全米プロ好発進、ファウラーの心。親友の死を悲しむより人生を祝福。

全米プロ好発進、ファウラーの心。親友の死を悲しむより人生を祝福。

 アメリカ人だからストレートなのか。それとも、米メディアが意地悪なのか。あるいは、それこそがメディアのあるべき姿というものなのか。

 今季最後のメジャー大会、全米プロ初日を5アンダー65で回り、ホールアウト時点で単独首位に立ったリッキー・ファウラーが会見場にやってくると、米メディアたちは「グッドラウンド」と褒めたたえるかわりに辛辣な質問を次々に投げかけた。

「メジャーでは惜敗ばかりが続いているけど、今回こそは勝てそうかい?」

「フィル・ミケルソンやベン・クレンショーがメジャーで何試合ぐらい勝てなかったかをキミも意識しているかい? そういう前例はキミに希望をもたらしてくれるかい?」

 ファウラーは米ツアー通算4勝を挙げている実力者。世界ランキング9位のトッププレーヤーでもある。だがメジャー大会では、これまで35試合に出て何度も優勝に王手をかけたが、いまなお未勝利だ。

ファウラーもずいぶんと人がいい。

 米ゴルフ界、いやアメリカにおける国民的スターでありながら、同時に「メジャータイトル無きグッドプレーヤー」という決してうれしくはない称号を与えられてしまっている状況は、過去のミケルソン、クレンショーのそれとよく似ている。

 それを米メディアからズバリ問われたファウラー。聞くほうも聞くほうだが、ちゃんと答えるファウラーもファウラーで、ずいぶんと人がいい。

「僕は常に希望を持っている。フィル・ミケルソンが30歳代になるまでメジャーで勝てなかったことは知っているけど、メジャーの何試合で勝てなかったかという正確な数字は僕は知らない。

 でも、僕がそれを気にする必要はない。優勝が狙えるポジションに自分を置き続けるのみ。ジャック・ニクラスだって、何度も惜敗した。僕もメジャー優勝へのドアをノックし続けるのみだ」

ミケルソンの時とは時代が違う。

 ミケルソンがメジャーで惜敗を続けていたのは1990年代から2000年代の始めごろ。2004年のマスターズを制覇し、惜敗の日々に、ようやく終止符を打った。

 そんなミケルソンとファウラーをそのまま比べるのには少々無理がある。なぜって、やっぱり時代が違うからだ。

 ミケルソン全盛期の時代と比べれば、より良いクラブやボールを使い、優れたコーチングやトレーニングを受けながら参戦している現代の選手たちは格段に恵まれており、技量レベルは高まるばかりだ。

 だがその一方で、体格もスイングもゴルフのスタイルも十人十色だった'90年代やそれ以前と比べると、技量レベルが一様に高い現代は、選手間の差があからさまに縮まっている。

 トッププレーヤーなら誰もがハイレベルな技量、強靭な肉体を備えている現代のゴルフ界。だからこそ、大きな差が出るのはメンタル面だと言うことができる。

 それならば、今日の全米プロ初日、ファウラーは優れた技術はもちろんのこと、優れたメンタル面をも武器にして好発進したということか?

 答えは「イエス」だと私は思う。

開幕前夜に起こった親友ライルの死。

 今大会の開幕前夜、ファウラーが「僕の親友」と呼んできたオーストラリア人選手のジャロード・ライルが36歳でこの世を去った。

 ライルは17歳だった1999年に白血病を発症し、プロゴルファーになる夢を諦めかけたが、母国の先輩プロたちや支援団体のサポートを受けて必死の闘病を重ね、奇跡的に回復。2004年にプロ転向し、2007年から米ツアー選手になった。

