八村&ファジーカス加入で劇的変化。歴史的勝利が導くバスケ代表の未来。

八村&ファジーカス加入で劇的変化。歴史的勝利が導くバスケ代表の未来。

 日本のバスケットボール・ファンにとって、忘れられない、悔しい試合がある。

 2006年8月、日本で開催された世界選手権グループラウンドの対ニュージーランド戦だ。その2日前のパナマ戦で勝利をあげていた日本は、格上で勝ち目はないとみられていたニュージーランドとの試合でも、持ち味の速い攻撃を生かして主導権を取り、前半が終わって38−20と予想外の18点大量リード。勝てば史上初のグループラウンド突破というチャンスを前に、ファンはつかの間の夢を見た。

 しかし、後半に入って続けてミスを誘われ、追い上げられ、最後は連続3Pシュートを決められて逆転負け。

 勝ちきることの難しさ、ホームの味方の応援が逆にプレッシャーとなることの怖さを痛感した。

 その後の日本バスケ界の迷走もあり、日本の限界の象徴として、人々の記憶に刻まれてしまった。

唯一残る当時のメンバー竹内の悔恨。

 当時の代表メンバーで、今夏も唯一代表メンバー入りしている竹内譲次(現アルバルク東京)は、あの時の大会で自分の力を出し切れなかったことを後々まで後悔したという。

「あの時はまだ21歳で、試合にはそこそこ出させてもらっていたんですけれど、代表チームについていくのが精いっぱいだった。あまり我を出せなくて、すごくもったいないことしたなっていうのがずっとあった。

 世界選手権に出て、ダーク・ノビツキー(ドイツ代表)だとかパウ・ガソル(スペイン代表)がいるチームとやるなんて、人生の中でそう何回もないチャンス。もちろん、試合の流れのなかで、チームの決まりごともあるんですけれど、あの時の自分に何か言えるんだったら、『もっと我を出すんだった』。国際ゲームになるといつも思うことですね」

アジア・ランキング1位の豪州に勝利!

 あれから約12年の年月がたち、6月29日、ようやく、日本代表は当時の悪夢の記憶を上書きするような試合を戦うことができた。

 FIBAバスケットボール・ワールドカップアジア予選1次ラウンドのオーストラリア戦で79−78と1点差の勝利をあげたのだ。

 現在、FIBAアジア・ランキング1位のオーストラリアは多くのNBA選手を輩出している強国で、男子日本代表はこれまでに一度も勝ったことがない相手だった。NBA選手が1人も参加しなかった2月の試合でも、敵地で24点差をつけられて負けている。しかも、今回は現役NBA選手が2人加入した。フルメンバーではないが、それでも、日本がこの試合で勝ち点を取るのは難しいと、多くの人が思っていた。1次ラウンド通過だけを考えると、同時に行われていたフィリピン対台湾で台湾が勝たない限り絶対に勝たなくてはいけない試合というわけでもなく、3日後のチャイニーズ・タイペイ戦に勝負をかけて主力温存という策もありなのではと思われた。

 それでも、日本は本気で勝ちを狙い、実際に勝利という金星を勝ち取った。

新戦力の2人。八村とファジーカスがチームを牽引。

 12年前と同じように前半に主導権を取り、42−33とリードした後、後半に追い上げられ、3Qに一度は逆転されながら、再逆転し、4Qも一進一退の競り合いの中でつかんだ値千金の勝利。これまでの日本なら負けていたような試合を、見事に勝ちきったのだ。

 その原動力となったのが、この試合で新戦力として加わっていた八村塁(ゴンザガ大)と新しく日本国籍を取得したニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)だった。

 八村が1Qから13点、ファジーカスが2Qだけで12点をあげ、序盤からチームを牽引した。何よりも、相手がオーストラリアでも勝てるという2人のメンタリティ、怖気ることなく相手に向かっていったプレーが、チーム全体に自信をもたらした。

八村の目に写った、自信が無いチームメイト達。

 八村は、この試合で試合開始から意識して強気の攻めをした。

 自分が出られなかった1次予選の最初の4試合、特にオーストラリアとの試合を見て、日本の選手たちに攻め気が感じられず、自信なさそうにプレーしているのが目につき、自分がやらなくてはと思ったのだという。12年前の竹内ができなかったことを、ひょいとやってのけたのだ。

 試合後、八村はこう言い切った。

「僕が最初に(強気に)行って、チームメイトに自信を与えられたらいいなと思ってやりました」

 20歳という若さながら、アメリカの強豪校・ゴンザガ大での2年間で大きく成長した八村は、昨季はオーストラリアから来ているライバル校のエース相手に活躍し、むしろ圧倒していたほどだった。それだけに、オーストラリア人選手は特に組みにくい相手というイメージはなかった。'14年のU17世界選手権でもオーストラリアと対戦しているが、試合にこそ敗れたものの、オーバータイムにまでもつれる激戦を戦っている。むしろ、今回はそのリベンジを果たしたいという志を持っていた。

