男子バレーの熾烈な正セッター争い。藤井か関田か深津か、監督の決断は。

男子バレーの熾烈な正セッター争い。藤井か関田か深津か、監督の決断は。

 全日本男子バレーの今年最初の国際大会、ネーションズリーグの予選ラウンドが終了し、日本は6勝9敗の12位で大会を終えた。

 ネーションズリーグは今年新設された大会で、16チームが毎週3試合ずつ5週にわたって総当たり戦を行う。強豪国が参加する中、日本は4週目までイタリア、イラン、ドイツなど格上のチームからも勝利を挙げ、6勝6敗の五分で決勝ラウンド進出の可能性も残していた。

 しかし最終週の中国大会で中国、セルビア、カナダに3連敗を喫した。

 それでも今大会、チームの目指す方向性が見えていたことは収穫だった。特に明確だったのが攻撃だ。

 今年5月の記者会見で全日本の中垣内祐一監督は、「クイックとパイプ(コート中央のゾーンからのバックアタック)にどんどんトスを集めて、その比率を高めていくという昨年目指したポイントを引き継ぎ、さらに速くする。クイック、パイプは我々の生命線になりうる」と語った。ネーションズリーグではそれが形になっていた。

新スタイルを実現する2人のセッター。

 目指す攻撃をコート内で実現していたのが、2人のセッター、藤井直伸と関田誠大である。

 所属チームの東レでもクイックを積極的に使うトス回しが持ち味の藤井は、昨年代表デビューすると、代表でも持ち味をいかんなく発揮した。それまでの全日本はミドルブロッカーの得点が少なく、攻撃がサイドに偏り相手ブロックに的を絞られやすいという課題があったが、そこが改善された。監督やフィリップ・ブランコーチの信頼をつかみ、今年も首脳陣は藤井を正セッターにと考えていた。

 ネーションズリーグ初戦のオーストラリア戦で、藤井は徹底的にクイックを使った。ミドルブロッカーの李博は13本中11本のスパイクを決め、4本のブロック、サービスエースと合わせてチームトップの19得点を挙げる活躍。李の対角の山内晶大も12本中9本決め、セットカウント3−1で勝利し、好スタートを切った。

18歳西田有志の加入で藤井も生きる。

 18歳のオポジット西田有志の加入は藤井にとっても大きかった。

 今年4月、初めてコンビを合わせた西田について、藤井は「ニコ(ジョルジェフ・ニコラ)に上げているような感覚」と話していた。ジョルジェフは2016/17V・プレミアリーグで東レが優勝した時にMVPを獲得したオポジットだ。

 彼に近い速いトスを打ちこなす西田が入ったことで、クイックとライトの速い攻撃を軸に、東レを優勝に導いた時のような得意のリズムで攻撃できていた。

 相手がクイックをマークしてくると、次はパイプ攻撃の頻度を増やし、さらに相手ブロックを翻弄することを目指した。しかし、その前につまずいてしまった。

 3週目の大阪大会では、なかなか藤井らしいリズムが作れなかった。サーブレシーブを揺さぶられたことも一因だが、藤井にとって生命線とも言える李とのコンビが合わなかったことが大きい。

不調の藤井にかわって関田が力を見せる。

 1週目のフランス大会、2週目のブラジル大会を戦い、ブラジルから帰国して2日後に大阪大会開幕というハードスケジュールによるコンディション低下が原因だった。

「自分のタイミングがいつも通りじゃないから、李さんにはすごく迷惑をかけている。ブラジルからの移動は僕自身初めてで、うまく(コンディションを)作れなかった。

 ボールの下に入るのがちょっと遅くなったり。それをわかった上でのトス回し、例えばもう少しタイミングを早く跳ぶようにしたり、いつもよりトスを高めに出すよう意識したり、工夫をしながら整えていかなきゃいけないと思っています」

 そんな時、チームを救う活躍を見せたのが第2セッターの関田だった。大阪大会で日本はブルガリア、ポーランドに連敗したが、3戦目のイタリア戦では第2セット終盤から関田がコートに入り、フルセットの勝利に貢献した。

 関田はクイックに加えてパイプ攻撃を多用。ミドルブロッカーをBクイックに入らせて相手のミドルを引きつけ、福澤達哉のパイプ攻撃がノーマークになる場面が多々あった。

 コンビが合わず得点につながらないものも多かったが、相手ブロックの意識に植え付けることはできた。

関田はサイドのエースへのトスが特徴

 そして翌週のドイツ大会では、藤井に代わって関田がAチームで先発出場。福澤、柳田将洋とのパイプのコンビは徐々に合って得点につながり、ドイツ、アルゼンチンから勝利をもぎとった。

 関田は真ん中からの攻撃を積極的に使いながら、サイドのエースにも気持ちよく決めさせられることが強みだ。東洋高校時代は柳田、中央大学時代は石川祐希とともに日本一に上りつめたことが実証している。

