内田篤人が語る鹿島復帰から半年。「今の状況に満足してないから」

内田篤人が語る鹿島復帰から半年。「今の状況に満足してないから」

 7月28日、大阪、吹田スタジアム。内田篤人は初めてそこに立った。

「ピッチとスタンドがとても近いし、いいスタジアムだね」

 この日、内田はリーグ戦では5月2日対長崎戦以来の先発出場を果たした。3日前にセレッソ大阪戦を戦ったばかりで、今後も連戦が続く。それもあって大岩剛監督は内田を起用し、選手を休ませようと考えたのだろう。

 ワールドカップによる中断期間が空けたJリーグ、鹿島アントラーズは再開後に快進撃を見せている。前半の15節(鹿島は1試合未消化)までで、5勝3分6敗・12得点16失点で11位だった。しかし、7月11日の天皇杯3回戦・町田ゼルビア戦を5−1で大勝。それ以降リーグ戦では磐田と3−3で分けると、柏戦は6−2、未消化分のC大阪戦を2−0と勝利し、この時点での順位を7位に上げた。

 そして迎えたガンバ戦。鹿島は立ち上がりこそ優勢に試合を進め、前半終了間際に先制点を決めたが、後半はミスで自らその流れを手放すと、70分に同点に追いつかれる。その後もガンバの勢いを受ける時間が長く続いた。

今日は90分いけたと感じている。

 そこで、右MFに西大伍を投入した大岩監督にもさらに動く。80分過ぎのことだ。内田に代わって、伊東幸敏を送り込もうと準備を進める。その伊東がアシスタントレフリーとともにタッチに立った。そして、ゲームが途切れる。しかし、内田が戻ってくる様子はない。

 DFラインやボランチなどのチームメイトに声をかけている内田は、監督が座るベンチに背を向ける格好だった。だから、気がつかなかったのだろう。レフリーに促されて、やっと現状を飲み込んだようだった。

 それほど、試合に集中していたのだろうし、自身の交代をイメージできないほど、疲労を感じていなかったのかもしれない。

「僕自身は意外といけた。スプリントもできていたし、球際もガツンと行けた。全然怖くなかった。(天皇杯の)町田戦は90分間出場しましたけど、終盤に試合のペースがスローダウンしたことも(理由に)あった。でも今日は、90分いけたと感じている」と、試合後の内田は語っている。

イヤ、勝たなくちゃいけないでしょ。

 試合は1−1で終わった。右サイドに西と伊東というサイドバックふたりを並べたのは、守備だけでなく、攻撃の活性化を期待してのこと。それを踏まえれば交代策が功を奏したとは言い切れなかった。

 とはいえ、終盤の猛攻をしのぎ、1失点にとどめたことには評価はできるだろう……。そう考えたが、内田は強い口調でこう話す。

「イヤ、勝たなくちゃいけないでしょ、本当は。アウェーでは、最後にああやって押し込まれるのは普通だから。そこをいかに跳ね返すのか? そうやって(鹿島は)勝ってきたから。

 1点獲れたけど、そのあとあんなアンラッキーな形で点を入れられちゃったけど。それでも俺らは勝たなくちゃいけないから」

 この節は首位広島、2位FC東京も敗れていた。首位争いを目指す鹿島にとっては何としても勝利したい夜だった。

「周りのチームは気にせず、自分たちが勝ち点をコツコツ上げていかないといけない。相手に関係なく、ホーム、アウェーに関係なく、自分たちは勝ち点3を絶対に持って帰らなくちゃいけない」

 重ねた厳しい言葉には、チームに対してだけではなく、自戒の念が含まれているように思えてならなかった。

鹿島が受け継ぐ勝利への貪欲さ。

「チームを勝たせられる選手」

 若い鈴木優磨や三竿健斗をはじめ、鹿島の選手の多くが、優れた選手についてそう表現する。「どんなに上手でも勝たせられるプレーでなくては意味がない」と。

 このガンバ戦でも、20歳のセンターバック町田浩樹はゴールを決めたが「得点やアシストよりも、無失点に抑えるほうがうれしい」と話していた。失点しなければ「勝つ」ことに大きく近づくからだ。

 久しぶりの先発起用だったものの、内田はチームを勝たせることができなかった。そのうえ90分間の出場も果たせなかった。そのことについて訊くと「悔しさはあるよ、もちろん」とこちらをしっかりと見返して言った。

