エディーさんが沖縄で語ったこと。「日本で評価すべきは若手の成長」

エディーさんが沖縄で語ったこと。「日本で評価すべきは若手の成長」

 レッスンが始まって15分が経過したところだった。「エディーさん」は沖縄の高校生を集めて、こう言い放った。

「始める前に、ラグビーはコミュニケーションのスポーツだと、言いましたよね? でも、まったく声が出ていません。ラグビーをやるのか、それともロッカーに戻って携帯をいじるのか、どちらを選ぶのか、ここで決めてください」

 台風が沖縄に迫りつつあった6月30日、現イングランド代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏は、スポーツくじ「toto・BIG」を運営する日本スポーツ振興センター(JSC)の招きで、沖縄の高校生50人を対象にラグビー教室を行った。

 これまでにスポーツくじの収益は、日本のスポーツ振興のために約1629億円が助成金として使われ、そのうち地域スポーツの普及には約281.9億円が当てられており、その活動の一環としてエディーさんは沖縄にやってきた(金額は平成30年5月時点での実績。平成30年度は配分額を合算したもの)。

 もともと、シャイな高校生が多いとは聞いていたが、初対面同士の選手も多いからか、レッスンが始まってからもコミュニケーションが少なかった。

 ところがエディーさんが「選択」を迫った次のプレーからは、驚くほど声が出るようになり、一気にレッスンは活気づいた。

「一瞬にして変わりましたね。ちょっとしたきっかけで若者たちは変わるのです。120分は短いかもしれませんが、フォーカスすることを絞れば、驚くほど効果が上がります。

 沖縄はラグビーが盛んな地域ではありませんが、素晴らしいプレーヤーがいました。彼は進学先を決めているようですが、日本協会が発掘を怠らなければ、素質のある選手はまだ眠っていますよ」

エディーさんは今イングランドの代表監督。

 実はレッスンの1週間前まで、エディーさんはイングランド代表を率いて南アフリカと戦っていた。3戦を戦い、最終戦に勝って1勝2敗。シックスネーションズからの連敗をようやく止めたところだった。

 昨年11月のテストマッチ期間を終えた段階では北半球ではナンバーワンの実力を誇り、2019年のワールドカップ(W杯)ではオールブラックスと覇権を争うのではないか、と見られていたイングランドの失速に、自国メディアはやきもきし始めている。

「西野監督はポーランド戦で批判されましたよね?」

「メディアとの関係は、コーチングの仕事の一部ですが、愉快ではないこともありますね。日本でもそうでしょう。サッカーのW杯でベスト16に勝ち残った西野監督は、ポーランド戦の采配で批判されましたよね?

 でも、日本がグループステージを突破したのはわずか3度目のことなんですよ。その業績を評価しないのでしょうか。私の仕事は様々な雑音を排除して、コーチングの仕事にフォーカスすることだけです」

 6月のテストマッチシリーズ、1勝2敗と負け越しはしたものの、エディーさんは南アフリカとのシリーズでは収穫の方が大きかったと語る。

「3試合の合計得点は、イングランドの方が1点勝っていますし、何より若い選手たちが経験を積めたことが大きいです」

 実は昨年の11月、エディーさんは「2018年の2月から始まるシックスネーションズでは、チームをあえて混沌とした状況にしたい」と話していた。

「W杯で優勝するためには、選手、そしてコーチたちが経験値を上げなければなりません。シックスネーションズでは私が一歩退き、コーチの役割を拡大しました。その結果が5位でした。

 いま6月のテストマッチを終えて、昨年の同じ時期に比べて選手、スタッフともに後退を余儀なくされています。しかし、それは必要な苦しみです。ここを乗り越える発想、スキルを身につけられれば、チームはより強くなれるはずです」

日本との試合も11月17日に控えている。

 おそらく、厳しい状況を経て、「エディー・イングランド」は再生するに違いない。
W杯に向けて重要になるのは、11月のテストマッチだ。イングランドにとって、極めて厳しい日程が組まれている。

11月 3日 南アフリカ
11月10日 ニュージーランド
11月17日 日本
11月24日 オーストラリア

「どの国もトゥイッケナム(イングランドの本拠地)で勝とうと躍起になってくるでしょう。特に日本はイングランドにはどうしても勝ちたいはずです」

「堀江が輝きを取り戻し、リーチも状態はベスト」

 エディーさんは、昨今の日本代表を前向きに評価している。

「6月のテストマッチでは、かなりの進歩が見られました。イタリアとの2戦目には敗れましたが、日本にとってはサプライズ的な状況が生まれていたと思います。イタリアが予想以上にショートサイド(スペース、ディフェンスの人数とも少ないサイド)をアタックしてきたために、ラッシュ・ディフェンスが出来なかったのでしょう。

 日本で評価すべきは若手の成長です。おそらく、サンウルブズでプレーしていることがプラスに働いているのでしょう。サンウルブズについては評価が分かれているようですが、テストマッチと同等とは言わないまでも、プレーすることで経験値を積むことができます。W杯に向けては好材料ではないですか」

 それに加え、2015年のエディー・ジャパンでプレーしていた選手たちも精彩を取り戻してきたとエディーさんは見る。

「6月には、堀江が久しぶりに輝きを取り戻していました。それにリーチもベストに近い状態に戻ってきているのは好材料でしょう。イングランドとしては気をつけなくてはなりません。

 BKではSOの田村の判断力が向上し、WTBの福岡はチャンスをモノにできる能力が上がっています。そして、もっとも成長しているのはFBの松島ですね。キックリターンでディフェンスの弱点を素早く見つけ、それをスピードとパワーでチャンスに変えていました」

 日本の強化は順調に進んでいるように見えるというが、ロックとフランカーのサイズ、右ウィングにはまだ改善の余地があるという。

2019年11月2日の18時を空けておいてください。

 11月17日のテストマッチに、両軍がどんな陣容で臨むか極めて興味深い。

 沖縄での高校生のレッスンの終わりに、エディーさんはこんなメッセージを残していた。

「ラグビーはコミュニケーションの競技であり、社会性が必要とされ、しかもクリエイティブなゲームです。ぜひとも、ラグビーを愛して欲しい」

 そして最後にこう付け加えた。

「2019年11月2日の18時。この日の予定は空けておいてください。イングランドが決勝を戦う日ですから」

 この言葉を実現させるため、準備が続いていく。

文=生島淳

photograph by Jun Ikushima


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