日本にはスポーツの教え方がない?大学生が作った「指導法の勉強会」。

日本にはスポーツの教え方がない?大学生が作った「指導法の勉強会」。

 連日報道されるワイドショーに、辟易としている人たちも増えてきたのではないか。

 社会問題にまで発展した日大アメリカンフットボール部の悪質タックル問題。その後の大学側の対応に同情の余地はないが、旧態依然とした体質がスポーツ界にはいまだあることを明らかにしたニュースには、正直、胸が痛む。

 とはいえ、我々スポーツを愛する人間がするべきことはこれからの進歩だ。

 若者(選手)に責任を押し付けた情けない大人たちの姿に未来はなく、これからのスポーツ界を創造しようとするエネルギッシュな活動に期待したいというのが正直なところだ。

 そんな折、毎日新聞社・毎日ホールにて、スポーツ界の未来のためのセミナー「Sports Coaching Lab」が開催された。

 主催したのは「NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブ」。昨年、大学生が中心となって立ち上げられたばかりの団体だ。彼らが目指すのは21世紀にふさわしいスポーツ教育のあり方を再定義し、新時代にあったスポーツコーチング法を広めることである。

スポーツの指導法を学ぶ場所がない。

 代表を務める小林忠広は、NPO設立の経緯をこう語る。

「僕はラグビーをやっていたんですけど、初めてコーチングに携わろうとしたときに、指導のやりかたが分からなかった。そうなると、自分が教わったやり方を同じようにやっていくしかなくて、果たしてこの指導が正しいのか、どうやったら指導力を築けるのか、それを知る場が日本にはないと思ったんです。指導者が継続的に学べる環境をつくりたいと思ってこの活動を始めました」

「Sports Coaching Lab」は今回で9回目を数えるが、特定の競技についてスポーツコーチングの普及を目指すのではなく「他分野から学ぶものがある」と競技の垣根を越えた本質的なスポーツコーチングを目指して始まった。

 サッカー、ラグビー、テニスなどの主要スポーツだけでなく、ラクロスやアルティメット、またメンタルトレーニングなど、あらゆる分野の人間が登壇している。参加者の多くは、コーチングのあり方を学ぼうと集まってくるという。

人口1000万人でメジャーに151人を送り出す国。

 今回は、初めて野球の関係者が講師として登場した。ゲストスピーカーを務めた阪長友仁氏は「目先の勝利にこだわらないコーチング」と題して、メジャーリーガーを多く輩出するドミニカ共和国のコーチング事例を紹介した。

 阪長氏は、DeNAの筒香嘉智がスーパーバイザーを務める堺ビッグボーイズの運営母体・NPO法人BBフューチャーのメンバーでもある。小中学生の指導はもちろん、ドミニカを何度も訪れ、現地でジュニア育成のシステムを研究。ドミニカと日本の育成環境の違いから野球界の目指す方向性を模索している。

 2015年に筒香がドミニカのウインターリーグに参加した際に、通訳兼コーディネータを務めた人物でもある。

 いまでは全国津々浦々へ講演に回り、「なぜ、ドミニカのような人口約1000万人の小さい国から151人ものメジャーリーガーが輩出され、人口1億2千万人の日本人メジャーリーガーが昨年8人しかいないのか(2017年度)」と、ジュニア育成にフィーチャーした活動を続けている。

野球は勝ったり負けたりする競技。

 この日阪長氏は、日本のジュニア育成環境をドミニカと比較して問題点を指摘した。

「スポーツが価値あるものになるためにどうしたらいいか。野球をする子がだんだん減ってきているなかで、(環境面の)マイナス要素が大きいと感じています。プロ野球では4勝3敗の勝率で優勝争いができる。勝ったり負けたりするのが野球というスポーツなのに、日本の高校野球はトーナメント制なので、全ての試合で勝利を目指さないといけない環境になっている」

 甲子園ではエースが連投することはザラにあるが、ドミニカでは高校生の大会は年間約70試合のリーグ戦で行われ、ピッチャーはローテーションで、球数は最大80球までと決まっているそうだ。

「日本では甲子園で同じ投手が何試合も投げて、その先の舞台で(ケガなどで)伸び悩んだとしても責任問題にはならないですが、ドミニカでは高校生くらいの選手を潰してしまったら、指導者の能力が疑われる。将来的にも活躍する選手を出すために経験を積ませようと考えて指導している」と阪長氏はいう。

 この違いの根底にあるのは、野球を取り巻いている指導者、つまり大人の意識だ。

なぜスポーツは目の前の結果に固執する?

