プロ野球での実績をどう生かすか。DeNAが川崎×バスケで目論むこと。

プロ野球での実績をどう生かすか。DeNAが川崎×バスケで目論むこと。

 7月1日よりBリーグ・川崎ブレイブサンダースは、68年という長い伝統を持つ東芝からDeNAに正式に事業が移譲された。それに伴い、新しい運営会社となる株式会社DeNA川崎ブレイブサンダースが4日に事業戦略発表会を開催した。

 運営会社は変更となるがクラブ名は、今後も「川崎ブレイブサンダース」で活動する。チームカラーも同様に「ブレイブレッド」で変更なし。昨季まで7シーズンヘッドコーチを務めた北卓也をはじめ、昨季までの体制を継続することも発表した。

 一方で、新しい歴史を作る決意の表れとして、チームロゴは一新した。ゴールリングに突き刺さる稲妻をモチーフに、東芝のチーム創立年である「SINCE 1950」の文字を刻印。歴史を背負う誇りとともにプレーの力強さとスピード感、勝利へのこだわりが表現されている。

新生ブレイブサンダースが掲げた3つの目標。

 新生川崎ブレイブサンダースは、「MAKE THE FUTURE OF BASKETBALL 川崎からバスケの未来を」というミッションのもと、今後さまざまな活動を行っていく。クラブとして掲げる3つの目標は以下の通りだ。

・アジアクラブチャンピオンシップ優勝
・最先端のバスケットボールアリーナの実現
・年間来場者数30万人(2017-18シーズンは約9万人)

 上記の目標はすぐに実現できるものではなく、長期的な取り組みが必要不可欠だ。まずは、ファーストステップとなる2018-19シーズンに向けて「EXCITING BASKET PARK」計画を立ち上げた。

 日常から解放され、アリーナを目にした瞬間から心拍数が上がり、扉をくぐると同時に戦いのスイッチが入る。そこでしか味わえない興奮、そこでしか得られない感動を、そこにいる人々が一体となって共有する場所にしたいと考えている。

 アリーナ内はセンターハングビジョンの新設に伴う演出の強化や、音響、DJブース、ムービングライトをフル活用した音楽だけでも楽しめるライブ空間への転換、様々な企画を盛り込んだグループシート、VIPシートの新設が計画されている。

 また、アリーナ外の場内広場、サンダーススクエアでも大型ビジョンによるライブビューイングやステージイベント、飲食環境を充実させるなど、非日常の興奮をあらゆる面から演出していく予定だ。

DeNAでプロ野球を成功させた立役者が社長に。

 なお、売上高は数年以内に10億円以上を狙い、3年目の2020-21年シーズンでバスケットボール事業単体での黒字を目指す。

 この日、記者会見に登壇した元沢伸夫氏は、2011年から球団経営を始めた株式会社ディー・エヌ・エーで新規事業やキャリア採用などを担当したのち、2014年から球団経営に参加。事業本部長として運営に携わり、横浜DeNAベイスターズで観客動員数の増加、収益も改善させた。

 その経験を買われ株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース代表取締役社長に就任。次はバスケット界で手腕を振るう元沢氏が今後のビジョンを語った。

――東芝から事業を承継し、クラブロゴなどを一新する中で、「川崎ブレイブサンダース」というチーム名を残したのはなぜでしょうか。

「実は私自身も当初、クラブ名、クラブカラーを変えた方がいいと考えていました。ただ、事業承継に際して数カ月間ファンの方に話を伺ったり、北ヘッドコーチをはじめ、選手やコーチにもヒアリングした結果、クラブ名やクラブカラーに対する思い、ストーリーが非常に詰まっていると感じ、“これは残さないとダメだ、引き継がないとダメだ”と180度考えを変え、この結論に至りました」

――長期的な目標の1つとして、年間の総観客動員数を30万人にするという目標があります。事業承継1年目の2018-19シーズンの具体的な目標はどのように設定されていますか。