完全復活とは言えない状況だが。

 今年1月にドイツから帰国後、休む間もなくキャンプに入り、ほとんどのメニューを消化。そしてリーグ戦開幕前のACL初戦に出場した。アウェーでの第2戦は帯同しなかったが、リーグ戦開幕でスタメン出場して84分間プレーした。

 しかし3月3日の第2節から、第7節まで負傷離脱で欠場した。その後は4月14日の第8節から5試合に先発(うち4試合途中交代)したものの、再びリハビリ組となり、ロシアW杯メンバー入りは叶わなかった。

 当時、大岩監督は「コンディションが悪いのに内田を起用することはない」と話していた。リーグ戦に限れば14試合中6試合にしか出場できず、フル出場もわずか1試合にとどまっている。それを考えれば、完全復活とは言えない状況だった。

前半戦、3、4回は肉離れした。

 それでも、「無理をした」時期があり、それが更なる悪化に繋がったとも考えられる。

「リーグ前半戦は発表こそしていないけれど、3、4回は肉離れした。W杯(メンバー入り)を狙っていたこともあり、監督も我慢して、スタメンで使ってくれた。だけど結局90分フル出場した記憶がないから、俺のなかでは(実際は5月2日の長崎戦でフル出場)。

 でもこれが、1年半、2年間くらい試合に出ていなかった、ブランクのある現状のコンディションということ。後半戦は身体と相談しながら、ポイント、ポイントで行けるときに行こうと。無理をして試合に出て、痛めて抜けられちゃったら困るという話を(大岩)剛さんとした。俺もそう思う」

 前述の町田戦ではフル出場したものの、その後のリーグ戦3試合ベンチスタート。そのうち出場は1試合だけだった。交代枠をDFに使うことのデメリットは、内田も理解している。だからこそ、ベンチ入りしても途中出場のチャンスは少ないことも痛感している。

 タイトル奪還という目標達成のために、力を尽くしたい。その思いを持って帰国したものの、主力と言い難い自身の状態に対する憤りやジレンマは当然あるに違いない。

 しかし、焦ったところでどうにかなるわけでもないし、その焦りが悪影響を及ぼすことは十分すぎるほど経験してきた。だからすべての現実を受け入れるしかない。

下手にサボったりはできないから。

「複数のポジションをガンガンできるわけでもないのに、ベンチに入れてもらっているだけでもありがたい。だけど、俺はベンチでOKだとも思っていない。先発で90分……自分の身体が戻るまでどれくらい時間がかかるのかも分からない。これだけ長く、休んでいるサッカー選手はいないし。戻るのかもしれないし、そうじゃないのかもわからない。

 でも、そこは辛抱強くやっていく中で、時間が解決するのかなって思っている。みんな見ているから。俺が、怪我で戻ってきてどういう態度で練習するのかなっていうのを。うちの若い選手もそうだし、下手したら日本中が見ているからね、下手にサボったりとかはできないから。今の状況をありがたいと思いながらも、こういう状況に俺はまったく満足していないから。身体と相談しながら……ね。ばーーっとしゃべったからもういい?」

 空調のないミックスゾーン。時折ピッチから出口へと風が吹き抜けるとはいえ、暑い。そんななか、流れる汗を手でぬぐい、濡れたシャツを持ち上げ身体に風を送りながら、内田は一気に話した。

サポーターつける必要もないんだけど。

 強い気持ちと、不安とが入り混じることもあるはずだ。そんな内田の心境が太もものサポーターの話から伝わってきた。

「試合中にサポーターが下がってくるから、位置を直してた。別につける必要もないんだけど、怪我したときに『ちゃんとつけていれば怪我しなかったかも』って思うのも嫌だからね」

 数分間で語り尽くせるほど、シンプルな想いではない。けれど、現実と向き合うスタンスは単純だろう。

「受け入れる」「諦めない」「焦らない」。

 そして、「信じる」。

 それは、挑戦する人間にとって欠かせないものでもある。

 そう、内田篤人も挑戦者なのだと改めて思った。

 誰もが乗り越えたことのない山を征服するための挑戦。地図もなければ、ゴールの写真もない。ゴールがどんなものなのかさえわからない。それでも、挑戦はやめられない。

文=寺野典子

photograph by J.LEAGUE


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