育成で獲ってドラフト上位に戻す。SBで“早稲田の大竹耕太郎”再び!

育成で獲ってドラフト上位に戻す。SBで“早稲田の大竹耕太郎”再び!

 投手陣に苦慮するソフトバンクの“救世主”になれるのか!

 月が変わって、ツキも変えられるのか?

 8月1日、首位・西武との一戦に先発したソフトバンクのルーキー・大竹耕太郎(184cm78kg・左投左打・早稲田大)が8イニングを5安打2失点に抑え、プロ初登板初先発で見事初勝利をあげた。

 大竹耕太郎は昨秋のドラフト会議で、「育成選手」として指名され、プロに進んだ選手だ。

 学生野球生活の後半2年間、彼はとにかく苦しんだ。ヒザを痛め、肩を痛め、野球に真っ当に向き合う青年だったから、適当なところで切り替えたり、やり過ごしたりできずに、いちいちつまずいたり、カベに当たったり。そんな「悲話」を何度か耳にしたこともあった。

入学から2年間エース、その後低迷。

 入学直後からの2年間4シーズンは、大竹耕太郎といえば、絶対的な早稲田のエースだった。

 とりわけ、2年生の春と秋はリーグ戦を連覇して、6月の全日本大学野球選手権でも優勝の原動力となり、このままいったら2年後は「ドラフト1位だろう!」の声もあがっていたほどの勢いだった。

 そこから2年間の長い“低迷”だったから、育成枠でソフトバンクに進むことが決まったときも「早稲田のエースを張った男が、なにも育成でいくことはないだろう」という声が年配のOBからいくつもあがっていたという。

 それほどの、プロへの強烈な意欲。

 あいつなら、野球をやめて就活しても、銀行でも商社でも、行った数だけ内定がとれる。

 野球部関係者のそんな感心する証言も、大竹耕太郎という青年の優秀な頭脳と人格を表していた。

生きたボールが立て続けにミットへ。

 2年生の秋、大竹耕太郎が快投を続けていた頃。スピードが“140”を超えることもめったになく、魔球のような変化球もなさそうなのに、どうして……?

 試合前のブルペンで投げる大竹耕太郎を、すぐそばで見たことがある。捕手の後ろあたりで見ていたら、すごく速く見える。ベースの上で速く、ミットの当たりもすばらしく強い。

 ネット裏からは何でもなく見えていたスライダー、カーブ。チェンジアップだったのかフォークだったのか、スッと抜いて沈むボール。すべての“変化点”がすごくホームベースに近い。いわゆるキレの鋭い、生きたボールが立て続けに構えたミットに決まる。

 低めに集める意識と、それを実践できる投球技術。

 これなら勝てるわ……。

 応援部の人に「エールの交換が始まるから」と応援席を追いたてられながら、なるほどね……と深く納得したものだった。

 そのまんまのピッチングだった。

アマ時代の大竹に戻っていた?

 初回、西武4番の山川穂高一塁手に、見えなくなるほど飛ばされて、うわっ! と思ったが、そこからが「早稲田大学・大竹耕太郎」そのものだった。

 インステップしてくるから、サウスポーの生命線であるクロスファイアーが、右打者のふところ斜めの角度で食い込み、左打者にはボールを遠くに見せた。さらに、チェンジアップをストライクからボールゾーンに沈めて、打者の視線を崩してみせた。

 投げ続けた8イニング24のアウトの中で、フライになったのは4つだけ。あとの20のアウトは、すべて内野ゴロと三振だったのが、何より、早稲田でエースとして勝ち星を重ねていた頃の大竹耕太郎に戻っていた証拠であろう。

 戻っていた?

 自分でそう考えておいて、違和感を覚えていた。

 プロ野球のルーキーが一軍デビューし、勝利に貢献できるのは、その選手がアマチュア時代より成長し、進境著しいからこそ……ではないのか。

 アマチュアの頃に戻ってしまっていては、進化よりむしろ退化かもしれないのに、大竹耕太郎の場合は、「アマチュア戻り」が進境につながった。

育成で獲って“ドラフト上位”に。

 一軍に上がってすぐに、首位を走るチーム相手に先発で当てられて、8回まで試合を作って勝利に結びつける。普通なら、ドラフト1位か2位で入団したルーキーの「仕事」だろう。

 ということは……。

“育成”で獲って、半年で“ドラフト上位”に戻して使ってる……そういうことだろう。

 この日の大竹耕太郎の覚醒で、ソフトバンクは2017年ドラフトで1位、2位を「3人」獲得したことにはならないか。

 もちろん、ここまで技量を上げてみせたのは大竹耕太郎本人だろうが、その陰に「早稲田の大竹」に戻してみせたスタッフの頭脳と工夫と骨折りがあったはずだ。

「おばけフォーク」の千賀滉大が今ひとついつもの調子にほど遠い今季、そこを補うように8勝をあげる石川柊太。今や立派なレギュラーマスクに台頭した甲斐拓也に、今季8年目、腐らず頑張り続けた牧原大成は、二塁手のレギュラーとして、この暑い中で3割台をキープしている。みんな、みんな、育成を登竜門にしてきた選手たちばかり。

 12球団で唯一、ソフトバンクが「育成枠」を有効活用している。それは、誰もが認めるところだろう。

よかった頃に戻してあげる発想。

 5年先に、チームのどこかで開花できる潜在能力を持っているかどうか。

 それがこれまでの“育成枠”の定義だとすれば、今後は違うのかもしれない。

「今はどん底かもしれないが、よかった頃に戻してあげれば、そこからさらに伸びていけるのでは……」

 そんな発想が、新たな育成枠を生み出していくのではないか。

 もしかしてプロ野球のスカウトって、「ロマンチスト」の方がいい仕事ができるのではないか。

 いや、むしろ、ロマンチストでなければ、プロ野球のスカウトはできないのではないか。

 まもなく、スカウトたちの勝負どころである「夏の甲子園」。そんなタイミングで、ふっとこんなことを思ってみたりしている。

文=安倍昌彦

photograph by Kyodo News


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