「ベルギーの力は圧倒的、完璧」トルシエすらフランス不利と予想。

「ベルギーの力は圧倒的、完璧」トルシエすらフランス不利と予想。

 もっと簡単なインタビューになるだろうと、当初は考えていた。フランスが勝ちあがったらその理由と、次の準決勝ブラジル戦に向けての展望をそれぞれの試合の後に聞く。だが、ウルグアイ戦でのフランスの低調なパフォーマンスと、ブラジル戦でベルギーの起こしたサプライズが状況を複雑にした。

 グアダラハラ(プラティニのフランスとジーコのブラジルが相まみえた'86年ワールドカップ準々決勝。ワールドカップ史上最高の名勝負とも言われている)のような叙事詩的な余韻はないが、史上屈指の名勝負であることは間違いない。それほどベルギーが与えた印象は強烈だった。

 ここに掲載するのは、7月6日におこなわれた、フィリップ・トルシエとの2度の電話インタビューのほぼ全文である。まずはフランス対ウルグアイ戦後だ。

フランスは規律にあふれていた。

――比較的静かな試合になりました。

「驚きはなかった。今日もまたセットプレーが大きな意味を持った。フリーキックの重要性も変わらずで、ゴールキーパーのミスも試合に大きな影響を与えた。

 フランスは希望を抱き続けることができた。その攻撃力で、優勝候補としての力を証明することもできた」

――そうではありますが……。

「ロリスの素晴らしいセーブが何度もあった。彼がひとつでもミスをしていたら、試合の様相はまったく異なっていただろう。

 ただ、ウルグアイがそれほど怖い存在でなかったのもまた事実だ。ウルグアイが守りを固めて厳しい試合になると予想したが、先制点の後はフランスがゲームを支配した。ゲームを鎮静化し、危険に晒される状況を作りださなかった。パニックも危機もない、抑制の効いた平穏な試合だった。

 つまりごく平凡な試合で、個のレベルでもコレクティブな面からもビッグゲームとはいえなかった。とはいえフランスが規律にあふれ、厳格にプレーしたのも事実だった。守備的なシステムを採用し、トリソをマテュイディに代えて起用した。トリソは守備の強さをよく発揮した。

 守備をベースに考え、攻撃は個の力に頼ったが、今日はグリーズマンもムバッペもごく平凡だった。個の力で違いを作り出せるふたりがそうだった。

 決勝に向けてさらに重要な試合(準決勝)が控えている。普通に考えれば相手はブラジルだ。しかしベルギーが出てきても、難しい試合になるのは間違いない。

 見方を変えれば準々決勝のフランスは素晴らしかった。完全にゲームを支配してウルグアイに付け入る隙を与えなかった。心理的にいい状態でフランスはブラジル戦に臨める。そしてフランスにとって、ブラジルを破るのは願望ではない」

攻撃はムバッペ、グリーズマン頼り。

――歴史的に見てフランスが優位(ワールドカップでは2勝1分1敗。1分は'86年大会準々決勝で、PK戦の末フランスが準決勝に勝ちあがった)です。

「その通りで、大いにチャンスがある」

――ウルグアイはカバーニの欠場が痛かったです。

「運動量と決定力で彼がチームにもたらすものは大きい。カバーニがどれほど危険であるか、パリ・サンジェルマンの彼をずっと見ているフランスの選手たちはよくわかっているから、フランスは安心できた」

――アルゼンチン戦は見事な試合でしたが、フランスはチームを完成させたといえますか?

「答えはノンだ。チームの根幹となる哲学は脆弱で、自分たちが思い描く攻撃を実現していない。基本理念はしっかり守ることであり、4人の守備ラインとカンテ、ポグバ、マテュイディの3人で守備を安定させることだ。それはうまく行っている。

 しかし攻撃はムバッペとグリーズマンだけが頼りだ。ジルーは攻撃に芯を与えているし、空中戦の強さも大きな武器になっているが、哲学はとてもシンプルで日本の哲学とは比較にならない。

 日本の攻撃哲学は豊かだが、フランスは違う。ボールを保持しても、エンバペとグリーズマンに繋ぐタイミングを計っているだけだ。あるいはジルーの空中戦とポストプレーに頼るのみで、攻撃は貧困と言わざるをえない」

――攻撃力が弱い理由のひとつは、両サイドバックが攻撃力を欠いているからではありませんか?

