エディー・ジョーンズが語る、「成長し続けるチーム」の作り方。

エディー・ジョーンズが語る、「成長し続けるチーム」の作り方。

 真夏の日差しが照りつける7月14日。大分県国東市で、元ラグビー日本代表監督(現イングランド代表監督)のエディ・ジョーンズ氏が、九州内のラグビーコーチを対象としたラグビー教室を行った後に、ラグビー関係者以外にも対象を広げた「成長し続けるチームの作り方」という講演を行った。

 ジョーンズ氏がラグビーチームの監督として培った組織管理のノウハウは、ラグビー以外のスポーツ、さらにはスポーツ以外の組織にも通ずる普遍性を多く持つ。約500人の講演参加者を前にステージ上を歩き回り、ホワイトボードを使った熱心なプレゼンテーションの後には質疑応答も行われ、参加者との交流を深めた。

「人間というものは、何か大事な話を聞く時、3つまでしかポイントを覚えていないものです」

 単純明快なコミュニケーションを信条に、オーストラリア、南アフリカ、日本、イングランドの4カ国で、プロクラブ、および代表チームを率いてきたジョーンズ氏。名将は、くにさき総合文化センターに集まった参加者を前に、組織管理論の要点を3つのポイントに絞って語った。

「明確にする」という単語の意味。

「まずは、そのチームが何を目的としているのかを明確にし、チームのメンバーがそれを理解する必要がある。次に、成功のサイクルは失敗から始まる、ということを理解する。どんなチームでも失敗を経験したときというのは、マインドセットを大きく変えるチャンス。

 なぜ失敗したのか? 明確にしたチームの目的を達成できなかったのはなぜか? これらをしっかりと把握し、どうすればこの失敗を繰り返さないようにできるかを考える。その答えを明確にし、全てのチームメンバーが理解するようにしなければならない」

 ジョーンズ氏の語る言葉には、「明確にする(Clarify)」という単語がよく登場する。ラグビーという世界の中ではあるが、文化やメンタリティの異なる4カ国のプロクラブや代表チームを率いてきた指導者は、どんなチームにも通用するコミュニケーションとして、「明確化」というキーワードに辿り着いたのだろう。

ストレスと休息で成長を促す。

「そしてチームにストレスを与え、その後に休息を与えることにより、成長を促す。全くストレスを受けないチームは成長などせず、現状維持が続くだけ。また、過剰なストレスをかけ続けていても、今度はチームが壊れてしまう。

 限界に近いストレスを一定期間与え、その後に適切な休息を与える。これを繰り返すことにより、チームを成長のサイクルに乗せていく。どの程度のストレスをどれだけの期間与え続け、その後の休息をどの程度与えるか。この適切なバランスを見極め、実行していくのがリーダーの仕事である」

 ラグビーファンには知る人も多いだろうが、ジョーンズ氏がラグビー日本代表を率いて挑んだ2015年ワールドカップ前の代表合宿では、選手たちは肉体的にも精神的にも限界ギリギリのところまで追い込まれた。

 大会直前に休息を与えられ、大会本番で日本ラグビー史上初のグループステージ3勝という快挙の裏には、こうした信念に基づいた理論があった。

組織管理はラグビー以外にも通用する。

 ワールドカップ直前の地獄の合宿だけではなく、2012年の監督就任以来、日本代表を徹底的に鍛え上げてきた闘将。2014年にはテストマッチ11連勝、日本ラグビー史上初めて世界ランキング9位につけるという実績も挙げている。ストレス、休息、成長、というサイクルを実際に繰り返し、明確な目標を達成したチームの実例である。

 講演会を終えたジョーンズ氏は、舞台裏で参加者との記念撮影や書籍のサインにも笑顔で応じた。ラグビーチームの監督としては厳しい指導で知られるが、気さくで近寄りやすい一面も見せる。関係者との会食へ向かう前の空き時間に、講演の内容を更に掘り下げるための取材にも、快く応じてくれた。

「私はラグビーチームの監督として経験を積んできたが、今日話したような組織管理のポイントは、他のスポーツにも十分通じるもの。スポーツごとに異なる特定の要素はあるが、全てのスポーツに共通する基本原則というものは、間違いなく存在する」

選手の古い習慣を捨てさせる方法。

 常に学び続ける姿勢を自らの監督哲学の1つに掲げるジョーンズ氏は、他のスポーツの著名指導者との交流も行う。

 サッカー界では、サー・アレックス・ファーガソン(元マンチェスター・ユナイテッド監督)、ジョゼップ・グアルディオラ(元バルセロナ、バイエルン監督。現マンチェスター・シティ監督)他多数の一流監督と交流がある。

 イギリス代表としてロンドン五輪で好成績を挙げたフィールドホッケー、柔道チームのコーチングスタッフをラグビーイングランド代表合宿に招き、選手と共に「他競技から学ぶ」機会をアレンジしたこともある。疲弊した肉体の回復プロセスを学びに、自転車ロードレースの最高峰、ツール・ド・フランス参加チームにも同行した。

「どんなスポーツでも監督が選手に新しいことをやらせようとし、練習では“分かりました”と言っていた選手が、試合では指示した通りに動かないということはよくある話でしょう。

 理由の1つに、選手から古い習慣が抜けきっていない、というケースもある。そんな時は、練習で選手を試合以上に厳しいストレス下に置きながら、古い習慣を捨てさせ、新しい習慣を身に付けさせる。

 選手個人、あるいはチーム全体に新しい習慣を身に付けさせるためには、通常6〜8週間程度の期間が必要。この数字は自分の指導経験に基づいたもので、このプロセスで様々な場面で多くの選手の習慣を変えることに成功している」

根性論ではなく、理論に基づくコンセプト。

 チームのメンバーにハードワークを厳しく求めることで知られるジョーンズ氏だが、指導者としての自分をさらに向上させるための勉強熱心さも、また有名だ。

「試合以上に辛い練習をさせる」というコンセプトも、単なる根性論から来ているのではない。これまでに交流を持ってきた、スポーツ関連の研究者や、他スポーツの指導者から学んできた、様々なトレーニング理論に基づいてのコンセプトだ。

正しく説明しなければ、誰もついてこない。

「練習では、肉体面、精神面、戦術面での鍛錬を様々なパターンと強度で組み合わせ、試合に近い現実性を持たせながら、それぞれの要素で試合以上に厳しい負荷をかける。先ほど講演で話した、ストレス、休息、成長のサイクルで言う、ストレスをかけるとは、例えばこういうこと」

「私自身がこうしたコーチング理論を常に学び、その裏付けを明確に説明できなければ、選手に辛い練習をさせようとしても誰もついてこない。また、監督に限らず、チームのキャプテンや、リーダーシップを取る立場のメンバーは、チーム全体の姿勢を決めるということを忘れてはならない。

 キャプテンが試合中に肩を落としたり、フラストレーションを感じていることを露わにすると、それはあっという間にチーム全体に広がる。リーダーとは、チームにインスピレーションを与える存在でなくてはならない」

 明確なコミュニケーションと、自分が先頭に立ったハードワーク。チームを成長させるための普遍原理を語るジョーンズ氏は、自らの成長への願望を、チームに浸透させる術を心得ているように見える。大分の地で氏の講演に胸を打たれた参加者は、それぞれのフィールドで、「成長し続けるチーム」を作るため、ハードワークを重ねていくだろう。

文=竹鼻智

photograph by Ko Kawaguchi


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