オシム「サッカーの未来が分かる試合」クロアチアvs.イングランドの重要性。

オシム「サッカーの未来が分かる試合」クロアチアvs.イングランドの重要性。

「日本はどうなっているのか。また台風の犠牲が出たのか?」というのが、開口一番のイビチャ・オシムの言葉だった。

「台風ではなく豪雨ですが大きな犠牲が出ています」と答えると、「1日も早く復興して欲しいし、いつの日にかこうした災害の犠牲がなくなることを願ってやまない」とオシムは続けた。

 今しがた終わったばかりのクロアチア対ロシア戦の興奮が冷めやらぬ私に、彼の言葉は冷水を浴びせかけたといってもよかった。クロアチアの準決勝進出をオシムも純粋に喜んでいるだろうと思いこんだのは、あまりにシンプルでナイーブであるといえた。

 自分の立ち位置を常に確認し、言及すべきことに言及する。

 サッカーに関しても、適切な距離感と客観性を決して失わない。

 彼の言葉を聞いて、私も冷静さを取り戻すことができたのだった。

 おもむろに彼は語り始めた。ロシア対クロアチアの準々決勝について、クロアチア代表というチームについて、そして次のイングランドとの準決勝について……。

 準々決勝を終えてのオシムの言葉をここに掲載する。

「だからすべての試合が生きるか死ぬかになる」

――(ロシア対クロアチア戦は)壮絶な試合になりました。

「サッカーも真剣勝負で、それぞれの試合が喉元にナイフを突きつけられている状況だが、身体に問題のある人は死に至ることもあり得る。ワールドカップをプレーする選手たちは皆100%かそれ以上を出し切っている。力尽きて走れなくなってもなおプレーしようとする。ソチの気温がどのくらいだったか教えてくれ」

――もの凄く暑いです。35度に近かったと思います。

「それは厳しい。ソチは黒海海岸沿いの美しいリゾート地だ。多くの人々が夏のバカンスや冬の避寒で訪れ、休養するにはいい場所だ。しかし今は暑すぎる。だからすべての試合が生きるか死ぬかになる。

 すべてを出し切らざるを得ない選手は、フィジカル面でもメンタル面でもほとんど空っぽになる。チームの力は拮抗し、多くの試合がPK戦までもつれ込むから、プレーするのがとても大変だ。

 たったひとつのミスが命取りになる。そうした人生を送るのは簡単ではない。まったくミスすることなく生きていくのは。

 ミスを犯せばきつく咎められる。あまりに厳しいと言わざるをえない」

「日本はもう1試合やるべきだった」

――今日の試合もまさにそうでした。

「選手たちは消耗し尽して、疲労が試合の運命を決めた。フィジカルコンディションが良ければ試合もずっといいものになっていたが、疲労が試合のレベルも下げてしまった。優れた選手でもコンディションが万全でなければ思うようなプレーはできない。

 モドリッチにしろ香川にしろ、頭に酸素を送り続ける必要がある。酸素の補給は不可欠で、へとへとになって家に帰るようではまずい」

――コンディショニングがとても重要になります。

「それでも幾人かの選手は才能を示した。モドリッチやコバチッチ、クラマリッチといった選手たちで、彼らには未来がある。それは日本の選手たちも同じだ。

 日本はもう1試合やるべきだった。他がどんなやり方をするかを観察して、必要なだけ相手に喰らいつく。そうなって欲しいと私は願う。

 君らを心から祝福する。

 日本に幸運が訪れんことを」

ラキティッチとモドリッチへの過大なプレッシャー。

――クロアチアについてもう少し語ってください。準決勝進出は'98年以来ですが。

「彼らは最後相当疲れていた。とりわけラキティッチとモドリッチのふたりには、これまでもずっと大きなプレッシャーがかかっていたし、この試合でも力尽きるまでプレーした。そして最後はPKも蹴らねばならなかった。