八村とはまた異なる強さを持つファジーカス。

 33歳のファジーカスは八村のような若い野心とは別の、経験から来るメンタルの強さを持っている。

 偶然の要素で試合が決まることが少ないバスケットボールという競技だが、1試合だけなら実力で上回るチーム相手に勝つことはある。

 ファジーカス自身、ネバダ大時代にNCAAトーナメントで上位シードのチームに勝ったこともあった('04年には、当時第10シードのネバダ大を率いて、第2シードだったゴンザガ大にも勝っている)。練習の時から、オーストラリア相手でも、自分たちには勝つチャンスがあると、チームメイトたちを励ましていた。

「ルイと僕は、失うものは何もないという気持ちでやってきたんだ。僕らが入った時点でチームはすでに0勝4敗だった。ルイと僕はそんなチームの流れや、以前から続いていたカルチャーを変えるために加わった」と、そのメンタリティを説明した。

「僕らも勝てるということをみんなに伝えた」

「僕はチームのリーダーとして、僕らも勝てるということをみんなに伝えるようにした。“アンダードッグ”が勝つことはよくあることだ。NCAAトーナメントでもよくある。僕はいつも、どんな試合でも勝つつもりで向かっている。

 FIBAの人たちは誰も、僕らがオーストラリアに勝つとは思ってもいなかった。でも、僕らはそのことで、余計にやる気が出た。オーストラリアが(日本まで)長いフライトで来たことは知っていたし、彼らにとっては難しい戦いだということもわかっていた。そこを突いたのさ」(ファジーカス)

 2人の活躍は、チームの他の選手たちにも好影響を与えた。

 12年前に「我を出せなかった」と後悔し、世界と戦うたびに、その思いを持ち続けてきた竹内も、この試合後には、自分の持てるものをすべて出し切ったという満足の笑顔を見せていた。

 八村やファジーカスが活躍するのをただ見ているだけでなく、自分でも、チームが勝つために必要な「我」を出し、相手の隙をついて自ら攻め、ディフェンスでも運動能力の高い相手に得意なプレーをさせないような工夫をして抑え、勝利に貢献した。それは、1カ月間の練習で常にひとまわり若い八村とマッチアップし、「年齢関係なしに負けたくないという気持ちでやって、ひとつ成長できた」ことの成果でもあった。

2月に1点差で負けた相手に40点差をつけて圧勝。

 竹内だけではない。

 2人が加入するまでチームのエース役を担ってきた比江島慎(シーホース三河)や、躍動感あふれるプレーが持ち味の馬場雄大(アルバルク東京)など、まわりの選手たちも皆、八村やファジーカスが戦いやすいようにサポートする一方で、彼らに任せきりにすることなく、自分たちの味を出した。

 自信をつけた日本は、7月2日のチャイニーズ・タイペイ戦も、敵地での試合にもかかわらず、108−68と40点差をつけての圧勝。2月のホームゲームでは1点差の敗戦を喫した相手で、負けたら予選1次ラウンドで敗退というプレッシャーがかかった試合でもあった。八村や竹内がファウルトラブルで苦しんだが、それでも完勝し、2次ラウンド進出を決めた。

'06年には田臥勇太は代表参加できなかった。

 9月から始まる予選2次ラウンドは1次ラウンドでの2勝4敗という成績を持ち越すため、決して楽な戦いではない。

 それでも、今回の歴史的な勝利によって、個々の選手の海外での経験と成長が最終的に代表の底上げにつながるという実績を作ったことは大きな意味を持っている。

 そのことも12年前からの変化のひとつだ。'06年には、当時NBA挑戦していた田臥勇太(現栃木ブレックス)が代表合宿に参加できないため、早々に代表候補から外れた。同じメンバーで完成度を高めることだけが、代表強化の道だと信じられていたのだ。しかし、世界を相手に戦うためには、ベースの力を引き上げることも必要だし、変化に対応できるチーム作りも重要なのだ。

「八村と渡邊が合流することがすごく重要」

 強豪アルゼンチン代表のヘッドコーチを務め、世界の頂点をしっているフリオ・ラマスHCは言う。

「ルイのような1人の青年が、日本人でアメリカに行って、向こうであれだけ活躍しているということは日本全体の夢がそこにあるということ。そのことは元々いた代表選手たちもみんなわかっているから、彼らもそういう選手をしっかりサポートしてあげたいという気持ちがあり、その姿勢を見せてくれた」

 さらに、こうも言った。

「9月はもっといい試合ができるんじゃないか、もっといいチームになるんじゃないかと私は思っています。そのためにはBリーガーの選手たち全員に来てもらうことが大事ですし、八村塁と渡邊雄太の2人とも合流してもらうことがすごく重要です。2人とも9月に出場してもらいたい」

 9月に行われる2試合のうち1試合は、アジア・ランキング2位のイランとのホームゲームだ。以前なら、いくらホームでの戦いでも諦めムードが漂うところだったが、オーストラリア戦で生まれ変わった日本なら、勝てない相手ではない。強がりでも身びいきでもなく、自然とそう思えるようになったことこそ、オーストラリア戦勝利の成果だ。

文=宮地陽子

photograph by Kiichi Matsumoto


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