欧州サッカーにロシアW杯の影響は?ポイントは「極小エリアとスペース」。

欧州サッカーにロシアW杯の影響は?ポイントは「極小エリアとスペース」。

「今シーズンの欧州サッカー、戦術的なポイントはどこになると思いますか?」

 毎年、お盆が近づいてくると、こんな質問を受ける機会が増える。

 もちろん戦術的な争点はその都度変わってくるけれど、僕自身の根本的な問題意識は一貫している。

「ピッチ上でいかにスペースを創り出すか」

 これが現代サッカーでは、常に最大のテーマとなってきたからだ。

 その意味でも、今年のW杯は実に興味深かった。ロシア大会ではカウンターとセットプレーが新たなキーワードとして急浮上。FIFAの技術委員会も、「なぜ今大会はセットピースの大会になっているのか」と題した報告を行い、次のような要因を挙げている。

1:ボール支配率にこだわらず、ゴール前での守備に専念するチームが登場したこと。
2:セットプレーを習得するのは、有効な攻撃を練るよりも手っ取り早いこと。
3:セットプレーの場面で効果的に守備を行うのは、極めて難しくなっていること

 技術委員会の報告では、新たなトレンドの恩恵に預かったのがいわゆる「小国」だったこと、オープンプレーから得点を奪うパターンが減少したこと、そして一番の被害者が強豪国だったことなども指摘されている。

生煮えのパスサッカーより効率的。

 ただし生意気を承知で言えばその報告書は、内容的にさほど目新しいものではなかった。僕はグループリーグの初戦が一巡した時点で、「欧州化と番狂わせ」というコラムを雑誌『Number』に寄稿したが、こんなことを書いていたからだ。

『今大会は、セットプレーとカウンターからの得点が顕著だ。(中略)ゴール前を大人数で固められれば、ネイマールやメッシがいても、なかなか得点は奪えない。そうこうするうちにミスを突かれ、敵の反撃に肝を冷やす羽目になる。

 逆に敵側にしてみれば、これほど戦いやすい相手はない。もともとカウンターとセットプレーは、練習時間が少ない代表チームにとって魔法の杖だが、さらに戦術を特化できるからだ。ボールを扱う所作には長けていなくとも、CKの場面なら高さと強さで勝負できる。カウンターでは、どこでスイッチを入れるかを決めておいて、守りに徹すればいい。生煮えのパスサッカーより、はるかに効率的だ』

練習時間の短い代表が効率よく勝つために。

 とはいえカウンターの流行は、あくまでもピッチ上で最終的に生じた「表相」に過ぎない。根底では、さらに大きな3つの変化が作用している。

 1つ目の要因は、選手の身体能力の進化だ。ボール支配率やオープンプレーにこだわらず守備を固めてカウンター狙いを徹底し、セットプレーの場面では高さと強さで勝負する。このようなスタイルが有効になったのは、体格と身体能力の向上に負うところが大きい。

 ベルギーのルカクに象徴されるように、190cmで94kgの体躯を誇りながら、ウイングも難なくこなせるモンスターが登場したのも同じ理由によるものだ。

 2つ目の要因としては、代表の強化に各国が本腰を入れるようになったことが挙げられる。そこで改めて有用性が認識された方法論こそセットプレーだった。

 クラブチームに比べれば、代表チームの練習時間は圧倒的に少ない。それでも結果を出そうとするのであれば、最も即効性のある方法を採用したほうがいいという解釈だ。

 この発想の転換が持つ意味は極めて大きい。

 実は2年前のEUROでは、クラブチームでさえセットプレーをものにするのは難しいのに、代表チームで磨きをかけることなど不可能だという議論が支配的だったからだ。その意味で今大会は、セットプレーの位置づけそのものに関して、従来と真逆の結論が導き出されたことになる。

NBAやNFLの影響を受けた新戦術。

 そして最も重要な3つ目の要素が、具体的な方法論の発見だ。いかに選手の身体能力が向上し、各国協会が代表チームの強化に励むようになっても、ゴールをこじ開けるノウハウがなければ、かくもセットプレーが猛威をふるうことはなかった。

