点取り屋・長岡望悠が全日本復帰!中田久美監督の一言と新しい自分。

点取り屋・長岡望悠が全日本復帰!中田久美監督の一言と新しい自分。

 8月19日に開幕するアジア大会の登録メンバーに、久光製薬スプリングスの長岡望悠の名前がある。国際大会でのメンバー入りは、2016年リオデジャネイロ五輪以来、2年ぶりである。

 長岡は高さとスピードを兼ね備えた攻撃でリオ五輪ではチーム最多得点を挙げたサウスポーエース。2020年東京五輪に向けても当然、日本の得点源として期待されていた。

 しかし2017年3月4日のV・プレミアリーグ、NECレッドロケッツ戦の試合中に左膝の前十字靭帯断裂という大怪我を負い、昨シーズン1年間はコートから姿を消した。手術と長期間に渡るリハビリを経て、今年ようやく復帰を果たした。長岡が加われば、昨年から全日本の課題となっていたバックアタックの得点力は大きく改善されるだろう。

「このままじゃ使えないよ」

 ただ、長岡は過去の実績と名前だけで元の場所に戻れたわけではない。

「このままじゃ使えないよ」

 今年4月、全日本合宿に招集して長岡のプレーを見た全日本の中田久美監督は、そう言って長岡を久光製薬に帰らせた。そして当初復帰戦となる予定だった5月15日開幕の国際大会、ネーションズリーグではなく、国内の黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会に出場させた。中田監督はこう明かす。

「負傷した膝自体には問題はなかったんですが、元に戻すためにどこかで一歩、自分で越えなきゃいけないところを、越えていけていなかった。彼女はすごく細かく自分の感覚というものを気にする人なので、その感覚がしっくりこなかったんだと思う。それはわかるんだけど、だからっていつまでも調整ばかりしていてもしょうがない、という時期にもう来ている。(五輪まで)2年ということを考えたら、そこを越えるために、誰かが背中を押すとか、強引に引っ張るという手助けが、今この人には必要なのかなと思いました。そうしないと、このまま終わっちゃう。

 だから、『調整ばかりしていたら使えない。勝つための、点数を取るスパイクってどういうことなのかを、黒鷲旗で経験してきなさい。自分を見つめ直しなさい。そこを越えないと、いつまでも越えないうちに終わっちゃうよ』と伝えました」

8年来の付き合いだからこそ。

 中田監督と長岡は、中田監督が久光製薬のコーチ、監督を務めていた頃からの8年来の付き合いだ。指揮官の意図を理解した長岡は、「黒鷲、やり切ってきます」と答えて代表合宿を離れた。

 そして4月30日に開幕した黒鷲旗で、長岡は約1年2カ月ぶりに実戦のコートに立った。初戦の金蘭会高校戦に先発出場。体のキレやラリー中のスピードなどはまだ元通りというわけにはいかなかったが、コートに入るとやはり存在感がある。勝利した試合後、感慨深げにこう語った。

「久しぶりだなーって……。試合と練習は全然違って、久しぶりの試合はすごくワクワクするものがありました。本当に、試合に出られることがすごく幸せだなと感じました。もっと体のスピードを上げることももちろん、試合の中でパフォーマンスを発揮できるよう取り組みたい。自分は点数を取ることが仕事なので、その嗅覚を、試合の中で研ぎ澄ませていかないと。それに試合の中でのジャンプや切り返しの体力が必要。それは練習とは別のものがあるなと今日すごく感じました」

「納得がいくという部分では10%も行っていない」と言いながらも、1本、これだと思うスパイクがあったと語った。

「なんとなく打つ前に、全体が見えて、『ここ、行ける』という感覚があったので、そういう感覚を多く養っていければと思います」

試合後、LINEで送った手応え。

 翌日のPFUブルーキャッツ戦は試合途中から出場し、攻撃の軸としてフルセットの接戦に打ち勝った。

 大会後、長岡は中田監督に、「こういうことなんですね。久美さんの言っていることがよくわかりました」というLINEを送った。

「試合の中で、『あー、この感じ! そうだったそうだった』ってすごく思った感覚があったんですよ。究極の(競った)試合もあって、その中で湧き出てくる自分があった。それはいくらリハビリを終えて、合宿に行って練習したり、ゲーム形式をやっても、絶対に出てこなかったもの。

