「まだ走れます!」とクロアチア。3戦連続の延長戦を制して決勝へ。

「まだ走れます!」とクロアチア。3戦連続の延長戦を制して決勝へ。

 敗れたイングランドの選手たちよりも先に、目を潤ませたように見えた。観る者の心を揺さぶりながら、クロアチアが初の決勝行きのチケットをもぎ取った。

 若きイングランドは、恐ろしく効率的だった。

 3バックの中央で、足下の技術が高いモダンなDFジョン・ストーンズが前後に出ながら角度を作る。その1列前ではジョーダン・ヘンダーソンが監視の目を光らせつつ、相手のDFライン裏の穴をねらっている。

 守備時には両ウイングバックが下がって5バックを形成。堅固な壁が、ピッチの横幅を埋める。2列目のジェシー・リンガードとデル・アリも下がって、5-3-2の城壁が完成。驚異的な加速力があるラヒーム・スターリングへとロングパスを送って、攻撃へと転じる。その瞬間と道筋を図り続けた。

スマートなイングランド、クロアチアは無骨。

 開始5分での先制点は、その効率性の象徴のようだった。カイル・ウォーカーのロングパスのこぼれ球を拾ったリンガードが、華麗に1回転。ペナルティエリア手前へのパスに走り込んだアリが倒されて獲得したFKだ。ややコースは甘かったが、キーラン・トリッピアーの蹴ったチーム初シュートは、あっさりとネットを揺らす先制点となった。

 この日、全身真っ白のイングランドは、どこまでもスマートだった。一方、120分後のクロアチアは、イングランドよりもイングランドらしかった。

 想起させたのはもう1つのフットボールだ。不屈の闘志を示すラグビー選手のように、彼らの黒いユニホームは汗と泥にまみれていた。

 先制されたのは3試合連続だった。耐性を示すとばかりに焦りなく、クロアチアは前に出続けた。低く構えた5枚の壁に何度弾かれようと、サイドを駆け、ゴール前で体を張り、愚直に攻めを繰り返す。ガードを固めてカウンターだけを狙うヘビー級に対し、とにかく手数を出し続けた。

「本当のDFではない」ところを突破。

 後半に入り、潮目が変わる。

 54分、ハーフウェーラインを越えてスローインを受けにきたストーンズから、アンテ・レビッチがボールを奪取。カウンターで冷や汗をかかせた。

 レビッチはその4分後、今度は相手をうまく食いつかせる。ウォーカーを3バックからサイドに引きずり出すと、縦パスをワンツーではたいてイバン・ストリニッチに空いたスペースを譲渡。久々の良い形でのボックス内への侵入へと導いた。

 何度もジャブを打つことによって、イングランドのガードを緩ませた。ヘンダーソンと最終ラインの隙間にルカ・モドリッチが入り込んだプレーから、ボックス内でのイバン・ペリシッチのシュートへとつながったのが65分のこと。

 その3分後、ペリシッチの次のシュートが大きく試合を動かすことになる。

 左サイドからイバン・ラキティッチを経由して右へ展開。また左へと揺さぶったシメ・ブルサリコのクロスを、ペリシッチが蹴り込んだ。

 先制点を奪ったトリッピアーを背後から追い越し、智将アーセン・ベンゲルが「本当のDFではない」と警鐘を鳴らしていた本来右サイドバックのウォーカーの眼前に体を入れ、左足の外側で蹴り込んだ。

3戦連続の延長戦、しかし交代は90分間なし。

 殊勲の背番号4は、前半から道筋を示していた。押され気味だった19分と23分には、「流れを変える」というメッセージを込めるように遠目からシュート。33分には高い壁の手前に入れる低めのアーリークロスという、新しいアイディアを提示した。

 レビッチ、ペリシッチの両翼は終始、労働の必要性を表現し続けた。72分、高く跳ねたボールの先には3人のDFとGKがいたが、それに構わないレビッチの突進がクリアミスを誘い、こぼれ球を拾ったペリシッチのシュートがポストを叩いた。

 ペリシッチは82分にも相手の死角から忍び寄り、GKへのバックパスを奪いかけている。

 延長戦開始までに、イングランドは2枚のカードを切っていた。対して3戦連続延長戦のクロアチアがようやく動いたのは、延長早々に右脚付け根を痛めたストリニッチ交代時。まるで負傷以外の交代が認められなかった、20世紀のラグビーのようだった。

理論を超えた力と走りを見せたクロアチア。

 しかし、ただのヤカンの水がラガーマンをよみがえらせるように、スポーツには理論を超える不思議な力がある。2戦連続のPK戦に心身とも疲弊していたはずが、勘所を心得た動きで上回ったのはクロアチアだった。

 スコアはイーブンなのに、追いつかれたショックが大きかったのか、ヤング・スリーライオンズは余裕を失っていた。

 この流れでは、クロアチアにゴールが生まれたのは必然とも言える。ウォーカーの高く上がったクリアボールに走り込み、マリオ・マンジュキッチの決勝点をアシストしたのは、決して足を止めることのなかったペリシッチだった。

「大丈夫です。まだ走れます」と言った選手たち。

 W杯の舞台に立つような選手は全員、相当な努力と犠牲を積み重ねているはずだ。だが、クロアチアの選手たちは踏んできた修羅場の数が違った。

 選手全員がピカピカのプレミアリーグでプレーしている若きエリートたちは、最後まで諦めないタフな戦士たちを前に、最後は力負けした。

「選手たちは自分たちの力とスタミナ、エネルギーのレベルを見事に示した。選手の入れ替えをしたかったが、誰も控えを望まなかった。全員が『大丈夫です。まだ走れます』と言い続けたんだ」

 ズラトコ・ダリッチ監督は20年前、初出場の1998年W杯のときは1サポーターとしてフランスに向かったという。そんな指揮官に肩を抱かれたモドリッチは、涙を隠すように手で顔を覆っていた。

 W杯史上初となる1大会3度の延長戦を乗り越えたクロアチアは、20年前に収めた3位という成績を超えることが確定した。とはいえ彼らは、熱い戦いという色褪せない“歴史”を、すでに残している。

文=杉山孝

photograph by Getty Images


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索