オリックスからDeNA移籍の伊藤光。“生涯一捕手”のこだわりは続く。

オリックスからDeNA移籍の伊藤光。“生涯一捕手”のこだわりは続く。

 必要とされること、求められること――。

 横浜DeNAベイスターズに加入した伊藤光は、野球人としての喜びを享受し、新天地で日々声を出し、汗を流している。

「絶対にやってやる、という気持ちになっています。不慣れな環境、わからない状況だからこそ、初めが肝心。移籍してきて、きっと周りは“どんな選手で、どんな性格なんだろう?”といった目線で見ているなと思ったし、そこは緊張もしたんです。けど、今はすっかり溶け込めています。若い選手が多いなか、年上の人間になるので、しっかりとやっている姿で証明するのが大事かなって」

 プロ11年目の伊藤は、凛とした表情でそう語った。

 誰もが驚かされた伊藤のDeNAへの加入。オリックス・バファローズ時代は、ベストナインやゴールデングラブ賞を獲得し、さらに侍ジャパンにも選出されたこともある、いわば球界を代表するようなキャッチャーである。今季、捕手陣が振るわず固定することのできなかったDeNAからすれば、これ以上ない戦力補強となった。

「間違っても二軍レベルではない」

 DeNAの光山英和バッテリーコーチは、伊藤を次のように評する。

「欠点のない選手ですね。プロ生活も長いので、どんな状況であっても周りを冷静に見ることができる。リードはもちろん、スローイングのコントロールもよく安定した送球ができる。またワンバウンドを止めるのも上手い。バッティングも過去の実績があるので、心配はしていない」

 そして次のように続け、首をひねった。

「間違っても二軍レベルのキャッチャーではない。どうして二軍にいたのか不思議でしょうがない」

トレードは本当にびっくりしたけど。

 今季、伊藤は移籍するまでほとんどの時間を二軍で過ごしてきた。非常に苦しい状況と思えたが、本人からすれば決して焦ることはなかったという。

「一瞬でもチャンスは来ると思っていましたし、いかにそこを掴み取ることができるか。だから気持ちを切らすことなくファームにいるからこそやれることに打ち込んできました。一軍で当たり前にやれる選手だと思われていただろうし、絶対に手を抜くことはしませんでしたね」

 待ち望んでいたチャンスは、トレードという意外な形で訪れる。伊藤は「まさかチームを出るとは思っていなかったので、本当にびっくりしました」と、驚きを隠さなかった。

 7月16日に一軍登録されると、8月2日終了時点で12試合においてスタメンマスクをかぶり5勝7敗。チーム状況が悪く投打が噛み合わないこともあるが、伊藤の真価はまだ発揮されていないように感じられる。

捕手としての所作振る舞いがいい。

 前出の光山コーチは、この点について次のように語る。

「チームのピッチャーも、相手打者も完全にはわからない状態で出場しつづけているので、失点に関してはリスクを承知で使っている我われが悪いし、伊藤自身に何の責任もない。ただ、ここまで他の5球団と一通り対戦をした。この経験を踏まえ、今後どうやってピッチャーの力を引き出してくれるか期待したい」

 選手会長であり、ブルペン陣のリーダーである三上朋也は、伊藤の加入について「光は新しい風ですし、チームにとって確実にプラスになると思います」と述べている。ちなみに三上と伊藤は同学年であり、かつては東海地区でしのぎを削った間柄だ。

「キャッチングもそうなんですけど。キャッチャーとして見た感じの佇まいがとてもいいんですよ。所作振る舞いというのかな。それがピッチャーや野手に安心感を与えてくれる」

“キャッチャー以外”はない。

 グラウンドでただ1人、センター方向を見て守るキャッチャー。ピッチャーや野手は、その一挙手一投足に注目する。

 伊藤にこれだけは聞きたいことがあった。ここ数年、伊藤はキャッチャーだけではなくファーストやサードを守る機会があった。持ち前の打撃を生かしたいというチームの思惑や、伊藤自身、このプロという厳しい世界で生き抜くため必要なことだと妥協したのかもしれないが、“生涯一捕手”という言葉があるように、非常に特殊なポジションであることは間違いない。そこには当然、強い誇りやこだわりがあったと思うのだが……。

 その質問を伊藤にぶつけると「ベイスターズに移籍したからこそ言えるのですが」という前提で、慎重に言葉を選び答えてくれた。

「内野をやることはチームとして必要だったかもしれませんが、キャッチャーとしてこの世界に入って、ある程度経験を重ねてきていますから、基本的に“キャッチャー以外”というのは、僕の中ではなかったし、そういう意味でのこだわりは強くあります」

ピッチャーの人生を背負って。

 当然のようにキャッチャーとしての矜持が露わになる。

「キャッチャーはピッチャーの人生を背負ってサインを出します。だからこそ曖昧にはできない。内野もやれます、キャッチャーもできるじゃピッチャーに対し、すごく失礼だなという気持ちが強かったですね」

 安心して寄り添ってもらえる女房になる。自分の輝く場所は、やはり“扇の要”しかない。

 現在、DeNAは厳しい状況にあるが、伊藤はこのチームの能力に明るい希望を抱いている。そしてキャッチャーとして必要とされる立場になり、チームに貢献したいと心から願っている。あとは行動に移すのみだ。

ベイスターズではルーキーですから。

「非常にポテンシャルの高いチームですし、仲間になってわかったのは相手チームから打線はかなり警戒されているということです。強みは“勢い”でしょうね。外から見ていても感じていましたが、昨年はCSを突破したように“怖いもの知らず”で行ける若さがあると改めて感じています。

 背負うものも、失うものもない。日本シリーズという素晴らしい経験をしている選手も多いですし、そこで僕も、研究はしていますが“セリーグ知らず”でもあるので、皆と一緒に“怖いもの知らず”の勢いに乗っていきたい。ベイスターズではルーキーですし、ガンガンやるしかないです」

 そう言うと伊藤は、端正な面持ちでニコリと微笑んだ。

 横浜ブルーが板についてきた“生涯一捕手”は、捲土重来、覚悟を持ったリスタートを切って、新しい仲間たちと高みを目指す。

文=石塚隆

photograph by Kyodo News


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