ウルグアイが誇る最強2トップ。スアレス&カバーニの奇跡と結末。

ウルグアイが誇る最強2トップ。スアレス&カバーニの奇跡と結末。

 奇跡だと、つくづく思う。

 なにしろ南米の小国ウルグアイの、それもサルトという人口10万人ほどの小さな街から、同じ年に、しかもわずか21日違いで、2人の世界的なストライカーが生まれたのだから。

 ルイス・スアレスとエディンソン・カバーニ。

 いまや「世界最強の2トップ」と謳われるウルグアイ代表の同級生コンビだが、似ているのは類まれな得点嗅覚と分厚い胸板くらいで、性格も、試合中の振る舞いもずいぶん違う。

 その突き出た頬骨から意思の強さが伝わってくるカバーニは、ピッチ上ではまさしく“ガーラ・チャルーア(=不屈のウルグアイ人魂)”を体現するグラディエーターのような闘士だが、普段は物静かで謙虚な性格で知られる。

献身的なカバーニ、散歩するスアレス。

 一方、ほんの少しだけ先輩のスアレスは、いかにもやんちゃ坊主の雰囲気。垂れ目でビーバーのような前歯が可愛らしい印象も与えるものの、その前歯で本当に相手選手に噛みつき、これまで確認できるだけでも3人の犠牲者を出すなど、ときに狂気をにじませる。

 もちろん、代表チームにおける戦術的な役割の違いもあるのだが、カバーニがボールのラインより後ろに下がって守備も献身的にこなすのに対して、スアレスは大半の時間を犬の散歩でもするように歩きながら、ひたすらゴールを奪うことに専念する。

 笑ってしまったのは、ポルトガルとの決勝トーナメント1回戦だ。中央から右サイドのスペースに走り込み、ゴールライン際でボールを引き出したスアレスが、その動きだけで疲れ切ってしまったのか、膝に手を当てて休んでいる。

 終了間際のワンプレーではない。まだ前半の35分にもなっていない時間帯の出来事だ。

ここぞのチェイシングは素晴らしい。

 走行距離のデータを見ると、スアレスはいつも1kmくらいカバーニより少ない。ただ、スアレスの名誉のために言っておくと、彼のここぞという場面でのチェイシングは、今大会でも実に効果的にハマっていた。

 チーターのように、短距離のダッシュで確実に獲物を仕留める。実際、試合中のスプリント回数では大抵、カバーニを上回っていた。

 キャラクターの違いがそんな風評を呼ぶのか、何度か不仲説を報じられたこともある。スアレスのゴールをカバーニが祝福しなかった、カバーニのパスの要求をスアレスが無視した云々。選手入場の際は10番目がカバーニ、しんがりがスアレスと決まっているが、確かに2人が微妙な距離を保っているように見えなくもない。

 だが、その真偽のほどはともかく、ひとたびピッチに立てば、2人はただ祖国の勝利のために共闘する。もうかれこれ10年近くも一緒に代表でプレーしているだけに、コンビネーションはまさに阿吽の呼吸。世界広しといえど、たった2人だけでゴールをこじ開けられる前線のコンビは、そう多くはない。

圧巻だったポルトガル戦での先制ゴール。

 ともに3度目のW杯となる今大会でも、最強2トップは対戦相手に脅威を与え続け、いくつもの決定的なシーンを生み出した。なかでも圧巻だったのは、やはりポルトガル戦の先制ゴールだろう。

 右サイドでボールを持ったカバーニが、逆サイドのスアレスにピッチを横断するようなサイドチェンジのパスを送る。受けたスアレスは少しだけ内に持ち出し、右足で高速クロスをゴール前に打ち込む。

 これに猛烈な勢いで“顔面”から飛び込んで合わせたのが、カバーニだった。直後、惑星同士が衝突したような音を立てて弾き出されたボールが、ポルトガル・ゴールに突き刺さっていた。

あまりに痛すぎたカバーニの負傷。

 一度追いつかれた後、クリスティアーノ・ロナウドとポルトガルに引導を渡したのも、このダブルエースだ。ロドリゴ・ベンタンクールからの横パスを、中央のスアレスは外側を走るカバーニに一瞥もくれずにスルー。

