「10点取られても打ち合いなら」折尾愛真の想定を越えた日大三打線。

「10点取られても打ち合いなら」折尾愛真の想定を越えた日大三打線。

 破格の心構えだった。

「10点は覚悟していたので」

 初出場の折尾愛真の1番・長野匠馬(しょうま)は、強打の日大三を相手に迎え、そう思ったという。それでも十分、勝機はあると思っていた。

 根拠はある。この夏、折尾愛真は、北福岡大会で6試合を戦い67安打、55得点と打ちまくった。決勝では飯塚相手に12−9と打撃戦も制している。チーム本塁打数10本は、参加校中最多タイ。フルスイングが信条の北九州の新興勢力だった。

 北福岡大会で3本塁打した長野は続ける。

「日大三は飯塚よりは上だと思っていたので10点ぐらいは取られるだろう、と。でも打ち合いなら負けないと思ってたんですけど……」

 折尾愛真は、初回に1点を先制したその裏、先発した120キロ台のエース小野剛弥が4四死球と乱れ、1アウトしか取れずに降板したこともあり、いきなり7失点。1−7と一気にひっくり返された。

ひと冬で体重が24キロ増えた選手も。

 ただ、それでもベンチはまったく怯んでいなかったという。奥野博之監督が話す。

「ぜんぜん落ち込んでなくて、むしろ、よっしゃという感じだった。ただ、逆に力んでしまったかもしれませんね」

 チームの打撃開眼のきっかけは、冬の「食トレ」だった。

 1時間に一回、400〜500グラムのご飯をシーチキンなどと一緒に食べるようにし、各部員ともに体重が急増。チーム内で最大となる68キロから92キロの増量に成功した5番・野元涼は、北福岡大会で6本塁打と大当たり。食トレの効果をこう語った。

「春先、打球がぜんぜん違った。この春からだけで16本打ちました。体重が増えた以外は何も変わってない。フォームも変えてません。高校入るまで練習試合でも1本もホームランを打ったことがないのにそこまで変わったのは体重以外、考えられません」

「自分たちがやりたい野球をやられた」

 その野元は試合前、「甲子園では3本はホームランを打ちたい」と意気込んでいたが、2三振を含む4打数無安打に終わった。

「自分たちがやりたい野球を相手にやられてしまいました。日大三は7点取ったあとも、まだつないできた。普通、1イニングで大量得点したら、早打ちになったりするもんなんですけど、常に点を取りにくる雰囲気があった。そこが怖かった。切れ目がなくて、守っていてもとてもつらかったです」

 野元は3番手投手としてマウンドにも上がり、7回裏には、日大三の4番・大塚晃平にレフトへ本塁打を浴びた。

「ホームランを打たれたのは初めてなので、打たれたとき、ホームランかどうかも分からなかった。かち上げられた感じ。スイングの迫力が違いました」

折尾愛真の覚悟を6点越えてきた日大三。

 折尾愛真のプロ注目の左のスラッガー、「3番・サード」の松井義弥は、日大三の右打者対策として、三塁ベースの5、6メートル後方に守っていた。それでも1回裏、日大三の主砲、3番・日置航の強烈な打球にグラブを弾かれ、内野安打にしてしまった。

「あそこで止められていれば、流れがかわっていたかもしれないんですけど……。打ち合いには自信あったんですけど、結果は、見た通りです」

 3−16。

 日大三打線は、折尾愛真の「覚悟」をさらに6点も越えてきた。

文=中村計

photograph by Kyodo News


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