ミランをミラニスタの手に取り戻せ。レオナルド復帰による再建の希望。

ミランをミラニスタの手に取り戻せ。レオナルド復帰による再建の希望。

「ミラニスタ」という言葉には、ミランのファンという第一義に加えて、ミランの所属選手やOBという意味がある。

“ミランをミラニスタの手に取り戻す”。

 夏の間、このスローガンが象徴的にくり返されたのには理由がある。

 中国人オーナー会長のあっけない失脚と米国ヘッジファンドへの経営権移譲。UEFAヨーロッパリーグ(EL)の出場権剥奪と再獲得。1年限りで出て行った主将ボヌッチと入れ替わりでやってきた大砲イグアイン。

 クラブ創設119年の夏、ミランを取り巻く環境は激変した。その渦中、1人のミラニスタが古巣の中枢に帰ってきた。

 現場を統括するテクニカル・ディレクター(TD)として名門再建に取り組むのは、レオナルド・ナシメント・ジ・アラウージョ。かつて選手や監督、フロントとして活躍した、あのレオナルドだ。

中国人実業家から、アメリカ人の手に。

「ミランは私の人生の大事な一部だが、また戻ってこれるとは思っていなかったから興奮している。このクラブは世界のトップに返り咲かなくてはならない。新経営陣の考えは明快だ」

 過去数年にわたって開幕前に唱えられた名門再建のかけ声は、シーズンの終了とともに中途半端な失望に変わり果てた。だが、ミラン復活は今度こそ現実のものになるかもしれない。

 2018年7月10日は、クラブ史の大きな転換点となった。

 李勇鴻(リ・ヨンホン)前会長は、米国ヘッジファンド「エリオット」が立て替えていたクラブ株増資用資金3200万ユーロを返済期限までに用意できず、抵当に入れていたクラブ経営権を差し押さえられた。

 早い話が、怪しい中国人実業家が持っていたミランをアメリカの高利貸しが借金のカタにぶん取った、ということだ。

“チャイニーズ・ミラン”は呆気なく終焉のときを迎えた。

エリオット社は損な取引はしない。

 昨年4月に李会長による買収が成立した後、彼を中心とする最高経営会議から信任されたファッソーネCEOとミラベッリSDは、夏の移籍市場で2億ユーロ以上の巨額をバラ撒いた。

 これをFFP(ファイナンシャル・フェアプレー)規定への重大な違反と見なしたUEFAは、今年6月に今季のEL出場権を剥奪。その後、米国とロシアの大富豪たちがミラン買収を持ちかけるも李会長はなぜか拒絶し、エリオット社への恨み節を残して表舞台から消えた。

 経営権をぶん取った、といえば聞こえは悪いが、金融界で幅を利かすエリオット社は資金運用のプロだ。損の出る商売はしない。

 欧州カップ戦不出場処分撤回を勝ち取ったスポーツ仲裁裁判所への訴えでは、トップが替わり、再建のためにエリオット社が資金面で3〜5年間のバックアップを確約したことが高く評価された。

新会長はベルルスコーニとも旧知の仲。

 エリオット社の肝煎りで送り込まれ、新しくミラン会長に就いたパオロ・スカローニは、ロスチャイルド投資銀行の副会長を務める国際経済界の大物中の大物だ。

 だが、まったくのサッカー門外漢というわけでもなく、ミラノから200kmしか離れていない北部ビチェンツァ出身の彼は、故郷のクラブの会長を務めていたこともある。UEFAカップ・ウイナーズ・カップ準決勝まで躍進した1998年当時の話だ。

 かつての帝王ベルルスコーニとも旧知で、元々ミランの少数株主でもあったスカローニは、会長就任に際して「いちミラニスタとして本当に嬉しい」と語った。

 先月21日、スカローニ以下経営のプロたち8人による最高経営会議が新たに発足。彼らは元々外様だったファッソーネCEOとミラベッリSDの2人を即時解任すると、クラブの風土を熟知するレオナルドを招き、現場の最高責任者たるTDとしてチーム編成を託したのだった。

チームに石油王はいないが。

 レオナルドほどクラブの内部で多彩な経験を積んだミランOBはそういない。

 選手としてはザッケローニ時代にスクデットを獲り、引退後はガッリアーニ元CEOの下で背広組として経験を積んだ。'09-'10年シーズンには監督としての喜怒哀楽も味わっている。

