トーレスは“おいしい場面”で輝く!金崎夢生とともに鳥栖を救うか。

トーレスは“おいしい場面”で輝く!金崎夢生とともに鳥栖を救うか。

 掴みどころのないストライカー。

 それが、フェルナンド・トーレスに対して、個人的に抱き続けてきた印象だった。

 フットボーラーとして特別な才能に恵まれたうえに、ルックスも申し分ない。端正なマスクにさらさらのブロンドヘアを靡かせ、リバプールに所属した2008年には「プレミアリーグで最も好きな選手ランキング」の堂々1位に輝いている。そんな風に非の打ちどころがないからこそ、逆に掴みどころがないのかもしれない。実際、プレースタイルも泥臭さとは無縁で、感情の起伏もあまり表に出ないから、その熱量を測りにくいのだ。

 分かりやすい比較対象が、スペイン代表のFWとしてほぼ同じ時代を生きたダビド・ビジャだろう。

 アトレティコ・マドリーのカンテラで育ち、わずか15歳でプロ契約、16歳でトップチームに昇格し、19歳の若さでキャプテンにも任命された正真正銘のスーパーエリートがトーレスなら、下部リーグからの叩き上げで、苦労を重ねながらスタープレーヤーの仲間入りを果たしたのがビジャだった。

ビジャのほうが数字的にも頼れた。

 そんな育ちの違いかどうかは分からない。けれど、トーレスより3つ年上のストライカーは、ゴールが決まれば全身で喜びを爆発させ、決定機を逃せばピッチに拳を打ちつけて、これでもかというほど悔しがった。感情の発露がストレートで、分かりやすいのだ。

 トーレスのあだ名がカスティージャ語の“エル・ニーニョ”で、ビジャのそれはアストゥリアス語の“エル・グアッヘ”。どちらも意味は同じ「子供、少年」だが、やんちゃなガキ大将がビジャで、トーレスはずっとクールで大人びていた。

 ただ、スペイン代表で頼りになったのは、ビジャのほうだった。

 最終ラインの裏に抜け出すスピードが最大の武器で、どちらかと言えばカウンター向きのトーレスよりも、味方との細かなパスワークで相手ゴールに迫ろうとするビジャのほうが、スペインのポゼッションスタイルに合っていたのだろう。代表での通算記録はビジャの98試合・59得点に対して、トーレスは110試合・38得点。パフォーマンスの安定感の差は、その数字以上だった。

EURO2008でのトーレスへの記述。

 移籍1年目のリバプールで大量24ゴールをマークし、「クラブと代表では別人」というレッテルを剥がすべく、自信を持って臨んだEURO2008。しかし、ここでもトーレスはゴールが遠かった。調子自体は悪くなかったし、チャンスメーカーとして機能はしていたが、あくまでも2トップを組むビジャの引き立て役でしかなかった。

 EURO2008の取材ノートを引っ張り出してみると、トーレスに関するいくつかの記述が見つかった。

 例えば、延長PK戦の末にイタリアに競り勝った準々決勝。

「85分、トーレスOUT。延長前に休息を取る仲間に近寄りながら、結局、誰にも話しかけずに輪から遠ざかって爪を噛む」

 その姿は、この試合で何もできなかった自分自身を責めているようにも映った。

 例えば、ビジャが前半途中で負傷交代を余儀なくされながら、3−0の勝利を収めた準決勝のロシア戦。

「トーレス、そろそろ決めておかないとヤバいかも」

 この日、数え切れないほど決定機を外し続けた背番号9が、69分に交代を命じられた場面で、そんなコメントをノートに書き記している。

最後はおいしいところを持っていく。

 きっとナイーブで、深く考え込むタイプなのだと思う。だから調子が良い時は手が付けられないが、一方でスランプも長い。

 掴みどころがないのは、そうやって悩んだ挙句に、最後はおいしいところを持っていくからだ。

 ビジャ不在のドイツとのEURO2008ファイナルで、シャビのスルーパスから決勝ゴールを奪い、スペイン代表の“敗北の歴史”に終止符を打ったのは、トーレスだった。

 さらにその4年後のEURO2012では、出場機会が限られるなかで大会得点王となる3ゴール。イタリアとの決勝では途中出場で1ゴール・1アシストをマークして、連覇に貢献している。

