本田圭佑のビジネスの原点は能登?星稜・河崎監督が尽力した大会とは。

本田圭佑のビジネスの原点は能登?星稜・河崎監督が尽力した大会とは。

 真夏の石川県はサッカー関係者達であふれ返る。中でも能登半島の中部に位置する和倉温泉は、ジャージを着た選手、スタッフで活気を増す。

「石川県ユースサッカーフェスティバル」

 この大会は星稜高校サッカー部監督の河崎護が中心となって展開される、ユース年代最大のフェスティバルだ。ユース年代のサッカーに関わる人物であれば、その名を知らない者はないほど認知されている。

 高校サッカー界で名将と呼ばれている人たちの多くは、「自分の学校の強化に努めているだけではダメ」と考えている。その考えを、より大きなスケールで実現しているのが河崎護という男なのである。

「高体連(高校のサッカー部)は部員数が多いので、選手全体を見なければならない。いち監督ができることとなると、マネジメント力をどう発揮するのか、ということになる。例えば、子供たちのために練習試合をマッチメークすることも重要な力の1つです。自分の学校のことだけを考えれば、1チーム呼んでAチーム戦、Bチーム戦の2試合をやればこと足りるのですが……。

 でも今は週休2日制です。土日を活用すれば3、4チームは呼べる。そこで合宿のような形にすれば、さらなる交流、強化試合が生まれてくる。その段階まで行くと、今度は地域全体の強化、活性化を視野に入れたマネジメントに切り替わってくるはずなんです」

「地元・石川で強化できないか」

 河崎が同校監督に就任したのは、33年前の1985年。当時、石川県は“サッカー不毛の地”と呼ばれ、強化試合に来てくれる強豪はどこもなかった。そのため、河崎はマイクロバスで部員を乗せて、積極的に県外へと出て試合をこなした。こうした長年の地道な強化が実り、星稜はメキメキと力をつけていった。

 それとともに、河崎は当初から「地元・石川の地でチーム強化ができないか」とも考えていた。そこで目をつけたのが、就任2年前から開催されていた「金沢フェスティバル」だった。

 同大会は、県外チームを招待して2年間にわたって8月に行われていたものの、河崎が監督に就任した年に大会そのものの終了が決まっていた。ちょうどその年は石川県でインターハイが開催されていたのだが、もともとこの「金沢フェスティバル」はそのインハイに向けての県内チーム強化が目的だったからだ。

「せっかくの大会を失くすのは星稜にとっても、石川県にとっても大きな損失だと思った。だからこそ、自分が身銭を切ってでも続けないといけないと思ったんです」

 河崎は当時25歳。これまで参加してくれた県外強豪に直接交渉し、グラウンドと宿泊先の確保に奔走した。星稜のグラウンドと校舎を活用し、まさに自力でフェスティバルを継続させたのだ。

どんどん増え続けていった参加チーム!

 1987年に「石川県ユースサッカーフェスティバル」と名を変えた同大会は、年を追うごとに規模が大きくなっていく。前橋育英の監督である山田耕介、四日市中央工の監督である樋口士郎ら、河崎の同学年である全国の名将たちも協力し、大会のレベルも向上した。

「大会を継続しようと思ったのはチーム、地域の強化はもちろん、石川県には天然芝ピッチが多いことも大きかったんです。石川県には『県大』という市町村対抗の競技大会があり、大会用の天然芝の陸上競技場が各市町村にあるんです。(星稜がある)金沢市、星稜高校もグラウンド以外に自前の陸上競技場を持っています。

 そこからどんどんチームが増えるにつれ、小松市、津幡町、松任市、押水町(当時)と地域が広がりました。それでも“来る者拒まず”のスタンスをずっと続けていたので、まかないきれないくらい参加チームが増えてしまったんです(笑)。来るチームはトップチームでなくても、Bチームでも1年生チームでも良いんです。私のポリシーは『すべてのチームが来て下さい。そこで我々がマッチングをしますし、必ず満足して帰ってもらえるようにします』という精神です。(チーム数が)増えるならこっちも受け入れを増やせばいいんですから(笑)」

 チームが増えればマッチメーク、グラウンド、そして宿舎の確保は相当な負担となる。だが、河崎は自らのマネジメント力をフルに発揮し、自治体や地元の観光協会にも掛け合って、その大会をますます大規模化させていった。

和倉温泉という最高の地の利。

 またこの石川県ユースサッカーフェスティバルだけでなく、他の時期にも大会を開き、1年を通じて石川県内で数多くの強化試合ができる土壌を作っていった。

「グラウンドを求めて北上した結果、いよいよ和倉温泉などがある七尾市、志賀町の能登半島まで広げないと、まかないきれなくなったんです。七尾市にも天然芝グラウンドの陸上競技場がいくつかありましたからね。そして一番の魅力は和倉周辺のグラウンドは県サッカー協会が管理しない『合宿専用グラウンド』だったことです。つまり、比較的に自由に使えるグラウンドがあった。そこに着目して能登マリンパーク海族公園、田鶴浜多目的グラウンド、志賀町陸上競技場を使わせてもらうことになったんです」