 7年前にパリSGへ転職すると、アンチェロッティ監督(現ナポリ)招聘を皮切りにFWカバーニやMFチアゴ・モッタ、FWイブラヒモビッチらを次々にセリエAクラブから引き抜いて、CLの常連クラブに育て上げた。

 ただし、復帰したミラノの古巣には石油王はいない。

「チーム強化はFFP規定をクリアしながら、が大前提だ。打ち上げ花火のようにバンバンバン! と派手な補強は期待しないでほしい」

 人びとをあっと言わせる茶目っ気がレオナルドの真骨頂だろう。就任時の言葉とは裏腹に着任早々、レオナルドTDはビッグトレードに成功した。

レオナルドが説得すれば誰でも納得。

 1年限りで古巣ユベントスへ戻りたがっていたDFボヌッチを放出し、代わりにセリエAで5季通算111ゴールを挙げているFWイグアインと次世代の大器DFカルダーラを絶対王者ユーベから獲得したのだ。

「レオとの直接面談で説得された。あっという間に移籍を決断させてくれたよ」(イグアイン)

 人たらしの男レオナルドは甘いマスクとソフトな語り口で、どんな難題でも相手に納得させてしまう。

 仇敵インテルによる今夏の積極補強を、指を咥えて見るしかできなかったミラニスタたちだが、2年前にセリエAシーズン最多得点記録を塗り替えた歴史的ストライカーの入団が正式に決まると、途端に活気づいた。

「レオナルドはクソ野郎だ」と言った人。

 ただ、この活況をもたらした好漢TDに向かって「レオナルドは最低のクソ野郎だ!」と名指しで罵った人間が今のミランにいるらしい。

 7年前、ミランがセリエAで最後の優勝を果たしたとき、興奮のあまり黒ブリーフ姿となり、ミラニスタたちを扇動しながらレオナルドへ毒づいたのは、現監督ガットゥーゾその人だ。

 13年間の現役生活を捧げた、筋金入りのミラニスタであるガットゥーゾは、レオナルドが監督を務めた'09-'10年シーズンに出場機会を大きく減らした。それだけでも気に食わないのに、翌シーズン後半に憎っくきインテルの指揮官へ就任したものだから、ガットゥーゾの中でレオナルドは忌むべき裏切り者になった。

マルディーニもミランに帰還?

 現在、テクニカル・ディレクターとして監督の生殺与奪権を握るレオナルドは、かつて公に罵倒された相手との和解の道を選び、チームの指揮を委ねる。

「確かに私とリーノ(ガットゥーゾ)との間には過去に小さな問題があった。だが、それは見解の違いというやつで、2人の間ですでに解決したし、今はきちんとやり取りができている」(レオナルド)

「レオはイグアインやカルダーラといったいい選手を連れて来てくれた。彼らのおかげでプレーのレベルが一段上がる。だが、忘れてはならねえ。俺たちはまずチームであることが最優先だ」(ガットゥーゾ)

 旧き良き時代を知るミラニスタたちは、過去のわだかまりを水に流して、前を向き共闘することを選ぶのだ。

 マンチェスター・Uやバルセロナと戦った北米ツアーを終え、チームがイタリアへの帰途についた5日、ミラニスタたちの胸をさらに躍らせる新たなビッグニュースが飛び込んできた。

 数々の栄光と記録を持つレジェンドOB、マルディーニがミランへ復帰する、という吉報だ。

ミラン再建はまだ間に合う。

 本稿締切時点ではどういったポストを担うのか詳しい情報は出ていないが、2012年の現役引退後ずっとクラブと距離を置いてきた偉大な“カピターノ(主将)”の帰還は、ミラン再建への象徴的な一歩になるにちがいない。マルディーニのフロント招聘は、かつての盟友レオナルドが強く望んだものだ。

 新TDレオナルドを中心に、ミラニスタの精神を知る者たちが集いつつある。

「9年ぶりにミランに帰ってきた。おそらく人生で一番困難な挑戦になるだろうと思う。出戻った者が結果を出すのにはより骨が折れる。それでも、このクラブには目標とそれを可能にする(チームと経営陣、ファンの良好な)バランスを見出している。我々はCLの舞台に戻るために全力を尽くさなくてはならない」

 今なら、まだ間に合う。ロッソネロの再建が始まる。

 今度こそ、ミラニスタたちの手で。

文=弓削高志

photograph by Getty Images


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索