「昨季の1試合平均入場者数が約3000人でしたので、少なくとも3500人〜4000人は狙っていきたいです。現在、Bリーグでは千葉ジェッツさんが抜けていて、1試合平均の動員が5000人を超えていますが、その数字(3500〜4000人)をクリアできれば、おそらく第2集団には入ってくるかなと見ています。1年目はまずそのあたりまでのジャンプアップを考えています」

――拠点を置く川崎市民への認知度をさらに高めることが必要になりそうですね。

「世界のバスケットの競技人口は4.5億人、日本国内にも63万人いると言われていますが、観客数を見ると、日本国内ではプロ野球、Jリーグと比較すると大きな差がある。2017年のデータを見てみると(バスケットは2017-18)、プロ野球は1試合平均29300人、Jリーグが18883人、B1リーグは2897人。また、総観客動員者数でも大きな開きがあります。

 川崎ブレイブサンダースにおいても状況は同じで、川崎市とその周辺における調査で、認知率は横浜DeNAベイスターズの79.2%、川崎フロンターレの75.8%に対して25.2%ほど。観戦経験率においても、横浜DeNAベイスターズや川崎フロンターレが10〜20%に対し3%という結果が出ました。

 しかし、これはネガティブなメッセージとは受け取っていません。むしろ、この差こそがバスケットボールのポテンシャルだと思っています。

 とはいえ、認知率を上げ興味を持っていただかなければ来場者数にはつながりません。具体策の1つとして、武蔵小杉駅を中心とした広告宣伝活動に投資し、仕掛けていく予定です。ファンの方に話を聞いたところ、うちの試合をよくご覧になっている方で熱心に友達を誘ってくれている方が多く、私の感覚的な部分でもありますが、コアなファンの方が多いというイメージです。そういった方々により好かれるようなクラブにならなければと思いますし、集客戦略において最も重要だと痛感しています」

ベイスターズの財産はバスケでも生かせる。

――元沢さんはプロ野球・横浜DeNAベイスターズの集客と収益を大きく改善させています。野球で培ったノウハウをバスケットでどのように生かしたいと考えていますか。

「マーケティング面を中心に生かしていきたいと考えています。“お客様のことを知る”という活動自体、ベイスターズの時は膨大な時間と労力とお金をかけて行っていましたが、それをバスケットでも実施していきます。

 まず年明けから2〜3カ月間、お客様が何を考えているかを徹底的に調査しました。川崎ブレイブサンダースの何が好きで、何が嫌いで、それはなぜなのか――。ファンになった理由や経緯、誰と一緒に見に来るのか、どのように誘うのか。

 調査を通じて川崎ブレイブサンダースのキャラクターや支持されている部分が見えてくる一方で、あまり支持されていない面も明確になってきました。それらの調査で得た情報をベースにいろいろな戦略や施策に落としこんでいきたいと思っています」

――ベイスターズ時代も、初期の頃はご苦労も多かったのでは。

「事業が移った当初は、DeNAという会社が果たしてベイスターズという球団をしっかり成功に導いてくれるのか半信半疑だったと思います。ITビジネスにおいて実績はありましたが、スポーツビジネスにおいては実績がありませんでしたからね。

 実際、ファンの方や横浜市民、行政、企業の方々との信頼関係を作るまでに3〜4年ほど時間はかかりました。ただ、今はベイスターズでの実績もあって、広範囲に皆さんがDeNAをご存知で、会社に対する信頼度も初期の頃と比べると高く、バスケットボールで事業を行う上で非常にやりやすい環境に置かれていると思います」

――野球に続き、プロスポーツ事業に携わるのは2つ目となります。

「ここで成功できるかどうかがDeNAのスポーツ事業の将来を変えると思っていますし、DeNAのスポーツ事業におけるステイタスも変わってくるでしょう。背負っているものは大きなものですが、だからこそ私は自ら手を上げました。おそらく、この職務をまっとうできるのは、DeNAの中では私が一番だという自信がありました」

