サッカーで輝く「切磋琢磨」の物語。インハイ8強・桐光学園2年生コンビ。

サッカーで輝く「切磋琢磨」の物語。インハイ8強・桐光学園2年生コンビ。

 8月7日に開幕し、ベスト8が出揃ったインターハイ。

 今年の開催地、真夏の三重県で切磋琢磨する高校生達の姿を、連日取材している。

 そのベスト8に残ったチームの中で、ある2人の選手のプレーに目が釘付けになった。

 神奈川県第2代表となった桐光学園でプレーする、MF西川潤と佐々木ムライヨセフの2年生コンビである。

 実は、数年前まで彼らの関係は「光」と「陰」だった。縁あって桐光学園にやってきた2人が、今では共に「光」となって輝き、全国大会のピッチに立っている。

「光」である西川は、1年時から名門・桐光学園で10番を背負い、攻撃の中枢に君臨していた。U-15、U-16日本代表でも中心選手としてプレーしており、すでに来年度の目玉選手としてJクラブのスカウトがこぞって獲得に乗り出そうとしている逸材だ。

 そして「陰」である佐々木は、今年の途中からレギュラーを掴んだ存在。1年時こそ出番がなかったが、左利きながら右足を器用に使い、相手の間隙を突いていくドリブルと瞬間的なスピードが魅力で、「ここに来て伸びて来た。かなり面白い存在」と鈴木勝大監督もその実力を認める。途中出場から徐々に経験を積ませてきており、このインターハイ予選からレギュラーに定着した選手だ。

 この2人に共通するのは、レフティーであること。

 そして、同じ横浜F・マリノスの下部組織出身であることだ。

ユース昇格の選手と、漏れた選手。

 西川は横浜FMジュニアユースで不動のエースを張り、当然のようにユース昇格の打診を受けていた。

 一方で佐々木は、横浜FMジュニアユース追浜でスーパーサブ的な存在にとどまり、ユース昇格を希望していたが、結局その願いは叶わなかった選手だった。

 この時は明暗がくっきりと分かれた2人だが、佐々木自身は「高校サッカーで自分を鍛え直して、絶対にもっともっと上手くなりたい」と誓って、桐光学園の門を叩くことにした。

 すると、そこで驚きのニュースが待っていたのだ。

「自分に足りないのは気持ちの部分」

「(西川)潤も桐光に来るって知ってめちゃくちゃ驚きました。『え、なんで!?』と思いました(笑)。でも、正直『一緒にプレー出来るんだ!』と嬉しかったですね」

 実は、西川はユース昇格を断り、桐光学園進学を決断していたのだ。

 西川は、この時の決断について、こう語っている。

「自分に足りないのは気持ちの部分だと思っていたので。プレーも淡々とやってしまって、闘志を前面に出すようなタイプではなかった。でも、兄が桐光学園に入学してから、体つきが物凄く変わっていったんで。兄も淡々とプレーするタイプだったのに、どんどんファイターになっていくというか、精神的に強くなっていくのが間近で見ていて分かったんです。

 高校サッカーに行けば、自分も変われるんじゃないか……と思うようになったんです」

 3学年上の兄・公基(現・神奈川大)も同じ横浜FMジュニアユース出身だが、ユースに昇格出来ず、桐光学園高校へと進学。線が細かった兄はどんどん逞しくなり、2年生からレギュラーを獲得。力強いドリブルとフィニッシュワークでインターハイや選手権で活躍した。兄の大きな変化を間近で見て、その弟は、多いに驚くと同時に自分自身の成長へのヒントをも見出したということだ。

「ジュニアユースのときにユースの練習にも参加したのですが、レベルは物凄く高いけど、みんな黙々と練習をしていた印象がありました。

 でも桐光学園は練習中からみんなで声を出すし、アップのときもかなり気合いを入れている。自分達で戦う姿勢や雰囲気を出しているのを見て、『やっぱり自分に足りないものがある』と思ったので、桐光に来たんです」(西川)

「潤は僕の中で特別な存在です」

 かくして、どういう運命の計らいからか、2人はチームメイトとなった。

 入学して後、2人は知らず知らずのうちにお互いを刺激し合っていたようだ。

 1年時から10番で不動のレギュラーの西川は、当初は佐々木にとってもまぶしい存在だったという。

「潤は僕の中で特別な存在です。中学の時、新横浜(横浜FMジュニアユース)と試合を良くしたのですが、ベンチから見ていたときは『潤、上手いな〜』と思って眺めていて、途中交代で僕が試合に入って対戦をしてみたら、やっぱり嫌な相手(笑)。

 潤は同じレフティーでドリブルが上手いので、練習や試合を見て、お手本にしたり、かなり勉強させてもらっています。1年のときはずっと『潤と同じピッチでプレーしたい』と思っていました」

「ヨセフの取り組み方は本当に凄かった」

 同級生だけど、学ぶべき重要な存在――佐々木は日頃の練習でも常に全力で取り組み、西川のまぶしい背中を必死で追い続けた。

 一方、西川にとっても佐々木のがむしゃらな練習姿勢は大きな刺激となっていた。

「ヨセフのトレーニングの取り組み方は本当に凄かった。

 走り込みをやっていても、一番前に出ようとするし、実際にいつも前に出て走っていましたから。ユースに上がれなくて、桐光でもう一度這い上がろうと、目の色を変えて取り組んでいたんです。反骨心と言うか……覚悟と気迫がハッキリ見えるんですよ」