 彼らがどれだけ疲弊し尽していたか私にはよくわかった。

 しかし彼らの努力は報われた。(試合内容を鑑みれば)勝利に値したし、PK戦は公平とは言えないが、それで勝敗を決めねばならないのがサッカーでもある。PK戦は観客にとって最も面白い勝負のつけ方として考案された。ある意味これ以上はない真剣勝負でもある。

 多くの人々はPKを簡単に蹴れると考えている。しかし背負うものが大きくなると、PKを蹴るのは大きな重圧が伴う。成功するか失敗するかで、動く金の額も莫大なものになる。そうしたことすべてが選手の頭をよぎる。だからこそ難しい」

「チームの結束は、固すぎると言ってもいいほどだ」

――PK戦を別にしてもクロアチアは素晴らしかったです。

「それには理由があって、スポーツが政治を越えているからだ。スポーツの力が政治を上回る。そしてこのチームはすでに多くの経験を積んでいる。これまでに複数の大きな大会に参加し、それなりの実績を残してきた。

 またチームの結束も固い。固すぎると言ってもいいほどだ。ビッグクラブに所属する選手たちがチームを構成し、嫉妬も反目も彼らにはない。

 チーム内に何の問題もないのは、監督がそういう選手たちを選んだからだ。グループの調和を保ち、固い結束で最後まで行きつける選手たちだ」

「イングランドは常にイングランドだ」

――だから誰が相手でも力を発揮できる。

「勝ち進んだことで、周囲の期待も以前よりずっと大きくなったが、チームの中では誰も大言壮語はしない。すべてが良くコントロールされ、チームはとてもバランスが取れている。特筆すべきは、ベンチの控え選手たちも充実していることだ。彼らもまたビッグクラブで経験を積んでいるから、交代の際にも的確な選択ができるし、最も適した選手が問題を解決することができる。

 前線のクラマリッチとコバチッチ。その後ろにはラキティッチとモドリッチがいる。彼らはあまりプレッシャーを感じることなくプレーしている。そこが素晴らしい。彼らが言うように、最後まで行けるかどうか注目したい」

――次のイングランド戦ですが……。

「イングランドは常にイングランドだ。そう変わるものではない。日本がアジアでそうであるように、彼らはヨーロッパで常にトップの位置にいる。没することのないサッカー大国だ。彼らには経験のアドバンテージがある。サッカーの母国であり、彼らを凌駕するのは容易ではない。

 私が疑問に感じるのは、前線に本当にクオリティの高い選手が揃っているのかということだ。かつてのボビー・チャールトンのような選手は今のチームにはいない。レベルは高いが、一度すべてをシャッフルし直した方がいいかも知れない。というのも国内には代表選手たちと同等の力を持った選手が数多く残っているからだ(笑)」

サッカーの方向性が、この試合から分かるだろう。

――スターリングを別にすれば、下馬評ではそれほど良い選手がいる、強いチームとは言われていませんでした。

「それでも強さを発揮するのがイングランドのメリットだ。

 彼らに戦術はあまり意味を持たない。サッカーはサッカーであって、それを突き詰めていけばいいと考えているからだ。フィジカルが強く戦闘能力が高い。戦を好むスタイルだ。

 彼らを相手に戦いに勝つのは難しい。身体が頑強だから空中戦でも強さを発揮する」

――どんな試合になるでしょうか?

「素晴らしい試合になって欲しい。どちらのチームも、もの凄く魅力的なチームとはいえないが……素晴らしい試合を演じられる力は持っている。

 そしてどちらがこれから先のサッカーのトレンドとなっていくか見たい。

 攻撃的かつ芸術的なスタイルだ。

 チームにアーティストがいればそれだけで輝きが増すが、美しくプレーができるアーティストがいなくとも、屈強で戦いに強くよく走れる選手が、スピードと運動量で違いを作り出す。彼らが構築するサッカーもまた美しい。

 サッカーがこれからどこに向かっていくか、この試合からわかるだろう」

文=田村修一

photograph by Takuya Sugiyama/JMPA


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