 だが2012年の春に再発。そして、もう1度奇跡的に回復し、2013年に戦線復帰した。

 しかし、またしても病魔に襲われ、ついに3度目の奇跡は起こらず、全米プロの開幕前日、母国で家族や友人たちに見守られながら静かに息を引き取った。

 その悲しみをも力に変えてプレーする。この日のファウラーは、そういうメンタル面のコントロールができたからこそ、持てる力を発揮することができたのだ。

 ライルを支援してきた母国の財団のマスコットは黄色いアヒル。そのため、黄色は「ジャロード・ライルの色」とされてきた。ファウラーは元々は「初日はネイビーブルーのシャツを着る予定になっていた」そうだが、ライルを想い「黄色いシャツがちょうど手持ちの中にあってくれたので、今日は黄色を着て戦った」。

「今日は悲しむのではなく、エンジョイする日」

 そして、悲しみの中でも気持ちを明るく前向きに持っていこうと努めた。

「僕らが悲しみながらプレーしていたら、ジャロードは『何をめそめそしてるんだ!』って蹴飛ばしてきたはず。だから今日は悲しむのではなく、彼が生きた日々を祝福し、それを思い出してエンジョイする日。そして、その祝福を僕はこれからも続けていく」

 メジャー惜敗に対する世間の厳しい視線、米メディアの辛辣な質問、そして親友の死。それらをすべて抱え込み、上手に咀嚼できたこと。ファウラー好発進の背景には、そんな事情があった。

首位に立ったウッドランドも娘の死を乗り越えて。

 初日、6アンダー、64をマークして最終的に首位に立ったのは34歳の米国人、ゲーリー・ウッドランドだった。

 ウッドランドとファウラーと言えば、今年2月のフェニックス・オープンが思い出される。あのときもファウラーは「友」の死の悲しみを抱えていた。

 気管に障害を持って生まれ、言葉を発することができずに手術を繰り返してきたアリゾナの地元少年、グリッフィンくんが大会前週に7歳で他界。ファウラーはずっと交流を続けてきた少年の早すぎる死を悼みながら、しかしやはり前向きに、明るい笑顔のグリッフィンくんの写真をバッジにして配りながら大会に挑み、そして優勝争いに絡んだ。

 残念ながらファウラーは勝利を逃がし、プレーオフを制して優勝を飾ったのがウッドランドだった。

 ウッドランドの愛妻は昨春、男女の双子を身ごもっていたが、女の子は生まれてくることができず、ウッドランドはその悲しみを胸に抱いてプレーしたと明かした。

 だが同時にウッドランドは、元気に育っている男の子を腕に抱きながら「父親として初めて噛み締める勝利の味は格別だ」と喜びを噛み締めた。

 悲しみを喜びに変え、涙を笑顔に変え、苦しい気持ちも前向きに――。

 誰の人生にも、いろんなことが起こり、誰の胸の中もいろんな想いがある。それを、どう受け止め、どう咀嚼し、いかにしてパワーやエネルギーに変えていくか。

いつも以上にメンタルが問われる全米プロに。

 不調続きの松山英樹は前週は下を向いて終わったが、今週は「36ホールを完走する」と、まずは予選2日間の全力投球を心に誓い、気持ちを切り替えて顔を上げて挑んだら、2アンダー、68で16位の好発進。

「ピンチもありながらノーボギーで抑えられた。チャンスは少なかったけどフェアウエイに置けた。メジャーの初日としては良かった」と、前向きに喜びを見い出し、ようやく明るい笑顔をのぞかせた。

 今大会の前週にジュニア時代からの恩師・千葉晃プロを亡くした池田勇太は「千葉プロを天国へ見送る試合にしたいよね」と、ファウラー同様、悲しみを笑顔に変えて前を向き、やはり2アンダー、68で16位の好発進。それでも「やってやろうという気持ちが前面に出過ぎないように」とメンタル面を抑えていくことを心がけて2日目に挑む。

 そして、ファウラーのこの一言が、すべてを物語る。

「勝つためには、必ずしも特別なプレーをする必要はない」

 ゴルフは最後は心――今年の全米プロは、そんな戦いになる。

文=舩越園子

photograph by Sonoko Funakoshi


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索