日本サッカーにジュニア育成革命を!ダバディが知るフランス式の真髄。

日本サッカーにジュニア育成革命を!ダバディが知るフランス式の真髄。

 ロシアW杯のフランス代表チームの中心を担ったムバッペとマテュイディは、フランスサッカー界が誇るクレールフォンテーヌの国立研究所(INF)出身です。それゆえ、フランスサッカー連盟(FFF)のノエル・ルグラエット会長にとって、ロシアワールドカップ優勝の味は格別だったはずです。

 1998年フランス大会優勝時も、何人かの選手はINFを筆頭にフランス全土にある国立育成アカデミーで育てられました。あれから20年、国内14カ所にあるこのエリートアカデミーは、まもなく最先端の15校目がリヨンに開校されるそうです。

 FFFはそれぞれの県内のサッカー環境を事細かに研究した上で全国にアカデミーを配置してきました。ここで育成するのは、基本的に13歳から15歳のカテゴリー。入所できるエリートは、クラブに所属しながらアカデミーで2年間を過ごすのです。毎年フランスで登録される新たなプロ選手約300人のうち、およそ150人はこのU-15の育成システムを卒業した選手たちです。

 2010年代にワールドカップを制したフランス、ドイツ、スペインの主な勝因は、いずれも育成制度の構造改革にありました。多くの資金と才能をここに投資しており、改革を主導した協会や連盟の達成感は大きかったはずです。

アジアともパートナーシップを。

 一方で、伝統的なサッカー大国でありながら、国内サッカーが混沌としているイタリアやブラジル、アルゼンチンの覇権は終わってしまったのでしょうか。充実した設備や人材を備えた国立のアカデミーが不在で、育成はもっぱらクラブ頼み。にもかかわらず、経営難のクラブは目先の勝利のためにベテランを優先し、優秀なティーンエイジャーを海外に売ってしまう。

 伝統国といえども、育成面の遅れを取り戻すにはセンスと情熱だけでは足りません。安定した国勢と健全なサッカー協会が必要なのでしょう。

 FFFはフランス政府(スポーツ省)に支えられ、自身でも売り上げを大きく伸ばしています。さらにワールドカップ優勝の波に乗って、外国の協会のナショナルトレーニングセンターを作ったり、アジアの国とパートナーシップを結び、育成スタッフも派遣しています。

 ベトナムサッカー連盟がフィリップ・トルシエの監修の元で作るアカデミーでも、FFFは大きく貢献するでしょう。フランスの育成の真髄とは一体なんなのでしょうか。

指導者に必要なサッカーを見る目。

 この20年間、フランスの指導法を勉強してきた日本人指導者は少なくありません。そのうちのひとりはこう語ります。

「やはりフランスの指導者は、サッカーを見る目を持っている。若い選手たちの長所と短所をすぐに見抜き、具体的に彼らのサッカー頭脳をピンポイントで引き出す能力があります。ボールをどこで止め、オフ・ザ・ボールでどう動き、どうやって正しい弾道のスルーパスを出すのか、といったことを職人のように教える。

 もちろん日本にもフランス人に負けない優秀な指導者が増えましたが、フランスはそれがどのカテゴリーにも大勢いる。それが強みだと思います」

 私もトルシエ監督の通訳時代や、フジテレビ「マンデーフットボール」出演時代に、山本昌邦や風間八宏という日本のエリートコーチと付き合い、彼らのインテリジェンスに感動しました。

 しかし、日本の草サッカーレベルでは彼らのような頭のいい指導者や選手に出会った経験がほとんどありません。フランスと日本の草の根レベルを比べると差は歴然です。私自身は両国で長年、毎週のように草サッカーやフットサルを楽しんできましたが、日本の方々はボール扱いの技術は確かに高いと思います。

育成を優先すべきは7〜14歳。

 ただ、ポジショニングやオフサイドトラップのような戦術、対人での手の使い方などは、どうでしょうか。フランスではどんなに弱いチームでも最低限のオフサイドトラップやゾーンディフェンスを実践しています。