 大阪大会ではレフトへのトスの精度が低く決定率が上がらなかったが、ドイツ大会以降は修正され、柳田の攻撃力も引き出されていた。

似て非なる2人のスタイル。

 藤井と関田は2人とも真ん中のゾーンを積極的に使うセッターだが、その理想は似ているようで異なる。

 理想とするトス配分について聞くと、藤井はこう答えた。

「ミドルブロッカーとパイプで4割、オポジットが4割、レフトが2割。ミドルとオポで点数を取りたい。アウトサイドはサーブレシーブとか、いろいろ負担がかかるので。ただ、マサ(柳田)は打たせてテンションを上げるタイプだとか、人それぞれ考えながらですけどね」

 一方、関田はバランスを重んじる。

「クイックが25%、パイプが25%、ライト25%、レフト25%。大学の時に、アメリカ代表がそういう割合を目標に設定しているという話を石川に聞いて、それを参考にしました」

 関田は、2016年のリオデジャネイロ五輪世界最終予選でメンバーに抜擢され、代表デビューした。だが全日本でもパナソニックでも、深津英臣の控えだった。

 昨年も全日本に選出されたが、早々にパナソニックに帰された。ならばパナソニックでレギュラーを奪おうと、夏場は必死に取り組んだ。強化合宿では先頭に立って走り込み、深津が全日本で不在の間、コンビも着々と仕上げていった。昨シーズンの開幕前、オポジットの清水邦広は「今年は関田が一番頑張っている。めちゃくちゃ自分を追い込んでいる」と語っていた。

「やってられない」と思う瞬間はあっても。

 それでも、Vリーグの開幕セッターは深津だった。そして司令塔・深津のもとでパナソニックは天皇杯、Vリーグ、黒鷲旗の3冠を達成した。

「やってられない」と思うことはないのかと聞くと、関田はこう答えた。

「もちろん思う時はありますよ。これだけやっても、スタメンだめなんだ……とか。努力が足りないのかな、何がダメなのかな、とか考えますけど、結局はバレーが好きなので」

 今年の全日本合宿では、鬼気迫る表情でコートを走り回る関田の姿があった。

「(Vリーグで)試合に出ていなくてもこうやって選んでいただいたので、絶対につかみとってやろうという気持ちが強かったです」

 その関田に今、大きなチャンスが巡ってきている。

ベテラン深津は主力チームを外れて……。

 その一方で、今、我慢の時を過ごしているのが深津英臣だ。

 深津は'14年から'16年まで全日本の不動の正セッターで、石川や柳田など若手が開花する助けになった。昨年は藤井の控えに回ったが、主将として献身的にチームを支えた。その後の'17-'18シーズンはパナソニックを3冠に導き、国内で改めて存在感を発揮した。

 しかし今年の全日本では、深津は5月から、ネーションズリーグを経て9月の世界選手権を目指す主力チームから離れ、8月に行われるアジア大会を目指す若手主体のチームに参加している。

 その理由について、中垣内監督はこう語った。

「深津はVリーグ、天皇杯、黒鷲旗で優勝した非常に優秀なセッター。彼ができるのはよくわかっているし、深津の能力についてはもうある程度把握している。だから今年は(今まで出場機会の少なかった)関田に注目したいと考えてのことです」

 今年、全日本が一番のプライオリティを置いているのが世界選手権だ。世界選手権とアジア大会の日程が近いため、アジア大会は別チームで臨むことになった。しかしアジア大会も非常に重要な大会のため、そこでも結果を残すために経験豊富な深津に託されたとも考えられる。

「絶対にまた這い上がってこい」

 だが深津は冷静にこう語る。

「プラスに考えればそうですけど、実際は、僕自身はそうじゃないと思っています。パナソニックで求められるものと、ジャパンで求められるものは違うので、求められていることに対応しなきゃいけない。そこが単純に僕は今できていないから、こういう形になっているだけだと思う。

 だからこれからは求められていること、“クイックとパイプ”を意識してやっていかなきゃいけない。『なんで選ばれないんだろう?』と考えると、やっぱりそこがすごく大きいと自分で感じています」

 主力チームを離れる時、中垣内監督とブランコーチからこう言われたという。

「お前なら腐ることはないと信じているから、心配はしていないけど、本当に一生懸命やって、絶対にまた這い上がってこい。期待しているぞ」

アジア大会で優勝して返り咲くために。

 いろいろな思いを飲み込み、アジア大会チームの合宿でも、以前と変わらず声を出し、若い選手を引っ張る深津の姿があった。同じセッターの大宅真樹は、「オミさん(深津)は本当にすごい。尊敬します」と胸を打たれていた。

「今は、『このチームで、アジア大会絶対優勝してやる!』という気持ちになっています。それがこっちで与えられた仕事。ここで結果を残すことによって、またA代表に戻れるきっかけにもなる」

 そう言って、深津は悔しさをこらえて前を向く。

 実績に関係なく、チームの目指す攻撃を実現できるセッターがコートに立つ。シビアで熾烈な司令塔争いが、日本代表をさらに引き上げていくことを期待したい。

文=米虫紀子

photograph by Naoki Nishimura/AFLO SPORT


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