだろう。今季のプレミアリーグでは得点ランク5位の18ゴールを奪い、11アシストも記録してマンチェスター・シティの独走優勝に貢献しているのだ。

PK欲しさのダイブについて叩かれたが。

 ナイジェリア戦の後半にイエローをもらったPK欲しさのダイブ(シミュレーション)は、一部メディアで「マシンガンのタトゥーよりも醜い」と叩かれた。だが実際は微かな接触があった。これがW杯本番のピッチ上なら「ペテン」ではなく「狡猾な行為」として、肯定的に報じる声も増えると思われる。

 ロシア入り前の最終テストマッチとなった7日のコスタリカ戦(2−0)は、縦関係の2トップを組むケインとともにベンチで90分間を終えた。オプションの確認に主眼を置いたサウスゲイトは、3-1-4-2システムの最前線にジェイミー・バーディーとマーカス・ラッシュフォードを起用し、ラッシュフォードのの23m弾でイングランドが先制。後半には途中出場のFWダニー・ウェルベックがダイビングヘッドで追加点を奪った。

「ベスト8じゃダメ。出るからには優勝」

 とはいえスターリングは3月のオランダ戦(1−0)を皮切りに、イタリア戦(1−1)、ナイジェリア戦と、3試合続けて先発出場し、持ち味を発揮した。怪我や病気さえなければ、来たる18日のW杯初戦チュニジア戦で、キックオフの笛をケインとピッチで耳にするはずだ。

 ただスタメンが確実視されても、何かと問題視されるスターリングは、大会期間中も母国民の意見を二分するだろう。精神的な打たれ強さを自負する当人は、期待値の低い今大会を目前に、「ベスト8敗退じゃダメさ。どこの国のどの選手だって、W杯に出るからには優勝したい。それ以外の結果は上出来でも何でもない」と発言。自らプレッシャーを背負い込んでいる。

 自分で自分の首を絞めるはめになったとしても動じない自信と、結果がどうであれ満場一致で世間の賞賛を浴びることなどないという覚悟があるが故の発言である。であれば、あとはロシアのピッチで相手守備陣を真っ二つに切り裂くことに専念するだけだ。

文=山中忍

photograph by Getty Images

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索