昨季不調だった大前元紀が激変!大宮で復活した“点取り屋”の誇り。

昨季不調だった大前元紀が激変!大宮で復活した“点取り屋”の誇り。

「点取り屋」と呼ばれる生き物は、いつのときも期待されるのは「ゴール」である。

 大宮アルディージャの大前元紀は今、その期待に応えてゴールを量産している。

 大宮は1年でのJ1復帰に向けて今季を戦っているが、現在第26節終了時点で12勝9敗5分けの暫定7位。やや苦戦を強いられている。

 だが、この状況下で大前は得点ランキング単独トップの16ゴール。まさにエースと呼ぶにふさわしい活躍ぶりだが、昨季は批判の矢面に立たされていた。

「正直、去年は試合に勝てていないし、俺自身も結果を残せていない状態でJ2降格。俺はサポーターやチームから大きな期待を受けて大宮に加わったわけですから、そこはプロとして叩かれて当然だと思う。“大前元紀=点を獲る”というイメージが強いだろうし、点を獲れていなかったのは正直、キツかった」

 2015年シーズン、大前は清水エスパルスでキャリア2回目となるJ1での2けたゴール(11点、2012年に13点)を挙げた。チームはJ2降格も残留を決意すると、翌年はJ2で18ゴールを挙げ、J1復帰に貢献。清水の10番としての役割を果たし、この年のオフに大宮への移籍を決意した。

わずか2ゴールで批判が集中。

 だが、新天地での2017年は試練の時だった。出場機会にも恵まれず、わずか2ゴール。この数字はドイツのデュッセルドルフ時代を除けば、試合に出始めたプロ3年目以降ワーストの記録だった。

 勝てないチームの中で背番号10を託されながらも、天を仰ぐシーンが目立った大前に、批判が集中するのは必然だった。またコンディション不良も指摘され、SNSなどでも手厳しい声が多く挙がった。

「(批判は)当たり前のことだと捉えていました。まず試合に出ていない、出ても時間が短い時期があって、コンディション維持は難しかったです。試合に出ても、これまで足を攣るなんてことはなかったのに攣ってしまうなど、かなり試合勘が鈍っているのを実感した。

 デュッセルドルフでも試合に出られない状況を経験したけど、その時はチャレンジすることでいろいろ学べた。でも昨年は即戦力として大きく期待される中で、それに応えられなかった。そこはやっぱり辛かったですね」

俺は周りに理解してもらってこそ。

 最大の低迷と言えるシーズンだった。だが、彼は転んでもただでは起きなかった。苦しみの中で忘れかけていた“初心”を手にしたのだ。

「自分のプレースタイルを改めて考えると、俺は個人で打開するタイプじゃない。俺の動きを周りに理解してもらって、連係で活きてくるタイプなんです。移籍1年目からすぐに活躍する選手もいるけど、俺の場合はコミュニケーションを何度も重ねて、自分のプレーというものを理解してもらわないと活かされない。

 昨年はコンスタントに試合に出られなかったし、監督も2回代わって、そのたびに監督に自分を理解してもらう必要性があった。FWではなくサイドでプレーすることもありましたし、非常に難しさは感じたけど、凄く貴重な経験ができたと思っています」

“もう一度、自分という選手をきちんと理解をしてもらおう”。厳しい目にさらされる中でも、大前は周囲とのコミュニケーションを怠らなかった。

「自分がこう動いたら、ここに欲しい」、「この位置でボールを持ったら、自分を見て欲しい」と、チームメイトに要求し、動きを研ぎ澄ませた。これが結果的に、今季のプレーに直結していく。

5試合連続ゴールで本領を発揮。

 大前元紀の価値は下がった――。

 そんな評価が聞こえることもあった。実際、彼の耳にも届いたが、今季を迎えるにあたって、不安は一切なかった。

「周りの理解度が上がっているのは分かった。あとは監督に認められて、試合に使ってもらえるように努力するだけ。怪我をしないで試合に出続けられれば、結果を残す自信はあった。自分の価値をもう一度高めたいという思いが強かった」

 迎えたJ2開幕戦こそ、出番が来たのは終了間際の90分だった。だが、第2節の町田ゼルビア戦で先発出場すると、2−3で敗れたものの1ゴールをマーク。そして第6節のアビスパ福岡戦で試合を決定づけるゴールを叩き込み、第7節の松本山雅戦で2試合連続ゴールをマークした。

 本領を発揮したのは第20節の京都サンガ戦から第24節の徳島ヴォルティス戦にかけてだ。この期間で5試合連続ゴールを挙げ、得点ランキングトップに立った。大前も充実ぶりをこう話している。

