大谷翔平の本塁打量産を支える“最強アオダモバット”の秘密。

大谷翔平の本塁打量産を支える“最強アオダモバット”の秘密。

“事件”は5月1日の練習中に起こった。

 シカゴ・カブスのダルビッシュ有投手が翌日のコロラド・ロッキーズ戦に備えて打撃練習を行なっていたとき、バットがグリップのちょっと上からヘッドに向けて斜めに大きくひび割れて折れてしまった。

 実はこのバットは数日前にロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平投手からもらった「大谷モデル」だったのである。ダルビッシュはこのバットで4月27日のミルウォーキー・ブルワーズ戦では今季初安打となる二塁打も放っていた。

「バットを頂いたので早速使ったら2塁打を打てました。(中略)二塁回ってこけたので次はスパイクください」

 こうツイッターで報告していた矢先に、その大事なバットを打撃練習で破壊してしまったのである。

「早速折ってしまいました。。なんでバッティング練習で使ってしまったんや。。」

 後悔先に立たず。ダルビッシュはすぐにツイッターでこう悲嘆にくれるコメントをアップした。

 だが、ある意味、この結果は目に見えていたとも言えるものだった。

 大谷のバットは、今は日本のプロ野球でも使用者が激減しているアオダモ素材だからである。

松井秀喜も福留孝介もアオダモを断念。

「タモは折れる」

 こう語っていたのはメジャー移籍直後の元ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜さんだった。

 松井さんは日本時代はアオダモのバットを愛用していた。しかしメジャー移籍に際してキャンプで折れやすいことから素材の変更を決断。最終的にはメープル素材のバットを使用するようになった。

 松井さんだけではなく中日からシカゴ・カブスに移籍した現阪神の福留孝介外野手も日本時代はアオダモの愛用者。しかし、メジャーに移籍すると、とにかく折れまくってメープルに変えている。

ダルビッシュがバットを折るのは当然。

 メジャーの動くボールだと、松井さんや福留ら一流打者ですらアオダモ素材のバットは非常に折れやすいのである。

 ましてや投手でたまにしかバットを握らないダルビッシュがアオダモのバットを使えば……。打撃練習とはいえ、あっさり折ってしまうのも仕方ないことだったのである。

 だが、このアオダモは使いこなせると強力な武器になり、大谷の格段の飛距離の秘密も、実はこのバットが大きな役割を果たしているのだ。

「力強く打てているのがいい。そっち(左翼)の方向にしっかり飛距離を出しているというのは、すごくいい傾向だと思います」

 8月7日のデトロイト・タイガース戦。1回無死一、二塁から今季12号の逆転3ランを放った大谷の試合後のコメントだ。

大谷のバットはゆっくりに見える?

 大谷はこの4日前、3日のクリーブランド・インディアンス戦ではメジャー初の1試合2本塁打も記録。第1打席の1回1死一塁から放った一打は、やはり逆方向の左翼に打ち込んだもの。3回1死から放った11号は打った瞬間にマウンドのマイク・クレビンジャー投手が頭を抱えた左中間スタンド中段、飛距離135メートルの特大弾だった。

 大谷の打撃、特にフリー打撃を見ていて一番の特徴として感じるのは、バットを非常にゆっくりと振っているように見えて、打球が想像以上に伸びていくことだった。

 打球がなかなか落ちてこないのである。

 この打球の秘密を解き明かすヒントとなる話をしていたのが、DeNAの筒香嘉智外野手だった。

「とにかくしなるんでタイミングが合うと一番飛ぶのがアオダモだと思います。柔らかい分だけバットとボールのくっついている時間が長い感じ。バットに乗せる感じで打てるので、打球も大きくなる。ただ少しでもタイミングがずれると、しなりが大きい分だけ振り遅れる感じになるので難しい」

アオダモはタイミングが合えば一番飛ぶ!

 筒香もプロ入り直後はアオダモを使っていたが、最終的にはそのタイミングのずれを嫌ってメープル素材のものに変えている。ただ、アオダモのバットのしなり感は独特で、タイミングさえ合えば大きな打球で一番飛ぶ。

 これが筒香の実感だった。

 アオダモのバットの最大の特徴は、筒香が語るように素材の柔らかさからくる打った時のくっつくような感触とヘッドが走るしなり感だと言われる。

 フリー打撃で大谷のスイングがゆっくり見えるのは、バットに乗せる感覚が強く、ボールとバットがくっついている時間がメープルなどの固い素材に比べてほんのわずかに長いからだ。

 そうしたしなりを使ってボールを運べるので、打球は遠くへ飛びなかなか落ちてこない。

 バットとボールの接する時間が長くしっかりとヘッドに乗せて打ち返せるから、こすったような弱い当たりではなく、逆方向への打球も力強く伸びていく。

 もちろんゆっくり見えるが実測のヘッドスピードは速く、インパクトでのパワーが並外れていることもある。ただアオダモ素材のバットを巧みに操り、そこから生み出される独特な打球は、大谷の打撃、大谷のホームランの大きな要素でもあるのだ。

最初は大谷もバットをよく折っていた。

 大谷にバットを供給しているアシックスジャパン株式会社の広報チームの話では、メジャー移籍の際にバットの長さは日本時代の34インチから33.5インチと約1.3センチ短くして最大径は3ミリから4ミリ太くなった。その分先端をくりぬいた先ぐり加工を施して扱いやすさを出しているという。

 総重量は非公開ということだったが、ヘッドが利きやすいように先端部分が太めでグリップが細い、典型的な長距離打者仕様のスペックである。

 ただ、大谷もメジャーの動くボールに慣れていなかった春先は、このバットをなかなか完璧には扱いきれずに、打席で派手に折って破壊するシーンが何度も見られた。

 つい最近でも8月5日(日本時間6日)のインディアンス戦では第3打席の2死三塁で、低めのカーブにバットを折りながらも左前タイムリーという場面もあった。

バットの原木になるまで60年以上!

 アオダモは折れやすい。

 特に手元で微妙に動くメジャーのボールを相手にすると、やっかいなのは間違いない。

 それでも打者・大谷はメジャーの投手のボールに徐々にアジャストしてきた。最近は滅多にバットを折らなくなってきているのが、その証とも言えそうである。

 アオダモはバットの原木として使えるまで成長するのに60年以上かかり、しかも1本の原木から作られるバットは4本から6本だという。かつては日本の木製バットのほとんどがアオダモ素材だったが、今は原木不足が深刻で、アッシュやメープル素材にとって代わられている。

NPBでも少なく、米国では大谷だけかも!?

 日本のプロ野球界でもアオダモのバットを使っているのは西武の中村剛也内野手、中日の平田良介外野手に広島・松山竜平外野手らわずか数人しかいなくなった。彼らにしても、松山はアオダモ素材を求めてメーカーを変え、平田は年間でたったの10本しか試合用として供給してもらっていない。

 それでもアオダモの独特な打感としなりでスイングを作ってきた選手にとっては、替えがたい感触があるわけだ。

 もともとバットといえばホワイトアッシュが主流で、今はより固いメープル全盛のメジャーでは、おそらくアオダモのバットを使っているのは大谷ぐらいなものだろう。

 もちろん扱いは難しい。

 ただ、この希少素材のバットには独特のしなやかさがある。

 そのしなりが大谷という打者の力を最大に引き出す、最強の武器になるのである。

文=鷲田康

photograph by Getty Images


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