 そのキャリアで最も輝かしい時を過ごしたリバプールを離れ、当時のプレミアリーグ史上最高額の移籍金5000万ポンド(約66億円)でチェルシーに入団したのが、2011年1月。このチェルシー時代は結局、在籍3年半でリーグ戦通算20ゴールと不振に喘ぐことになる。

 しかし、信じられないようなミスで決定的なチャンスを何度となくフイにしながらも、チャンピオンズリーグ準決勝でバルセロナを粉砕した独走ゴールや、ベンフィカ・リスボンとのヨーロッパリーグ決勝で奪った先制ゴールなど、相変わらずここ一番での大仕事が少なくなかった。

鳥栖での2試合は無得点で勝利なし。

 そんな、掴みどころのなさと勝負強さが同居する天才肌のストライカーが、Jリーグのサガン鳥栖にやって来た。

 マドリードで生まれ育ち、リバプール、ロンドン、ミラノといった大都市でキャリアを過ごしてきたエリートが、欧米諸国とは文化も言葉も大きく異なる日本の、それもプロビンチャのクラブを新天地に選んだのは、それ相応の覚悟があってのことだろう。

 いずれにしても、彼に求められる仕事はただひとつ、「ゴール」であることに間違いはない。それが得点力不足に悩み、下位に低迷するチームであれば、なおさらだ。

 7月22日のベガルタ仙台戦で50分からピッチに立ってJリーグデビュー、28日のジュビロ磐田戦では初スタメンを飾ったトーレスだが、しかしここまではノーゴールで、チームも勝利から遠ざかったままだ。

 それでも、随所に可能性は感じさせている。

金崎との2トップは好連係を見せた。

 とりわけ目を引くのは、ボールの受け方の巧さ。マーカーの存在を背中に感じながら、すっと体を入れ替えて前を向く。この技術は誰もが簡単に真似のできるものではない。

 決してエゴイストではなく、周囲を活かすことにも躊躇がないトーレス。鳥栖では2列目のサイドからトップ下まで幅広く対応する小野裕二との相性が良さそうで、また磐田戦では、同じくこの夏に新加入の金崎夢生とも、初めて2トップを組むとは思えないほどの好連係を見せている。

 ただ、鳥栖の選手たちは、高さがあってボールを収められるトーレスを、前線の基準点としてばかり考えているように見えたが、彼の一番の持ち味が裏への抜け出しであることを思い出すべきだ。トーレスが手を挙げて要求したタイミングから、実際にパスが出てくるまで、いつもワンテンポ遅い印象を受けた。

 磐田戦の55分、ハーフウェイラインの手前からロングボールを蹴り込み、抜け出したトーレスが胸トラップからループシュートを狙うシーンがあったが、ああいった早めの仕掛けのパスをもっと増やせば、自然とゴールの可能性は高まっていくだろう。

豊田、田川らがいるだけに……。

 今後に期待が持てると思うのは、感情の起伏が(外見上は)決して激しいとは言えないトーレスが、目に見える熱を発しながらプレーしているからだ。磐田戦でも、チャンスを逃した後に、珍しく全身で悔しさを表わす場面があった。

 元日本代表の金崎が加わり、パワフルな豊田陽平も半年ぶりに復帰。さらに田川亨介という有望株も控えるなど、鳥栖の前線はリーグ屈指の層の厚さを誇る。新たな環境に1日も早く順応し、ゴールという結果を生み出さなくては、たとえトーレスといえどもベンチを温めることになりかねない。

 決定力に問題を抱える日本人ストライカーの指南役として、上から目線でJリーグを戦うような余裕もなければ、掴みどころのなさを、言い換えれば好不調の激しさを鷹揚に受け止めてくれる甘い環境もここにないことは、本人が一番よく理解している。

 危機感に突き動かされた“神の子”が、天性の勝負強さを見せつけるまで、そう時間はかからないはずだ。

文=吉田治良

photograph by Getty Images


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