逸材中の逸材、早大・齋藤直人。2019年ラグビーW杯に間に合うか。

逸材中の逸材、早大・齋藤直人。2019年ラグビーW杯に間に合うか。

 3人の指揮官による評価だ。

「将来の日本を背負って立つ存在」「声のかけ方と判断力が抜群に良い」「どんなテンポも作り出せる」

 1つ目は桐蔭学園の藤原秀之監督。2つ目は、早稲田大学ラグビー部の前監督である山下大悟氏。そして3つ目は、早大の現監督である相良南海夫氏。

 早大のスクラムハーフ、齋藤直人(3年)は、関わる指導者が異口同音に絶賛する逸材中の逸材だ。

 横浜ラグビースクールで3歳から楕円球を追い、桐蔭学園ではキャプテンとして花園準優勝を経験。身長165cmと小柄だが、無尽蔵のスタミナとパスセンス、高いゲーム理解度で、各世代の代表(高校、U20、ジュニア・ジャパン)に選ばれた。

周囲は絶賛、本人のLINEは愛犬。

 早大・相良監督は、初めて齋藤のプレーを見たときのことを憶えている。

 息子の通っていた桐蔭学園中学が、齋藤擁する横浜ラグビースクールと対戦したことがあった。齋藤は当時中学3年生だった。

「すごいスクラムハーフがいるなと。運動量が多くて、強気。パスさばきも凄かったですけど、常にボールのあるところにいる。それが最初の印象です」

 ただ周囲の絶賛の中心で、本人はいつも穏やかだ。

 おっとりとした性格で、LINEのホーム画像は実家の愛犬。「人見知りなんです」と自嘲する姿は、一般的なラガーマンのイメージとはかけ離れている。

 そんな齋藤が、控え目ながらラグビー日本代表、ジェイミー・ジャパンについて語ったことがある。

 今春、心境の変化があったというのだ。

ジャパンAとしてNZ遠征に参加。

「2015年のワールドカップのときは高校3年生で、そのときは(日本代表は)手の届かないところにあるもの、という意識でした。でも春に遠征に行って、少しだけ(日本代表を)狙える位置にいるんだな、という意識になりました」

 この「遠征」とは、今年4月、日本代表候補チームが「ジャパンA」として行ったニュージーランド(NZ)遠征のことだ。

 大学3年になったばかりだった齋藤は、ジャパンAの指揮官を務めた堀川隆延ヘッドコーチ(ヤマハ発動機HC)から「パス、キック、ラン、判断力全てを兼ね備えた選手」と期待され、メンバー最年少でNZ遠征に参加した。

 しかし3試合あったNZのスーパーラグビー下部チームとの練習試合のうち、第1戦の「ハイランダーズA」戦は、メンバー外だった。

「お客さんにならずにチャレンジしようと思っていたんですが、堀川さん(HC)の目には遠慮してやっているように見えたのか、『お前を呼んだことで来られなかった選手もいる。自信を持てないなら持てるまで準備しろ』と言われて。そこから変わることができました」

 堀川HCとの面談を受けて、齋藤はノートに向かった。試合における注意点などを書き出し、優先順位をつけ、頭の中をクリアにした。文字にして頭を整理する習慣は、スクール時代に身につけたものだ。

「思い切りやって、人生変えてこい」

 齋藤はブルーズAとの遠征第2戦で、リザーブメンバーに入った。舞台はNZラグビー界の聖地のひとつ、オークランドのイーデン・パーク。

 それは試合開始直前、ピッチでウォーミングアップを終えた頃のことだった。

 突然、早大の先輩である布巻峻介(パナソニック)に声を掛けられた。

「『思い切りやって、人生変えてこい』と言われました」

 このNZ遠征には日本代表のセレクションマッチの意味合いがあった。来年のワールドカップ日本大会へ向けた生き残り合戦だ。

20歳の大学生が勝利に貢献した。

 果たして、齋藤の人生は変わったのか。

 齋藤は後半6分から途中出場。すると類い稀なフィットネスとパスワークで攻撃を牽引。後半9分にはFL大戸裕矢のトライをアシストした。

 そして後半ロスタイム、献身的なサポートでラストパスを受け、ゴール下に笑顔で勝ち越しトライ。

 人生が変わったかは分からない。ただ20歳の大学生が、34−27の勝利に貢献したことは明らかだった。

 手の届かない場所にあると思っていた、桜のジャージー。でも自分の今後の成長次第では、もしかしたら――。

サントリーの練習参加で得たもの。

 しかし遠征で手にした自信は、帰国後、良い意味で打ち砕かれるのだった。

「ちょっと自信がついて遠征から帰ってきて、4月の終わりくらいからサントリーに合流しました。そこで『ほんと自分、下手だな』と思って」

 齋藤は4月下旬から7月初旬まで、練習生としてトップリーグ2連覇王者・サントリーのトレーニングに加わっていた。

「サントリーの練習ではミスばかりでダメだったんですけど、『まだ成長できるんだな』とポジティブな気持ちになりました」

 刺激的だった。質問に丁寧に答えてくれる日本代表スクラムハーフ・流大に感銘を受け、スタンドオフの田村煕などから、技術的な視点をたくさん学んだ。

 なにより、王者ながら挑戦者のマインドを持ち、ピッチ内外で全力を出そうとするチームの雰囲気に魅了された。

「サントリーで活動させてもらったことで、メンタル面、技術面でも、いろんなことを学びました」

ラグビー、大好きなんで。

 齋藤は、自身の強みをこう語っている。

「上手くなりたいという気持ちは、ずっと持ち続けられていると思います」

 練習からすこし遠ざかると不安になる。部員寮では部屋でもよくボールを触っている。落ち着かなくなると、ついウエイト場で軽く筋力トレーニングをしてしまう。

 幼少期から持ち続けているという向上心の源は、一体どこにあるのか。その理由を、齋藤はぽつりと呟いた。独り言のようだった。

 ラグビー、大好きなんで。

 これからどんな未来が待ち受けるのか、それは分からない。けれど、チャレンジする心意気はある。

「チャンスをもらえたときに、絶対にモノにできるように準備したいと思います」

 向上心を最大の武器に、そのときを待っている。

文=多羅正崇

photograph by Masataka Tara


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