『自分が勝たせる』って久しぶりに思ったんです。もちろんバレーはチームで勝つんですけど、私のポジションってそう思わなきゃいけないポジションだと思うんですよ。それって追い込まれないと出てこないもの。ただ、これで越えられたわけじゃなくて、ただのスタートでしかない。スタートは切れたので、ここからどんどんペースを上げていく、という感じです」

リハビリ期間に広げた「想像」。

 頼れる点取り屋が全日本に戻ってきた。いや、ただ戻っただけではない。今の長岡は、以前よりも多くの可能性を秘めている。

 黒鷲旗の大会中、チームメイトの野本梨佳がこう言っていた。

「望悠はすごく脳のことに詳しくなっているので、いろいろ教えてもらっています」

 リハビリ期間中、長岡は体を動かせない分、さまざまな知識を身につけた。

「焦ってもいいトレーニングはできないし、いい方向につながらないので、それよりも自分の体のことを学んだり、今やりたいことに時間を使おうと思って。その方が想像も広がっていくと思っていろいろやりました。

 バレーボールで私たちが世界に勝とうと思ったら、絶対にすばしっこくないとダメだと思うんですよ。今の世界(の強豪)って、でかくて速くてパワーもあるから、私たちは相手の隙を絶対に逃しちゃいけない。そのためにはすばしっこさを身につけて、間(ま)を操ったり、頭を使ったり、相手を見て読んだり、いろんな駆け引きをしたり……。結局は自分の体を思い通りにコントロールすることが大事だと思うんです。それが最低限備わらないと、何も始まらないのかなと思います」

小脳を使う感覚に「面白いな」。

 そこで、体や運動のメカニズムなどを学んだ。中でも脳に興味を持ったきっかけは、長岡自身が感じていたある“感覚”だった。長岡は首の後ろの、長く伸びた髪を結んでいるあたりを抑えながら説明してくれた。

「以前から私、プレーしている時に、後頭部の下のこのあたりの脳をすごく使ってる感じがしていたんですよ。ここを使えている時は、いい感じだった。それで気になって調べたら、そこは小脳だったんです。小脳って、運動機能に関わっていたり、なにかを体で覚える時に使う場所だと書いてあって、『ほーお! 面白いな』と思って。そういう話をしたら、トレーナーの方が『こういうのもあるよ』って、詳しい本を見せてくれました」

 そこから、学ぶ意欲と範囲はどんどん広がっていった。

新しい自分を作っていくイメージ。

「怪我をしていた間に、いろんな知識が増えたり、外からコートを見られたことで、『こういうふうに動けたら』とか、『こういうことができたら』というイメージが以前よりすごく湧いてくるようになりました。でもまだそれに自分の体がついてきていないから、体現するには時間がかかると思うんですけど、それができたらって考えるとすごくワクワクします。

 でも難しいのは、バレーって自分の感覚だけに集中していられないじゃないですか。相手も味方もいて忙しいから。でも、だから面白い。それを自分だけじゃなくチームで体現できたら、もっと面白いなーと思うんですよね。日本が勝つためにも。とか言ったら、お前何様だって言われるかな(笑)」

 黒鷲旗での復帰戦の後、長岡はこう語っていた。

「前の自分に戻そうという気持ちでやるのではなくて、体も、心も、新しくなっているので、新しい自分を作っていくイメージで、納得いく1本を増やしていきたい」

 長岡は今、改めてバレーボールの奥深さと面白さを噛みしめながら、復活ではなく“新生”への道を歩んでいる。

文=米虫紀子

photograph by AFLO


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索