 阪長氏は、両国の文化・経済事情を紹介したうえで、日本の異質性をこう訴えた。

「私たち日本人は教育をしっかり受けている人口が多く、思慮深くあるはずなのに、なぜか野球やスポーツの世界になると、目の前の結果に固執してしまう。子どもの成長につながるためには何を大事にすべきかを見失っているように感じます。

 一方でドミニカ人は、経済的には今日食べるのもやっとという人も多い。そういう状況なのに、野球だけは先を見据えた教育をしています。我々大人はこの違いをみて、考え直すべきことがあるんじゃないかなと思います。

 先を見据えた指導が日本でもできるようになったら、もしかしたら、大きな舞台で活躍する選手を今よりも多く送り出すことに繋がるんじゃないかと思います」

 同セミナーはゲストスピーカーの講演の後、必ずワークショップを開催している。

 参加者でグループを組み、ディスカッションをする。テーマを設定して、それぞれがどういう考えかを語り合い、コーチングの形を模索していくのだ。

スポーツ指導の新しい形を探す人たち。

 この日のテーマは「選手と指導者 理想の関わり方」。まさに日大アメフト問題で噴出した、コーチングのあり方を再検討するテーマだった。

 同セミナーに参加して5度目になるという、スポーツ教室のコーチを務める20代後半の男性は、この日の感想をこう話している。

「スポーツの種目ごとの考え方も大事ですけど、スポーツ界としてどういう問いがあるかというのを話し合えて、新たな気づきがありました。今日の話では、指導者は選手をリスペクトする気持ちを持っていないといけないという阪長さんの話が刺さりました。

 こうやって学びの場があるのはありがたいですね。自分を変えられないと、他人はもっと変えられないと思うので、学びを続けることで指導力を高められたらと思います」

 スポーツ育成に軸足を置いて取材をしていると、旧態依然としたスポーツ指導を抜け出して新しいものを生み出そうとする人物が増えてきていると感じる。その1人が阪長氏であり、この回を主催した「スポーツコーチング・イニシアチブ」の面々である。

スポーツは何のためか、という根本問題。

 阪長氏は大学生で構成された団体の行動力に感銘を受けたとこう語る。

「代表の小林さんをはじめ、大学院・大学生の方たちが、こうやって、スポーツがどうあるべきか、このままでいいのかというのを真剣に考えて、行動にうつされている。そのことに敬意を持っています。彼らのような若い人たち、そして現在指導されている人も含め、より良い指導を考えていく時が来ていると感じます」

「Sports Coaching Lab」はその後も継続的に開催されている。彼らの熱量、スポーツコーチング普及のための活動には、未来への希望を感じる。

 小林代表は決意を込めてこう締めた。

「日大の件を通して、何のためにスポーツをやるかを問い直す必要があることが明らかになったと思うんです。そのためには、選手と指導者という立場をこえて、スポーツ界がビジョンをつくることが大切。私たちの活動も、その一助になればいいと思っています。

 いつかは僕らがこのような活動をしなくても、日本中で指導者が学びあう環境がつくられてほしいです。僕らが主役じゃないし、指導者の皆さんが主役で、もっといえば子どもたちが主役なので、環境をつくることが活動の成果だと思って、これからも学ぶ機会の場を増やしていきたいですね」

 変わらぬ大人たちと話していても未来はない。

 変革を求める者たちで、スポーツの未来を創造していこう、変えていこう。

 エネルギッシュな若い世代の心意気に触れ、改めてそんな思いにかられている。

文=氏原英明

photograph by Getty Images

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