 複数のフェスティバルを七尾市など能登半島に持っていく――ここには明確な狙いがあった。

「和倉温泉という旅館街があることです。海が目の前にあり、温泉、宿泊施設も豊富にありますし、旅館が出すご飯もおいしい。なおかつ徒歩圏内にグラウンドがある。“また来たい”と思わせる要素が多く、地の利を活かさない手はないと思った。

 もちろん金沢も観光地だからホテルが多いし、食べ物も美味しいのでフェスティバル開催にはいい場所でした。ただ能登はさらに充実した環境です。ここでフェスティバルを実施すれば訪れたチームにもっと満足してもらえるし、和倉温泉を中心に地域活性化にも繋がると思ったんです」

続々と客が増えて旅館側も大喜び。

 この狙いは的中した。

 もともと温泉地の経済は観光客頼みだが、その年の気候などに大きく左右されるため、ハイシーズンでも客足が伸びない地域もある。当時の和倉温泉もそんな不安定な経済環境に悩まされていた。

 だがサッカーの大会があれば、1年の間に定期的に宿が埋まり、一度に多くのチームの選手、スタッフが1週間近く滞在してくれる。そうなれば、当然宿泊施設だけでなく街全体も活性化する。

 実際、大会を重ねるに連れて、徐々に地域経済全体に効果が表れ始めた。

「例えば1つのフェスティバルで8チームが来たとしましょう。1チームの選手とスタッフが30人ほどだとして、総勢約240人が6泊する。つまり1500人分の予約が埋まるわけです。この状況に旅館関係者が驚き、喜んでくれたんです。

 またこの温泉の街に、サッカーのジャージを着た選手達がたくさん歩いていたり、ランニングをしていたりするわけです。街の人も“なんで急にこんな若い子が増えたんだ?”と、フェスティバルに興味を持ってくれるようになった。

 この効果は大会自体にもいい影響がありました。最初の5年間こそ土のグラウンドも併用していましたが、観光組合の人が『もっとちゃんとしたグラウンドを作った方が良い』と七尾市にお願いに行ってくれたんです。そしてある日突然、僕のところに観光組合の人から電話がかかってきて『先生、和倉に人工芝グラウンドを作りたいと思っています』って! こっちも大喜びで『ぜひともよろしくお願いします!』と」

毎年10万人以上の関係者が!

 徐々に……旅館街のすぐそばがサッカーにとって最高の環境となっていった。

 人工芝グラウンド3面とフットサルコート1面の和倉温泉多目的グラウンドに、人工芝2面とフットサルコート2面の能登島グラウンド。両方ともクラブハウスつきで、これ以外にも次々とグラウンドができあがったのだ。

 河崎の尽力で継続させた石川県ユースサッカーフェスティバルは、今やユース年代最大のフェスティバルとなった。今年で31回目を迎えたが、カテゴリ別に4つの階層で大会がなりたっているのも興味深い。

<一番下の階層>
サマーキャンプ金沢(18チーム、7月28〜31日)、
サマーキャンプin和倉・前期(32チーム、7月23〜26日)
サマーキャンプin和倉・中期(32チーム、7月26〜29日)
サマーキャンプin和倉・後期(48チーム、7月30〜8月2日)

<2番目の階層>
金沢ユースチャレンジカップ前期(32チーム、8月1〜4日)
北陸大学カップ(40チーム、8月9〜12日)
金沢ユースチャレンジカップ後期(32チーム、8月5〜8日)

 この上に金沢ユース(32チーム、8月17〜20日)、そして頂点に和倉ユース(40チーム、8月15〜18日)が存在し、1カ月の間に200チーム以上が全国から石川県内に訪れるのだ。また階層間では昇降格があり、大会のレベルも維持されている。

 そして近年は高校以外にも小学校から中学、大学年代のフェスティバルも開催され、毎年のべ10万人以上ものサッカー関係者が訪れるようになった。

本田や豊田らを輩出、全国制覇も。

 この過程の中で、河崎率いる星稜も素晴らしい成績を残している。

 2002年度の高円宮杯全日本ユースで準優勝したチームには、当時2年生の豊田陽平、1年生の本田圭佑がいた。2004年度の高校選手権でベスト4に入ったチームには当時3年生の本田、橋本晃司、2年生に作田裕次ら、のちにJリーグへと羽ばたく素晴らしい選手たちがいた。

