騎手22年目・秋山真一郎の忠実さ。武豊の美しいフォームのように。

騎手22年目・秋山真一郎の忠実さ。武豊の美しいフォームのように。

 短距離戦とは思えないくらい引っ張ったままで先行勢をマークする。

「なぜかずっとよい手応えでした」

 追われるとアッと言う間に前を捉えた。2着につけた差は1と4分の1馬身。電撃の1000m戦である事を考慮すれば圧倒的な差と言っても過言ではない数字だ。

「はい。完勝でした」

 そう答えるのは、7月29日に行われたアイビスサマーダッシュの勝ち馬であるダイメイプリンセスの手綱をとった秋山真一郎騎手である。

 1979年2月9日、滋賀県の生まれ。父の忠一氏は元騎手で、その後、調教助手となった人物。

「騎手を意識したのは、幼稚園に入るかどうかという頃でした」

 幼い頃から父の姿を見て憧れた。小学校、中学校とその目標がブレる事はなく、'94年にはJRA競馬学校に入学。3年後、無事に学校を卒業すると、栗東・野村彰彦厩舎から念願の騎手デビューを果たした。

師匠からお尻をドシンと着くな、と。

 当時、師匠の野村調教師に言われた事があったと言う。

「鞍にお尻をドシンと着くような跨り方はするな」

 頭の中に常にその言葉を入れて騎乗するよう心掛けた。

 初勝利はデビューした翌週。その後も順調に勝ち星を増やし、1年目は33勝。2年目はさらにそれを上回る37勝。しかも、その勝ち星の中には、カネトシガバナーを駆っての神戸新聞杯(GII)もあった。デビュー2年目で初の重賞制覇。その早さに周囲は称賛の声を挙げた。

 しかし、当の本人は小首を傾げて言った。

「自分としては決して早いとは思いませんでした。むしろ時間がかかったとすら考えていました」

 デビューから2年目という数字は確かに早いだろう。しかし、秋山騎手がこの世界を目指したのは、先述した通り、幼稚園に入るかどうかという頃。そこからの"想い"があったから、本人には長い時間と感じられたのだろう。

GIホースに跨って感じたこと。

 当時、師匠から、あるGIホースの鞍上も任された。'97年の桜花賞馬・キョウエイマーチである。

 この桜花賞馬とコンビを組むようになったのは'98年のマイルチャンピオンシップから。ここでタイキシャトルの6着に敗れると、その後も阪神牝馬特別4着、ダートに挑戦したフェブラリーSが5着と、惜敗を繰り返した。

「それでも先生が乗せ続けてくださいました」

 すると、続く阪急杯(GIII)を見事に優勝。その後、2000年の京都金杯(GIII)も制すなど活躍した。

「GI馬は反応が違いました。若い時にこんなに素晴らしい馬の背中を経験させていただき、良い勉強になりました」

 それでもなかなかGIを勝つまでには至らなかったが、デビュー11年目、ついに大きなチャンスが巡ってきた。

 '07年のオークス。騎乗したベッラレイアは単勝2.6倍。1番人気に支持された。

「結果はハナ差の2着でした。1度は抜け出していただけに、悔しくてその晩は眠れませんでした」

'12年NHKマイルで念願のGI制覇。

 その後、再びGI制覇のチャンスが巡ってくるまでは5年の歳月を要した。

 '12年のNHKマイルC。デビュー16年目となった秋山騎手はベッラレイアと同じ平田修調教師が管理するカレンブラックヒルの手綱をとって挑んだ。ちなみに彼が戴冠を目指しGIに挑んだのは、実にこれが55回目の事だった。

 デビューから3連勝中のカレンブラックヒルは、単勝3.7倍の1番人気。果たして結果は2着に3馬身半もの差をつけての逃げ切り勝ち。楽勝とも言える着差ではあったが、これが初のGI制覇となったジョッキーは当時の心境を次のように語った。

「最後まで全く余裕はありませんでした。あれだけの差がついているのに、ターフヴィジョンを見る事すら出来ませんでした」

 憑き物がとれたように、彼はすぐにまた大レースの表彰台に上がる。同じ'12年の暮れ、ローブティサージュに騎乗して、阪神ジュベナイルフィリーズを優勝。自身2度目のGI制覇を飾った。

今年もベテラン健在の手綱捌き。

 その後の彼はGI勝ちはないものの、コンスタントに活躍を続けている。一昨年は勝ち鞍こそ25とデビュー以来最低の数字になってしまったが、3月にはネオブラックダイヤの鞍上を任されてドバイへ遠征。ドバイゴールドC参戦を果たした。マスクゾロによるシリウスS(GIII)制覇もあった。

 昨年は勝ち星を40に回復。タツゴウゲキとのコンビでは小倉記念(GIII)と新潟記念(GIII)を連勝してみせた。

 そして今年も7番人気のキンショーユキヒメで福島牝馬S(GIII)を勝ち、アッと言わせたかと思うと、冒頭に記したダイメイプリンセスでは1番人気に応えてアイビスサマーダッシュ(GIII)を制覇。22年目となるベテラン健在という手綱捌きを披露した。

 そんな秋山騎手を慕う後輩騎手は多い。彼らは一様に彼の人柄に惹かれ、騎乗フォームに酔わされると言う。

「武豊さんのフォーム、綺麗だな」

 デビュー以来、一貫して守っている事。

「お尻をドシンと着くような跨り方をしない」

 師匠の言葉は今もまだ弟子の心の中で生きている。だから「秋山さんの騎乗フォームは格好が良い」と口にする後輩が多いのだ。

「武豊さんのフォームを見て『綺麗だな』って憧れます。だから僕も少しでもそういうフォームで乗れるように、とは常に考えています」

 騎乗スタイルに関してはどれが良いとか悪いとか算数のようなデジタルな答えはない。だからどんな姿勢だろうと批判できるものではない。ただ、秋山騎手には現在の美しいフォームで、これからも活躍を続けて欲しい。そう思うのだ。

文=平松さとし

photograph by Photostud


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