 そこに必ず走り込んでいると信じ、決勝点となるカバーニの鮮やかなコントロールショットを導き出している。

 ポルトガル戦までの4試合で7得点・1失点。堅守速攻を絵に描いたようなウルグアイにあって、3ゴールのカバーニ、2ゴールのスアレスの決定力は絶対不可欠だった。

 ところが、2本の矢の1本が折れる。

 ポルトガル戦の終盤に左ふくらはぎを痛めて途中交代していたカバーニは、結局、準々決勝のフランス戦に間に合わなかった。

「300万人のウルグアイ国民が、エディ(カバーニ)の回復を待っている。僕自身もその1人だ」

 神妙な表情でそう話していたスアレスだが、願いは通じなかった。

フランス戦、スアレスのシュートは0本。

 頼れる相棒を失ったスアレスは、その相棒の分まで戦おうと覚悟を決めていたのだろう。フランス戦ではいつも以上に守備に走り、スプリントを重ねた。自らが囮となるオフ・ザ・ボールの動きで、とりわけ立ち上がりにはいくつかのチャンスも演出している。

 しかし、彼が望むところにパスは出なかったし、彼が意図したスルーに反応する者もいなかった。代役を務めたクリスティアン・ストゥアニもよく戦った。けれど、誰もカバーニのようにはプレーできなかった。

 数字は残酷だ。

 フランス戦でスアレスが放ったシュートは0本。血の気の多いハンターは、ライフルを抱えたまま、結局一度も引き金を引けなかった。

「言い訳はしたくない。けれど、エディの不在は大きかった」

 カバーニを1人欠いただけで、これほど攻撃力が低下するのだと改めて思い知らされたのだろう。後半、クリスティアン・ロドリゲスとフランスの神童キリアン・ムバッペの接触プレーをきっかけに両チームが乱闘寸前となる。

 その時、スアレスが鬼の形相でいつまでも叫び続けたのは、上手く回らないチームへの苛立ちだけでなく、ムバッペのようなタレントが次々と湧いて出る大国への嫉妬心も、吐き出していたからに違いない。

フォルランを含めて前線の後継者がいない。

 今大会で株を上げたベンタンクールやルーカス・トレイラ、さらにロシア行きこそ見送られたものの、フェデリコ・バルベルデという19歳の大器も台頭するなど、中盤には若くて有望な人材が育っている。

 また、たとえディエゴ・ゴディンが代表を去ったとしても、フランス戦の終了前から悔し涙を流していたホセ・ヒメネスはまだ23歳で、彼がいればウルグアイの堅守の伝統は守られるはずだ。

 では、前線は?

 ディエゴ・フォルラン、スアレス、カバーニという世界的なストライカーを牽引車に、'10年W杯で4位に躍進して以降、充実の時を過ごしてきたウルグアイだが、その後継者となりうるタレントは、今のところ見当たらない。

 すでにフォルランは代表を引退し、スアレスとカバーニも31歳だ。彼らにとって、これが最後のW杯になっても不思議ではないだろう。

4年前も今回も、ピッチに並べなかった。

 71歳と高齢のオスカル・タバレス監督が、10年以上に及んだ長期政権に幕を下ろせば、ウルグアイは確実に1つのサイクルの終焉を迎えることとなる。

 その、いわばウルグアイ代表の分岐点ともなる試合で、ダブルエースが一緒にプレーできなかったことが、返す返す残念でならない。

 思えば4年前も、2人は同じピッチで終戦を迎えたわけではなかった。決勝トーナメント1回戦でコロンビアとの南米対決に敗れた時、すでにスアレスはイタリア戦の噛みつき事件によってW杯から放逐されていた。

 フランスに完敗を喫し、ベスト4への道が絶たれた瞬間、スアレスは膝に手を当ててしばらくの間、芝生を見つめていた。すると、精根尽きた感の同級生にゆっくりと近づいたカバーニが、労をねぎらうようにそっと彼を抱きしめ、軽く頭にキスをした。

 ウルグアイが世界に誇る最強の2トップ──。もし、奇跡の終着点がこの日だったとしたら、あまりにも寂しすぎる。

文=吉田治良

photograph by Getty Images


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