「周りもだいぶ俺のプレーを分かってくれるようになった。上手く引き出してもらっていると思います」

周囲と連係し、惜しまず走る。

 続く第25節のホーム・松本戦。この試合、大前は無得点に終わり、6試合連続ゴールとはならなかった。チームも前半途中で相手に退場者が出て1人多い状況となったが、1−2の逆転負けを喫した。

 それでも大前は70分にFWマルセロ・トスカーノとの交代を告げられるまで、相手の脅威になり続けた。相手3バックと3ボランチが中央をこじ開けようと、スペースに顔を出し続ける。その大前にグラウンダーのボールが入ることで大宮はチャンスを作っていた。

 36分にFW富山貴光が負傷し、FWロビン・シモヴィッチが投入されると、攻撃はシモヴィッチへのロングボールがメインになった。それでも大前は「ロビンが入ってきたので、上手く段差を作りながら、相手の嫌な場所に常にいることを意識した」と、ロングボール一辺倒にならないように工夫した。

 何度も首を振って周囲を確認し、ショートスプリントを繰り返す。それは10人となった松本にとって脅威だった。そして大前がピッチを去って以降、大宮の攻撃は単調となり、勝ち点を落とした。

反町監督からも称えられるほど。

「大前が途中でいなくなって本当に助かった。彼はFKのスペシャリストで最後まで残っていたら……あれだけのFKがあったらやられていたし、彼がいなくなったことで、ボールの出しどころを抑えれば良かった。(10人になってから)ハーフスペースを消すために3ボランチにして、彼の動きを封じようと思った。ただ大前がいなくなってセカンドボールを拾う要員に切り替わって助かった」

 これは試合後、松本の反町康治監督のコメントだ。この言葉は大前が効いていたかを証明している。大前本人も敗戦を悔しがると同時に、手応えを掴んでいた。

「前半、バラ(茨田陽生)から1本、裏のスペースに出してくれたパスがありました。結果としては上手く合わなかったけど、すごく手応えのあるプレーだった。バラは常に俺の動きを見てくれているし、俺もバラを見ていて、ボールを持ったらどこにパスが出るかを感覚的に分かっている。

 だから、あのパスが俺に出てきた。瞬間的な感覚が合ってきたことが、点を獲れている要因だと思います。自分が欲しい場所に要求したらボールが来る。それは大きなプラスですね」

やりたいプレーを伝えられている。

 この言葉を結果で示したのは翌26節のホーム・ロアッソ熊本戦でのこと。1−1の同点で迎えた70分、ハーフライン付近右サイドに開いた茨田にパスが渡る。次の瞬間、茨田からゴール前にロングスルーパスが送り込まれた。

 そこには相手最終ライン裏を狙って猛然と走り込んでいた大前がいた。大前はボールを足下にピタリと収め、飛び出してきたGKと1対1になると、チップ気味のシュート。これがゴール左隅に吸い込まれ、大宮が逆転。大前にとっての今季16得点目が決勝ゴールとなった。

「今は自分のやりたいプレーを上手く周囲に伝えられている。石井(正忠)監督に使ってもらっているのが一番だし、その中でチャンスもあるけど、毎試合何回もあるわけではない。だからこそ1回、2回のチャンスをいかに着実にゴールに繋げられるか。そこで決められているのが大きい」

 彼のキャリアハイは清水時代にJ2でマークした18ゴール。すでに残り16試合時点であと2ゴールのところまで迫っている。昨シーズン苦しみ抜いた“点取り屋”は初心に返ったことで、これまでの積み重ねを実証するペースでゴールを挙げている。

「もっと俺が点を獲らないと、チームは勝てないと思います。今年はまだ1試合で2、3ゴールを奪っていない。コンスタントに点が獲れていることは良いことだけど、やっぱりもっと守備を楽にさせないといけない」

昇格したときに得点ランクが上なら。

 背番号10に輝きが戻って来た。ゴールを量産しても決して浮かれない男は、不動のエースストライカーとしての矜持を口にした。

「毎年、毎年ゼロから始まるので、コツコツとやるだけなんです。今年は昨年迷惑をかけた分、もっと点を獲りたいし、J1昇格を果たしたときに、自分の得点ランキングが上になっていれば良いなと思っています。辛いシーズンを経験した分、今年に懸ける思いは強い。やるしかないと思っています」

 チームを勝利に導くゴールの量産を。彼の頭の中にはキャリアハイの得点数など頭にはない。

 頭にあるのは、清水の時のようにチームをJ1に戻すことのみだ。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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