「その通りで、守備は悪くないが攻撃はまったく不十分だ。また前半のヘルナンデスは守備も酷かった。シディベは守備でプラスアルファをもたらせる選手だが、今大会のフランスは負傷で彼を欠いている。それでも監督は守備の哲学を選んだ。デシャンの哲学は4バックをベースに厳格に守り抜くことだった。その意味でトリソを左MFに起用したのは適切だった」

デシャンのイメージを体現している。

――ベスト4に進んだものの、1998年や2006年のチームのような強さはない、ということですね。

「'98年のチームにはパーソナリティーがあった。確立された個とフィジカル、ディシプリン、テクニックが融合したチームだった。しっかりと自分たちのプレーができていて、今のチームとは比較するべくもない。

 とはいえこのチームも、デシャン監督が厳格さを植えつけることに成功した。(現役時代の)デシャンのイメージを体現しているチームだ。労をいとわない守備と徹底したディシプリン……」

――まさに彼のイメージそのものです。

「今のところそれが成功している。これから先はわからないが。

 しかしフランスは、今大会で南米のチームを退けて勝ちあがってきた。ペルーに勝ちアルゼンチンに勝ちウルグアイに勝った。次はブラジルだろうか……。まるでコパアメリカだ(笑)」

――まったくその通りで、スタンドの観客も南米の人たちが圧倒的に多いです。

「だからワールドカップではなくてコパアメリカだ。信じられないが」

――第2試合のあとまた話しましょう。フランスの相手が決まった段階で、どんなことが考えられるか議論しましょう。

個とコレクティブを融合したベルギー。

 そして以下は、ブラジル対ベルギー戦後の会話である。

――凄い試合でしたね。

「驚きはない。サッカーとはこういうものだからだ。素晴らしいチームのサッカーだった。

 まさに完璧といえた。守備が素晴らしく、攻撃も鋭かった。セットプレーを存分に活用した。プレーとはまさにこうで、それはフランスに欠けるものだ。

 しっかりと守ってジルーの空中戦で流れの変化を待つ。グリーズマンのテクニックと創造力、ムバッペのハイパー高速テクニックが違いを作り出し、流れを変えることを。それ以外のプレー理念はフランスにはない。

 ベルギーは違う。プレーを作り出したのはチームであり、組織的な力や戦術だった。守備もつまらないミスはひとつもない。ルカクとエデン・アザールを前線に置いたのは、チャンスを逃さずにゴールを決めたいという狙いの現れだった。たしかな戦術と戦略がそこにはあった。

 また選手も、個の能力をコレクティブに発揮した。チームのために彼らはプレーし、監督の指示を忠実に守った。監督は最善のシステムを考え、選手は全力でそれを実現しようとした。これほどのチームはなかなか見られるものではない。

 アザールは本当に素晴らしかった。フェライニやルカクもそうだ。チームはとてもバランスが取れていた。ブラジルはボールを保持し、ゲームを支配したが、すべては個人頼りだった。組織力を欠き、チームとして機能することができなかった」

ネイマールは髪をなでていただけだ。

――ネイマールをどう見ますか。この試合の彼は何もしませんでしたが?

「ピッチの上で髪をなでているだけだった。私が監督だったら、彼を唯一無二の存在にはしない。

 たしかに彼は、チームに何かをもたらしてくれる。ベルギー戦の彼は、フランスのムバッペのような存在だった。ドリブルで相手守備陣を引き裂くだけで存在意義はある。

 ただ、彼を軸にしてチームを作るのは簡単ではない。いいアイディアであるとも思えない。違いは作り出せるが、今日、勝利をもたらすことができるのはベルギーが示したようなコレクティブだ。ベルギーは個の力も突出していたが、それ以上にチームがコレクティブに機能していた」

――今日のフランスとベルギーを比較したら、ベルギーが断然優れているということですね。

「ベルギーの力は圧倒的だ。セットプレーも優れているし、違いを作り出し得点も決める個の力がある。

 フランスにはコレクティブな能力がない。プレーの哲学もない。自分たちのプレーはこれだという主張も表現もない。あるのは守備の強さと、ジルーの空中戦を頼りにする戦い方だけだ。どちらが強いかといえば、それは圧倒的にベルギーだ」

――ベルギー戦に臨むにあたり、フランスは戦術の再編成は不可欠ということですね。

「今の戦い方ではベルギーに通用しない。守備をベースにするのはいいとしても、攻撃をどうするかは根本的に考えねばならないことだ。それもとても限られた時間の中で」

――フランスにとっては難しい試合になる。

「ベルギーが優位であるのは間違いない。 コレクティブと個の力の融合はそれだけ進んでいる。予選でほぼすべての選手が得点を決めているのは、チームがそれだけ完璧であるということだ」

――ビッグゲームになると。

「それほどベルギーの印象は強烈だった。ネイマールとアザールを比較しても断然アザールだ。ネイマールはコメディアンで(笑)、レフリーを騙すことしか考えていない。本当にゼロだった。これでいいか?」

――メルシー、フィリップ。

文=田村修一

photograph by Getty Images


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