龍谷大平安を苦しめた投球リズム。鳥取城北の「戦術的な遅さ」とは。

龍谷大平安を苦しめた投球リズム。鳥取城北の「戦術的な遅さ」とは。

 古豪を追い詰めながら9回サヨナラ負け。

 しかし、敗者・鳥取城北の山木博之監督の表情にあったのはあと一歩まで迫った充実感だった。

「勝てるチャンスがあったんで悔しいですが、選手たちは最後までいい勝負をしてくれた。力を出し切ってくれたと思います」

 1回に先制を許すも、難波海斗―山下泰輝のバッテリーを中心に守備で流れを呼び込むと、8回に同点に追いつく粘りを見せた。最後は「甲子園100勝」を狙う古豪の執念の前に屈した形だが、どう転んでも不思議ではない試合展開だった。

 戦前の予想を覆す接戦を演じた要因の1つが、バッテリーの呼吸だ。

 捕手の山下は「3点以内に抑えられると思った」と手ごたえを感じていたという。強力打線を混乱に陥れたのは投球間隔の長さだ。

相手投手の2倍以上の時間をかけて。

 エースの難波は投球間の意識をこう振り返る。

「1球1球丁寧に行こうという意識がありました。あまり長くとりすぎると注意されるんですけど、そこは守備にも迷惑がかからないようにしながら投げていました」

 高校野球では、投手はテンポよく投げるのが良しとされている。

 特に甲子園では審判からせかされることも多く、リズムよく投げることで試合の主導権を握ろうとするチームは多い。

 しかし、鳥取城北バッテリーは真逆を選んだ。

 これはタイムにも表れている。実際に、ストップウオッチで計測してみたが、投手の難波がボールを受け取ってから投球始動まで、およそ12〜13秒かかっていた。もちろん、シチュエーションによって変わるが、速くても10秒は使っていた。

 一方の龍谷大平安のエース小寺智也は4秒台後半から5秒台での投球が多かったので、城北バッテリーの間合いの長さが想像できるだろう。走者が塁上にいけばその投球間隔はさらに伸びていた。

複数のサインを出した戦術的要素。

 もっとも、間合いの長さはエースの慎重さだけを意味しているだけではない。戦術的要素があると山木監督は説明する。

「全国大会にはいろんなチームがあるので、より慎重にということで、捕手がたくさんの種類のサインを出していました。今日に限っては(サインを多く出したことによって)バッテリーの間合いが長くなって、打者を焦らせていたのかなと思います」

 捕手の山下によれば、「相手に僕のサインが分からないように意識した。イニングごとに変えるのではなく、多くの種類を出した」そうである。

遅い間合いに主砲のリズムが崩れ。

 この間合いの長さにもっとも苦しめられていたのが、龍谷大平安の主砲・松田憲之朗だ。今大会注目のスラッガーの1人だが、相手の間合いの長さに気づいていたと振り返っている。

「僕の時だけなのかなと思ってはいましたけど、間合いが長かったですね。その分、打席の中でいろんなことを考えさせられてしまいました。最初の3打席は全然タイミングが合わなかったです。8回の打席では、少し打席での立ち方などをそれまでと違うようにしましたが、それでもちょっとポイントがずれてしまいました」

 龍谷大平安は1回裏に3番松本渉のタイムリーで先制している。鳥取城北バッテリーが特に気にしていたのは松本と松田のクリーンアップで、2人に連打が生まれていたら試合展開は大きく変わっていただろう。松田の最後の打席も大きな中堅飛球だった。バッテリーの長い間合いが、龍谷大平安打線を分断したといえる。

 そうして、イニングを追うごとに試合の主導権を握った鳥取城北は後半から一気呵成に攻めに出た。6回から8回まで続けて得点圏に走者を出し、8回表ついに、山下、吉田修平の連続タイムリーで同点に追いついたのである。

「テンポよく」だけがリズムではない。

 それでも最後は9回裏に2死から好機をつくられ、サヨナラ打を浴びた。

「逃げたくなかったので、真っ向から勝負して後の攻撃に繋げたかった」と山下は三振を狙いにいった末の勝負と振り返る。強力打線の古豪を相手に一歩も引かない戦いぶりは、バッテリーによる、高校野球ではあまり見ないレベルの抜群の呼吸だった。

「テンポよく」ではなく「長く」――。

 また1つ高校野球の面白さを感じたゲームだった。

文=氏原英明

photograph by Kyodo News


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