――その自信のルーツはどこからきているのでしょうか。

「失敗の経験がたくさんありますし、お客様に叱咤激励されたことも何度もあります。苦労もしました。しかし、そういった経験があってこそ実績を作り上げることができました。もちろん私1人ではなく、“ベイスターズ”という組織で培ってきた結果です。

 そういった組織をリードする立場にいられたことが大きな自信になっています。とにかくバスケットボール自体のポテンシャルが絶大だと考えているからこその自信もあります」

「川崎フロンターレさんの実績はすばらしい」

――いよいよ3シーズン目に突入するBリーグですが、リーグの可能性はどのように感じていらっしゃいますか。

「野球と違ってサッカー型でリーグが主導している効果があると思います。各クラブ単体だと財政的な問題もあってできることに限界もありますが、リーグが音頭をとって仕掛けている成果があるのではないでしょうか。

 もちろん、クラブ側が攻めるというか、どんどん自ら切り拓くクラブがあと3つか4つぐらい出てくると、リーグ全体がさらに底上げされるのではないかと見ています」

――クラブとして事業を円滑に進めていくなかで、行政や地域との連携に関してはどのようにお考えですか。

「その点は、私が最も大切だと考えている部分です。以前、秋田ノーザンハピネッツの試合を視察に行き、タクシーを利用した際、運転手の方から『試合はどちらが勝ちましたか?』と聞かれたんですね。つまり、街の中に秋田ノーザンハピネッツが浸透しているということ。そういうクラブになりたいなと思います。

 そのためには行政との連携が非常に重要です。ボランティアではないので事業活動はもちろん行いますが、同時に川崎市への地域貢献の活動も念頭において活動する必要があると感じています」

――川崎市という街が持つポテンシャルも非常に大きなものだと思います。

「川崎市は年々人口が増加しており、他の政令指定都市と比べ、とくに若い世代の人口が増えていることも大きな魅力です。川崎市で居住、就業される様々な方々と接点を持つ機会があったのですが、スポーツに対する理解や後押しが深い。あらためて川崎フロンターレさんの実績は素晴らしいなと感じました。

 ともに盛り上げ続けてきた川崎市の行政、市民の方々に対する敬意も日に日に強くなっています。スポーツビジネスを行う身としては非常にありがたい環境です」

――過去、川崎フロンターレさんとのコラボ企画も実施されていますが、今後もサッカーやベイスターズとの連携も考えていらっしゃいますか。

「フロンターレさんとの連携は東芝時代も行っていますし、可能な範囲内で相互に継続させていただきたいですね。私の方からいろいろフロンターレさんに企画を提案したいと思っています。同じ川崎のプロスポーツ、等々力緑地をホームとしているチームとして、当然そこはぜひ連携していきたいです。

 プロ野球のDeNAベイスターズに関しては、横浜と川崎ということもありますので、現在のところは相互送客をし合うなど考えていません。ただ、同じDeNAのスポーツ事業ということで、人的な交流や知識、ノウハウの共有は行っていきたいと考えています」

一番の通信簿は、お客様の数。

――今後の事業活動で元沢さんが最も重きを置くポイントは。

「バスケットボールに限らず、スポーツビジネスにおいて一番の指標、通信簿となるのはお客様の数です。集客数が増えないことにはすべてのことがうまくいきません。スポンサーも取れないですし、チームも強くならない。

 チームが強くならないというのは意外に感じられるかもしれませんが、多くの観客を集客し、盛り上がっている会場でプレーすることは選手の緊張感ややる気、向上心につながります。ただ単にチケット収入が増加するというレベルの話ではなく、選手に与える影響も大きいのです。もちろん、私たちクラブスタッフの誇りにもなります。

 そういったシーンを見ている様々な方々から、いろいろなチャンスをいただけるようになりますね。ベイスターズがまさに、そういうプロセスを歩んできたからこそ、よりその大切さを強く痛感しています」

文=石井宏美(Number編集部)

photograph by Wataru Sato


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