 情報の問題、あるいはサッカー文化の違いかもしれませんが、そのギャップを埋められないはずはありません。

 日本で育成を優先するべきカテゴリーは、7歳〜14歳のジュニアたちでしょう。

 実は日本テニス協会も2016年の秋にフランステニス連盟とパートナーシップを結び、フランスからジュニア育成の教本使用の権利を得て、日本語に翻訳しました。

 また、フランステニス連盟のエリート指導者を東京と大阪へ呼び、その育成法を日本人に講習しています。日本サッカー協会(JFA)も、かつては福島のJヴィレッジにINFのトップ、デュソー氏やメレル氏を招待してきました。

欧州の指導者レベルを見ると……。

 しかし今、日本サッカーの発展を図るうえで最も必要とされるのは、ピラミッドの下方(サッカースクールや町クラブ、草サッカー)にいる指導者のレベルを引き上げることだと思います。フランスだけでなく、ベルギーやデンマーク、クロアチアのような小さな国でも、指導者全般のレベルを見ると、日本のはるか先を行っています。

 フランスには、FFF公認のU-9、U-11、U-13指導者になるための講習があります。このカリキュラムはとても緻密な内容ですが、これを修了していない指導者がクラブで教えることはできません。

 フランスの多くの子供は学校やサークルではなくクラブでプレーするため、子供たちはライセンスも持たないアマチュアコーチに指導されることはほとんどないのです。また、どのカテゴリーでもFFFの試験は難しい。高額なエントリーフィーにもかかわらず、何度も受けにやってくる指導者もいます。それだけの価値があり、一生懸命準備する必要もあります。

アイスランドの成功も好例だ。

 日本では子供の指導者向けの「キッズリーダー」と「D級コーチ」ライセンスがあり、後者は2日間およそ10時間で取得できます。一方、フランスで一番下の「BMFライセンス」(U-8とU-11のコース)は約30時間の講習に加えて12時間の試験も受けなければなりません。費用も約10万円かかるため(880ユーロ)決して気軽には受けられない。ただ、卒業したクラブやスポーツ専門学校で教えることができます。

 日本では出来るだけ多くの子供たちをサッカー・スクールに登録させようという方針であり、質より量なのでしょう。フランスは量より質です。フランスでは単純に指導者数増、ジュニア選手の登録数増を目指すのではなく、辛抱強く優れたシステムを作り上げました。

「UEFA A」や「UEFA B」ライセンスを持つ指導者が5歳の子供を指導しているアイスランドの成功を見ても、サッカー人口の絶対数が代表の強さとは直結しないことは明らかです。やはり大事なのは哲学、リサーチ、厳格さを持って育成システムを整えることだと思います。

成功した時こそ、困難な構造改革を。

 実はFFFも'98年のワールドカップ優勝以後、優勝監督のエメ・ジャケをテクニカルディレクターとした体制が硬直化し、かげりが見えていた育成面の改革が遅れてしまいました。 スペインとドイツがすでにスピードと技術を重視していたなか、フランスは身体能力のあるジュニアだけに集中し、一時期グリーズマンのような逸材を小さすぎるからとカットするなど、間違った道を歩んでいました。これが10年後の南ア大会での大失敗の要因のひとつです。

 成功した時こそ、困難な構造改革に手をつけ、新しい実験をする。これはあのペップ・グアルディオラの哲学です。日本を含め多くの国ではもっと単純に、失敗したら問い直す、という傾向ではないでしょうか。

 来年はアジアカップ、再来年は東京五輪で森保ジャパンは大忙しですが、2022年以降の日本サッカーの準備ができるのは今しかありません。そしてそこは、オールジャパンにこだわる必要もない。

 中国、ベトナム、韓国がより国際化を受け入れている時代だからこそ、日本も育成システムを世界基準に磨き上げるべきでしょう。この機を逃せば、出場枠が増える2026年ワールドカップの出場さえ危ないと思います。

文=フローラン・ダバディ

photograph by Takuya Sugiyama/JMPA


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