 この点でよく引き合いに出されるのが、イングランド代表監督のガレス・サウスゲートである。彼がNBAやNFLを参考しながら、セットプレーの場面における独特な動き方(長身の選手がゴール前で縦一列に並び、ボールがフィードされるタイミングに合わせて、フリーでシュートを打てる人間を確保していく手法)を導入したことは、今やよく知られるようになった。

 そもそもNBAでは、サッカーにおけるペナルティエリアやゴールエリアに相当する場所で、激しい肉弾戦が行われる。パスワークやポジションチェンジ、あるいはスクリーンプレー(ブロック)によって、極小のスペースの中でフリーのシューターを創り出すノウハウは、NBAに一日の長がある。

極小のエリアの中でスペースを作る。

 加えて、サウスゲートはNFLにもヒントを得ている。

 アメリカンフットボールでは、攻撃側はクォーターバックをいかにガードしてパスを放らせるか、逆に守備側は敵のクォーターバックをどうやって潰すかが戦術のポイントになる。両軍の選手が対峙する「スクリメージライン」と呼ばれるエリアでの凄まじい攻防が、バスケットボールの肉弾戦に重なり合うことは説明するまでもない。

 ただしサウスゲートは、NBAやNFLにだけヒントを求めたわけではなかった。実はお膝元のイングランドからも、しっかりとノウハウを吸収している。その対象となったのが、国内リーグの4部に所属するリンカーン・シティというクラブチームだ。

 リンカーン・シティは、イングランド代表がロシアで実践して見せたのと同じ手法をすでに2年前から採用。画期的なノウハウは、現地の識者の間で大きな話題を集めていた。

 もちろんこれらの様々なアプローチは、競技も違えばルールも異なる。

 だが「極小のエリアの中で、いかにスペース(パスコースやシュートコース)を創り出していくか」という発想においては完全に通底していると言っていい。

 サッカー、バスケット、アメフト、ラグビー、バレーボールなどのボールゲームには、根本的な発想や問題意識において通底する要素が無数にある。

最後の聖域、エリア内でスペースを作る。

 サッカーにおける戦術の進化は、ピッチ上からスペースを消滅させてきた。かつての花形だった10番や古典的なセンターフォワードが姿を消す代わりに、どのポジションでもこなせるポリバレントな選手が増え、組織的なカウンターが主流になった所以だ。

 しかしゲームを動かして勝利を手繰り寄せようとするなら、どこかでスペースを創り出していく必要がある。その対象として着目され始めたのが、これまでは手付かずで残っていた最後の聖域、ペナルティエリア内なのである。

今後はミドルシュートが増える可能性も?

 同じ理屈で言えば、ロシア大会でセットプレーやカウンターが注目されたように、今後はミドルレンジやロングレンジのシュートが脚光を浴びていく可能性もあるような気がする。

 理由は簡単。正確性や球速を補えるなら、むしろゴールに近寄り過ぎない方がシュートコースを確保できるし、敵のディフェンスを回避できる可能性が高まるからだ。

 この説を訝しがる方は、クリスティアーノ・ロナウドの姿を思い出してもらうのがいいかもしれない。彼は選手としてスケールアップすればするほど、ゴールまでの距離など意に介さずシュートを打つようになってきている。

 欧州のクラブチームが戦う各種の大会と、ワールドカップのような国際大会には決定的に違う要因もある。たとえばロシア大会では、ビデオ判定の導入によってファウルが厳格に取られるようになったことも、セットプレーからの得点増加につながった。このような新基軸は、クラブチームの試合ではまだ導入されていない。

 だがピッチ上に残された金鉱を探り当てるべく、誰もが必死に戦術ボードを睨んでいる状況は、クラブチームも代表チームも何ら変わりはない。

 次々に開幕する欧州各国リーグ、ロシアの影響がどこまで反映されるのかに着目するのも一興だろう。

文=田邊雅之

photograph by AFLO


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索