 だが、最初からそんな風に佐々木を見ていたわけではなかったという。

「入学してしばらくは、『(佐々木は)何でそんなにムキになって走っているんだろう』と思っていました。それにいざ練習やアップで自分が大きな声を出すことになって、物凄く恥ずかしいと思ったんです。『なぜこんなに声を出さなければいけないのだろう?』『みんな恥ずかしくないのかな?』と思っていました。本音を言うと、『意味があるのだろうか』とも思っていました」

 素直な言葉だった。

 自分を変えたくて決断したにもかかわらず、どうしてもプライドが邪魔をしてしまう。求めていた精神的な成長を果たせなかったことが遠因かもしれないが、昨季の西川はルーキーだということを差し引いても、結果を残したとは言えない、不本意な成績で終わっている。

不甲斐ない自分に怒りがこみ上げてきた。

 ドリブルではその才能を見せつけるが、肝心の結果が出ていなかった。

 プリンスリーグ関東では1ゴールしか挙げられず、チームも7位と低迷した。そして全国高校サッカー選手権大会も出場を逃してしまった。県予選で思うようなプレーができず、先輩達の高校サッカーを終わらせてしまったのだ。

「甘かった。本当に何もできないまま終わってしまった。その時、3年生への申し訳ない気持ちと、自分に対する怒りがこみ上げてきたんです」

 そこで、西川はようやく自分の未熟さに気がついたのだ。

 同時になぜみんなが大きな声を出して一体感を高めようとするのか、佐々木をはじめ周りの選手達がなぜあそこまで必死で走りに打ち込むのかが、心の底から理解できた。

「1年間ずっと受け入れられなかった中途半端な思いや態度が、プレーに大きく反映してしまうことに気付いたんです。もしもっと早く気が付いていれば……。

 声を出すことも、自分を奮い立たせて、チームのために自分を表現するために重要なことだった。

 それに桐光はユースに上がりたくても上がれなかった選手が多い。みんな走り1つでも少しでも上に這い上がるために必死でやるからこそ、目の色が違うんだと」

「かっこ悪いことを、自分からできるように」

 がむしゃらに練習し、プレーする選手たちの、すべての気持ちが理解できた。同時に自分の情けなさも――。

 佐々木の姿の意味もそこではっきりと分かった。だからこそ、彼の存在が自分にとっても大きな刺激であることに気が付いたのだ。

 それからの西川は、見違えるように成長を速めていった。

「鈴木(勝大)監督から『今年はチームの中心として自覚を持って引っ張っていってくれ』と言われ、より気が引き締まった。

 何事も率先してやる気持ちになったし、声出しも全然恥ずかしくない。走りも『絶対に俺が一番になる!』と思って走っています。かっこ悪いと思っていたことを、全部自分から望んでやっているんです。

 桐光の10番を背負っている以上、すべてにおいて負けてはいけないと思うようになったんです」

2人の関係はまさに「切磋琢磨」に。

 ドリブルでの攻撃で決定機に絡むだけでなく、献身的な守備もするようになり、見違えるような選手に変身した西川の姿に、佐々木はさらに刺激を受けることとなった。

「潤がより凄い存在になっていくからこそ、『チームメイトとして同じピッチでしっかりプレーできないといけない』と、さらに強く思うようになりました」

 2トップの一角の西川と、左サイドハーフの佐々木。三重インターハイでは、このレフティーコンビの1人がボールを持つと、すぐに観客は沸いた。

 1回戦の一条(奈良)戦では、チームのオープニングゴールとなるPKを西川が決め、これを皮切りに3−0で快勝。

 2回戦の習志野(千葉第1代表)戦では佐々木が全国デビュー弾となる貴重な先制ゴールをマーク。1−1のPK戦の末に勝利を掴んだ。

 そして3回戦の明秀日立(茨城)戦では、1−1で迎えた61分に西川が左サイドで仕掛けていった。一度は相手にボールを奪われるも、すぐに身体を張って奪い返すと、得意のドリブルでペナルティーエリア内まで進み、正確なラストパスで決勝弾をアシストした。

 ついに桐光学園は、2人の活躍でベスト8進出を手にしたのだ。

スカウトが佐々木にも注目し始めて……。

「ヨセフは凄く心強い存在。フィーリングもあるし、もっとコンビネーションを上げて行きたい。右足のドリブルは自分より上手いので、僕も今、ヨセフからいろいろ盗もうとしています」(西川)

「潤と一緒のユニフォームを着て、一緒にピッチに立っていることが嬉しくてしょうがないです。でも、まだまだ潤には力的に及ばないので、まだこれから一緒にやれる時間があるので、それを大事にしていつかは追い越したいですね」(佐々木)

 あるJクラブのスカウトは「西川はやっぱり別格。ここからさらに(獲得の)競争が激しくなるだろう」と言う一方で、「もう1人気になる選手が出て来た」と口にした。その選手こそ、佐々木であった。

「潤を目当てに、桐光の試合を観に来てくれる人が多い。だからこそ、そこで自分も力を発揮すれば、自分のことをちょっとでも気に掛けてくれる人たちが出て来るかもしれない。なので、僕にとって大きなチャンスだと思っています」(佐々木)

 この言葉通り、インターハイの桐光学園の試合会場にはいつも多くのJクラブのスカウトが集結する。彼らの目当てである西川の評価が確実に上がった一方、左サイドで輝く佐々木の存在にも目が行くようになっていたのは間違いなかった。

 切れ味鋭いドリブルで左サイドを切り裂いていく2つの閃光は、より自分を上へ引き上げて行くかけがえのない存在として、これからもお互いを照らし合っていくはずだ。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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