 2007年度には鈴木大輔を擁してインターハイ準優勝。また選手権では2014年度優勝を筆頭に、2012年度から4年連続ベスト4以上の成績を収めている。間違いなく星稜は同フェスティバルによって強化が進んだ、と言えるだろう。

 星稜だけではない。20年ほど前は七尾市より北側にある中学校に、サッカー部は1、2校しかなかったという。しかし今では多くの中学校にサッカー部ができ、街レベルで見てもジュニアチームが約20チーム、ジュニアユースは5チームほどもある。

 石川県は“サッカー不毛の地”から一変。星稜は全国屈指の強豪校となり、なおかつ“サッカー合宿、大会の一大聖地”となったのだ。

 この原動力は、間違いなく河崎のマネジメント力である。

4年前、イタリアで本田と意見交換。

 しかしなぜ、河崎はここまでの情熱を傾けられるのか――そこにはまず故郷・石川をサッカーで活性化させたい、という原点の想いがある。

 それとともに、実は教え子である本田圭佑の姿勢にも、刺激を受けているのだ。

 本田は一流のサッカー選手としてだけではなく、有能なビジネスマンとしても活躍の場を広げつつある。現役ながら「HONDA ESTILO株式会社」を経営し、サッカースクールやアスリートのマネジメントなどを手がけているのは有名だ。

 今から4年前、ブラジルW杯を直前に控えた2014年のこと。河崎監督がイタリアに渡り、本田と濃密な意見交換したことを知る人は少ないだろう。

「あの時、圭佑はいろんなことに興味を持ち始めていた。話しながら“本当に凄い奴だな”と思ったのは、サッカー分野のビジネスのビジョンだった。圭佑は『サッカースクールをこれだけの数は展開したい、将来はアメリカでこういうことをやりたい』と語ってくれた。かなり具体的だったので“そこまで考えているのか”と驚いたし、私自身も大きな刺激を受けた。今を見ても、それをほぼ有言実行していますからね。

 当時はまだアメリカに何も手をつけていない状態だった。しかし、現在では彼が出資しているチーム(オレンジ・カウンティSC)があって、しっかりと現実になっている。それが凄いんだよ、彼は」

当時から圭佑は見ててくれた。

 クラブ経営だけに留まらず、本田は世界的な俳優であるウィル・スミスとともに「ドリーマーズ・ファンド」を設立した。さらにカンボジア代表の実質監督に就任するなど、次々と想い描いたことを実現させている。

「思ったこと、考えたことをすぐに行動する。それには当然、スピード感を持ってやらないといけないし、同時に緻密さがないといけない。それを実現するには自分だけの力ではなく、人と地域とのつながりが大事になってくるんです。その活用ぶりがマネジメント力なのだと思いますし、圭佑にはそれがある。

 今思うと、当時から圭佑は(自らの取り組みを)見ていてくれたのかなと思いますし、今は私が刺激を受けている。すごく大きな存在ですね」

 当然、本田もこのフェスティバルに参加した1人なのだ。当時の思い出について、本田自身はこう語っている。

「石川に全国から沢山の強豪チームが来る――考えてみたらこれって凄いことなんですよね。それに朝、ランニングするときにいつも加賀屋(和倉温泉最大の高級旅館)の前を走っていたんですが、その壮大な建物を見上げて“俺もいつかここに泊まりたいな”ってずっと思っていましたから」

 実際、本田のサッカースクール設立活動では、その初期に和倉温泉でスクールを開設しており、和倉は単なる“高校時代の思い出”だけでなく、現在の経済活動にもつながる土地にもなっているのだ。

サッカーグラウンドを100面に!

 そして今後、本田のような選手が訪れてくれることが地域活性化にもつながるはず、と河崎は語ってくれた。

「現在、石川県内にはサッカーができる人工芝・天然芝グラウンドが45面ほどあります。これを100面にしたい。フェスティバルはこのまま続けていきますが、すべてのカテゴリーのチームが合宿できる環境を整えていきたい。旅館の目の前にグラウンドがあって、複数のチームとマッチメークできる――そういう施設やコミュニティーをもっと作りたい。

 石川には和倉だけでなく加賀、山代、山中、片山津、粟津、志賀の郷、辰口、輪島……と温泉地がたくさんあります。そこを活用していくことで、サッカーの強化はもちろん、もっと石川県に来てくれる人を増やしたいですね」

 本田に劣らず河崎の夢もまた壮大なのだが、これまでの河崎の活動が有言実行なのも間違いない。そんな河崎の下で学んだ3年間こそが……もしかすると今の本田圭佑の活動の元となったのではないか。

 真夏の石川県で、河崎護という「高校サッカー部の監督」の枠を超えた、大きな人間の存在を改めて感じることとなった。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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