甲子園で1番「暑い」のは誰か。選手、審判、カメラマン、応援団。

甲子園で1番「暑い」のは誰か。選手、審判、カメラマン、応援団。

 全国高校野球選手権大会第100回記念大会が、いよいよ幕を開けた。

 今年の7月以来の暑さは異常気象らしいが、そんなことはものともせず、全国の予選を勝ち抜いた精鋭56校が熱戦を繰り広げ、その熱気にあおられるように、猛暑、炎暑なにするものぞ! と熱心な高校野球ファンたちが早朝から「甲子園」に集う。

 この夏から、ネット裏の内野席が「指定席」になった。そのぶん、チケット売り場に延々と伸びる「チケット難民」の列は少なくなったが、それでもダグアウト上方の内野席は今でも「早い者勝ち」なので、朝5時過ぎの一番電車でやってくるファンの波はあとを絶たない。

 大会はまだ始まったばかりなので、熱戦と奮闘する選手たちの様子は次回以降ということにして、ちょっと違った角度から話を始めてみたい。

 今年の甲子園は、確かに暑い。

 東京の暑さだってかなりのものだったから、なんとかなるだろうとタカをくくって来てみたが、伊丹に着いて甲子園行きのリムジンを待つ15分で、もう心が折れた。

 人には、“慣れる”というありがたい機能が搭載されている。

 自分の原稿にも何度か使っているフレーズを胸の中で繰り返し、それでもダメなら、球場隣りの商業施設に逃げ込んで……なんとかやり過ごすしか仕方ない。

記者や選手ももちろん暑いが。

 ならば、甲子園で一番暑いのはいったい誰なのか?

 私たち「記者」はまだマシである。定位置の「記者席」はネット裏大鉄傘の下で、おおむね日陰になる。

 午前中の風がやむ時間はたまらないが、お昼を過ぎて風が通るようになると、まあまあ「いられる場所」になる。

 グラウンドの選手も、もちろん暑い。

 確かに暑いが、彼らは夢中だ。自分が球児の頃を思い出してみても、カンカン照りの記憶はあるのに、暑くて参った覚えがない。

 今の甲子園は、ダグアウトの中にエアコンが備え付けられているとも聞く。なにより、2時間前後の間に9イニング闘う結構忙しいスポーツだから、暑さを味わっている暇などない。

足の裏が「かちかち山」になる審判。

 むしろ、審判の人たちのほうがきびしいのではないか。以前、現役の高校野球の審判員の方がこんなことを話してくれた。

「夏のグラウンドで何がうらやましいって、外野破って一塁回って、二塁、三塁走っていくヤツ。風切って、涼しいだろうなぁ……って、あとを追っかけたくなりますよ」

 じっとしている時間も意外と多く、天日にさらされ、あぶられ、熱した地面からは熱伝導によって、足の裏は「かちかち山」と化す。

 しかしそうはいっても、グラウンドに立つのは1試合、2時間から3時間であろう。その中での“辛抱”である。

 同様の条件に、ほぼ一日中さらされ続ける人たちがいるのをご存じだろうか。

 カメラマンの方たちである。

全試合1人で張り付くカメラマンも。

 甲子園球場の「カメラマン席」は一塁側、三塁側のダグアウトにくっつくように、すぐ外野寄りの位置にある。

 頭上に日差しをさえぎる屋根もなく、前に打球から身を守るネットもないから、太陽光線は容赦なく降りそそぎ、猛ライナーのファールも飛んでくるし、時には、ファールフライを追った一塁手、三塁手が飛び込んでくることもある。

 聞いてみると、カメラマンさんたちは「一匹狼」が多く、何人かでローテーションを組んで……というわけにはなかなかいかず、結局1人で1日中“あの席”で頑張り続けることが多く、ために、大会が始まって何日か経つ頃には、みんなすさまじい日焼けのしかたをしている。

 さぞスペシャルな暑さ対策など施しているのだろうと思えば、

「特にないですねぇ。飲んで、冷やして……あとはまあ、根性ですね」

 と、こんなに悲惨な環境なのに、プロは実にフラットで頼もしい。

 慣れてますから……。

 それも、彼らの暑さ対策だという。

覚悟との落差で言えば、応援団も。

 そういう意味では、慣れるどころか、初めて甲子園にやって来て、予期せぬ猛暑の不意打ちをくらってオロオロしている。そんな人たちが、実は最も高い「体感温度」にさらされているのかもしれない。

 前の試合が長引いて、アルプススタンドになかなか入場できずに、球場の外で並んで待っている応援団の方たちだ。

 応援の人たちは、その多くが、地元から「応援バス」に揺られてやってくる。

 JRや空路を使って個人でやってくるととんでもなく高いから、たとえ10時間、15時間かかっても、割安の応援バスに乗って、甲子園に駆けつける。

 それだけでも十分グッタリしているその上に、目の前にそびえ立つアルプススタンドを眺めながら、1時間、2時間待ちの難行苦行。

 もちろん屋根もなく、なぜかそのあたりには風も吹かない。

 たまさか傍らを通ることがあるが、なんだか申しわけなくて、思わず視線をそむけてしまう。

 それでも、黙って“そのとき”を待つその気持ちこそ、応援する者の魂なのであろう。

 たった壁ひとつ隔てただけの室内練習場の中で、今か今かと出陣の時を待つ選手たちに見せてあげたいほどの、応援者たちの「選手を思う心」である。

およそ半分のチームがすでに登場した。

 大会も5日目、出場チームのおよそ半分が、初戦を終えた。

 出場全チームが初戦を終えるのに、8日間を要するこの100回記念大会。先は長いが、長いほど楽しみも多く、大きい。

 さあ、今年はどんなドラマが、ヒーローが。

 汗のかき甲斐のある「夏」である。

文=安倍昌彦

photograph by Hideki Sugiyama


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