ナダル、世代交代を阻み全仏V11。聖地への愛と絆とフランス語。

ナダル、世代交代を阻み全仏V11。聖地への愛と絆とフランス語。

 自己の記録を更新する11回目の優勝。クレーコートの聖地ローランギャロスで今年もトロフィーを抱いた32歳のクレーコート・キングの目には、なお涙があった。 

「自分がここまでやれるとは、正直思えていなかった。ケガで辛いときもあったし、クレーシーズンだって不安を抱えて始まった。去年の上海マスターズ以降、5カ月間くらいはフルに戦うことができなかったから、感情的になるのは自然のことだった」

 ラファエル・ナダルにとって昨年は復活の年だったが、決して順風満帆ではなかった。全仏、全米で頂点に立ったが、シーズン終盤は右膝の痛みでツアーファイナルズの途中欠場などがあり、今年全力を注いだ全豪オープンもマリン・チリッチとの準々決勝を臀部のケガで途中棄権。ケガの多い印象のナダルだが、グランドスラムでの途中棄権は2010年の全豪オープン以来でキャリア2度目のことだった。3月のインディアンウェルズとマイアミの両マスターズは欠場した。

クレーの新プリンス、ティームとの激突。

 2カ月半ぶりのツアー復帰とともに始まったクレーシーズンではナダルの強さが戻って来たが、4大会に出場して唯一敗れた相手が24歳のドミニク・ティームだった。マドリードの準々決勝。昨年もナダルはティームにクレーコートで唯一の黒星をつけられている。

 ナダルがキングなら、まさにクレーコートの若きプリンス。4回戦では復調ぶりに自信を高めていた錦織圭に対して、手のつけようのない完璧なプレーを見せた。豪快なショットがライン際の赤土をえぐるたび、才能に自信が宿ったときの怖さを見せつけられるようだった。

 決勝戦は“ビッグ4”が完全に崩れて、台頭してきたネクストジェネレーションが世代交代に挑む現在の男子テニス界にふさわしいカードだっただろう。

「ラファの初優勝を11歳の時に見ていた」

 6−4、6−3、6−2のスコアに、あの攻防のすさまじさ、美しさは表れていない。敗れた挑戦者は表彰式のスピーチで小さなエピソードを披露した。

「11歳だった僕は、ラファの初優勝をテレビの前のソファに座って見ていました」

 その言葉で、ナダルが王者でいる年月の長さを知る。初優勝というのは2005年、ナダルが19歳になったばかりのときだった。あれから13年の間にラファの髪は短くなり、ウェアのショーツも短くなり、風貌も年相応に変化した。

 しかし、もっとも能動的な変化は、いつのまにかナダルがオンコート・インタビューや優勝スピーチでフランス語をペラペラしゃべるようになっていることではないだろうか。途中で苦しくなって「ごめんなさい、英語にします」と切り替えることもあるが、フランス語で何を言っているか理解できなくても年々上達していることくらいはわかる。

“赤土の帝王”の終焉が叫ばれたが。

 語学には、始める決意とモチベーション、さらには続ける気力とやはりモチベーションが必要だ。レストランで英語のメニューをもらわずに注文したい、くらいの軽いモチベーションではマスターできるはずもなく、私事ながら20年近く毎年この時期にパリに来ていても、いまだにお目当てのバターひとつ満足に手に入れることができない。

 スペイン語とフランス語の場合は同じラテン語から派生した言語とはいえ、自然にここまで習得できるものではないだろう。

 ナダルが片言のフランス語を抜け出して、急速に上達していたのは昨年だったように思う。前年は左手首のケガで3回戦前に棄権を強いられ、その前の年は準々決勝でノバク・ジョコビッチに敗れていた。

 ランキングを10位まで落としてグランドスラム・タイトルがとれなくなったナダルは、最後の砦であるこのフレンチ・オープンでも2年連続して優勝どころかベスト4にも届かず、全仏V9でついに“クレーコート・キング”ナダルの時代も終焉と評されていた頃だ。

「1つの大会で11回も優勝するなんて」

 そのナダルが2017年にロジャー・フェデラーとともに全豪オープンの決勝に進出し、全仏で復活優勝を遂げた。フランス語を話すナダルに、ローランギャロスへの愛情とパリの人々への献身、V10への覚悟を感じたものだ。1年経ち、絆はより強くなって、再び困難を乗り越えさせた。

 ナダルは言う。

「1つの大会で11回も優勝するなんて、夢にも考えられないこと。でもこうして実現した。この機会を僕に与えてくれた人生にいつも感謝の思いでいる。僕と同じように、いやそれ以上にがんばっているにもかかわらず、こんな幸運には恵まれてない人も大勢いるのだから」

 終わったはずのナダルの時代はこの先いつまで続くのか。今回の敗者ティームがキーマンになることは間違いない。

「来年は僕もフランス語を話せるようになって戻って来たい」

 そう言ってはにかんだティームの今の恋人は、フランスのクリスティナ・ムラデノビッチ。そういえば、セリーナ・ウイリアムズもかつてフランス人コーチのパトリック・ムラトグルーとの恋人時代にあっという間にフランス語をマスターして、フレンチ・オープンではインタビューもスピーチもフランス語でこなすようになった。

 次代のクレーコート・キング候補の1年後も大いに楽しみだ。

文=山口奈緒美

photograph by Getty Images


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