「コメディ」のち「最高のセーブ」。川島永嗣への批判は適切ではない!

「コメディ」のち「最高のセーブ」。川島永嗣への批判は適切ではない!

 決勝トーナメントでの2点差の逆転劇は、1970年メキシコW杯の準々決勝で西ドイツがイングランドに延長の末、3−2の勝利を収めた試合以来、48年ぶりだという。

 アディショナルタイムとなる90+4分の逆転弾までの25分間。ベルギーが繰り広げた3点連取の猛攻は、敵とはいえ圧巻だった。

 ロシアから日本に戻って驚いたのは、ヤン・ベルトンゲンに許した69分の1失点目に対し、川島永嗣の対処ミスのような論調があったことだ。果たしてそうだろうか。

 得点にシュートの前段階での素晴らしいプレーがあるように、失点でも必ずなんらかの原因がある。あの直前、乾貴士のクリアが違う方向に飛んでいたら、結果は異なるものになっていただろう。

キーパーはシューターの意図を読む人種。

 シュートに関しても、一度軌道を見た後だから「対処ができたのではないか」という意見が出る。しかしあのヘディングは、GKを最も無力化するループシュートと同じだ。しかもシュートを放ったベルトンゲン自身が「1点を返したヘッドは少し運があった」と語っている様に、必ずしも本人の意図通りのものではないようだ。

 GKとは、シューターの意図を読んで行動を起こす人種だ。だからサイドからのクロスの蹴り損ないが、ゴールに飛び込む場面をよく目にする。あのシュートに関しても、川島の予測外のものだったのだろう。

 しかも逆サイドのネット上方に飛んだ。ニアポスト際に定石通りのポジションを取った川島が、バックステップを踏んでこのシュートを弾き出すのは、かなり困難な作業だったといえる。

 1点を守ったプレーは忘れ去られがちだが、1点を失ったプレー、それが敗戦につながった場合は、人々の記憶により深く刻まれる。その意味で1つのミスが失点により直結する、GKのポジションは因果な商売だ。

 チームとしての守備の過程は忘れ去られ、一気にGKの責任だけが追及されることがあるからだ。

コロンビア戦、セネガル戦についても……。

 今回のW杯ではネガティブな意味で、川島は注目を浴びてしまった。コロンビア戦のFKからの失点、さらにセネガル戦の先制ゴールを許した場面について、川島のプレーに多くの批判が寄せられたと聞く。

 確かにシュートに対する対応のまずさはあった。しかし、レベルで考えればポルトガル戦でクリスティアーノ・ロナウドのシュートを後逸したダビド・デヘアや、クロアチア戦で相手にプレゼントボールを送ったカバジェロのミスほどではないだろう。

 バイオリズムというものがあるのなら、今大会に至る過程で川島のそれは、決してよくなかった。横浜でのガーナとの壮行試合。大会直前の欧州合宿中のスイス戦。誰の目にも守備ラインとの連係ミスが見え、判断に迷いがあるのは明らかだった。そのことについて川島は、こう話している。

「(監督交代で)新しいチームになったガーナ戦から、自分のなかで入りがよくなかった。うまくそれを断ち切れないという部分があった」

 気持ちの整理がつかないまま、川島は自身3度目のW杯に臨むことになったようだ。

 コロンビア戦で39分にキンテーロに許したFKからの失点。「壁の下を越えた時点でかなり難しいなと思った」という発言は、周辺の話を聞くと、どうもその部分だけを切り取られた感もする。これによって受けた批判も大きくなった。

 しかし、昌子源の話では壁に入った選手は、ジャンプしないで最後までボールを見て、壁の下を空けない約束になっていたらしい。川島からすれば、本来はボールが出てくるはずのない場所から出てきた。それが反応の遅れを招いたともいえる。

マネへのパンチングは何のミスだったか。

 悪い流れはセネガル戦にも続く。前半立ち上がり早々の11分に、サディオ・マネに献上した先制点だ。

 あの場面では川島のパンチミスがクローズアップされた。しかし、前段階に原口元気のクリアミスがあった。CKに逃れていれば何の問題もなかったはずだ。ユスフ・サバリの放ったミドルシュートを弾き損ねた川島のボールが、そのままマネに当たってゴールに転がり込んだのは、ミスが2つ重なったからだ。

「キャッチすればなんの問題もなかった」

 そう批判する人はいるだろう。個人的には、必ずしもパンチの判断が間違いだとは思わない。あの場面ではマネが詰めていた。川島の視界にその影が大きく映っていたことを考えると、キャッチミスをフォローされる可能性を捨て切れなかったはずだ。

 本人も「自分のミスで失点してしまった」と認めているように、原因は明らかだった。パンチする拳の、ボールに接する面の角度を誤っただけだ。

ワンハンドで止めたヘディング。

 決勝トーナメント進出を懸けたポーランド戦。西野朗監督は海外メディアからも批判の多かった川島を、前日の記者会見に登壇させた。それは第3戦の先発も川島でかわらないことを意味した。

「前の試合ではチームメイトに助けられたので、明日は自分がチームを助けたい」

 その「明日」となった6月28日のポーランド戦。グループリーグで初めての敗戦となった試合で川島は、最高のプレーでグループリーグ突破という結果をもたらした。

 32分にカミル・グロシツキにフリーで放たれたヘディングシュート。これに対し川島は右にワンステップ踏むと、目標物に向かって一分の無駄もないダイブから右手一本でこれをかき出した。

 直径22cmのボールは、幅12cmのゴールラインを半分以上越えていた。しかしボールが完全にラインを越えないとゴールにはならない。コロンビア戦の失点と、このスーパーセーブの差は、わずかに数10cm。両手でいったコロンビア戦との違いは、より伸びのある遠くまで届くワンハンドを選択したことだった。

BBCが「今大会最高のセーブ」と評したプレー。

「コメディ・オブ・エラーズ」

 FIFA公式サイトで、このように揶揄された川島に対し英国の公共放送BBCは、グループリーグを終えた時点で、このプレーを「今大会最高のセーブ」と評した。

 コロンビア戦、セネガル戦のミスを仲間にカバーされ、そしてポーランド戦では自らがチームを救った。ポーランド戦後に川島は、こう語った。

「自分が1人で戦っているんじゃないのが大きかったです」

 結果としては悔いの残る試合になってしまったベルギー戦。ベスト8に手が届きかけていた。その中で86分に川島が見せたファインセーブは、彼の真骨頂といえた。

 ナセル・シャドリ、ロメル・ルカクによる2連続のヘディングシュートを、連続して弾き出した反応の早さだ。日本代表の練習を見ていても気づくが、一度体勢を崩した後のセカンドボールに関しての復元力で、川島は群を抜くのだ。

すべてのGKコーチが、彼を先発に選んだ。

 2010年南アフリカW杯でポジションを奪って以来、5人の監督が代わってもゴールマウスに立つのは常に川島だった。それは日常の練習を通して、技量を最も客観的に見極める存在であるすべてのGKコーチが、川島が日本で最高のGKと認めていたからだろう。

 確かにロシアでの川島には、ミスもあった。もちろんその印象は消せないのだが、逆にこのような記録もある。

 FIFAが発表しているラウンド16終了時点でのGKセービング数ランキングだ。

 14度のセーブを行った川島はイゴール・アキンフィエフ(ロシア)と並び、ギジェルモ・オチョア(メキシコ)、カスパー・シュマイケル(デンマーク)に次ぐ3位の数字を残している。

 素晴らしいプレーの数も、じつは多かったのだ。

文=岩崎龍一

photograph by Getty Images


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索