日本がアジア大会で得た「収穫」と「課題」。東京五輪のクライミング初メダリストは誰だ。

日本がアジア大会で得た「収穫」と「課題」。東京五輪のクライミング初メダリストは誰だ。

 メダル獲得以上に大きな収穫を手にした。

 日本選手団が金75個、銀56個、銅74個と総数205個のメダルラッシュを演じたアジア競技大会で、初めて実施されたスポーツクライミング複合(ボルダリング、スピード、リード)でも、野口啓代が金メダルに輝いた。

「今シーズンの目標がアジア大会の優勝だったので、すごくうれしいです。大きな自信になりました」

 そう喜びを語った野口は、予選初日のスピードで11位と出遅れたが、予選2日目のボルダリングで3位になって総合7位に浮上。予選最終日のリードで2位になり総合3位で、予選上位6選手のみで争う4日目の決勝に駒を進めた。

 1日のうちにスピード、ボルダリング、リードの順に3種目を行う決勝でも、野口は苦手にするスピードで苦戦。予選では11秒30の自己ベストをマークしたものの、最初の種目で6選手中最下位と後手を踏んだ。

野口が初代アジア女王の座に君臨。

 複合種目の成績は、各種目の順位をかけ算したものが総合点になり、この点数が低いほど上位になる。

 残り2種目での挽回を期した野口は、続くボルダリングで今季のW杯年間2位になった実力を存分に発揮。6選手中ただひとり全課題を完登して1位になると、最終種目のリードでも2位になった。

 総合点を12ポイント(6位×1位×2位)に抑え、韓国のサ・ソルと並んだものの、同点の場合は直接対決で勝った種目数の多い選手が上位になるルールによって、初代アジア女王の座に君臨した。

 ただ、2年後の東京五輪を見据えれば、喜んでばかりもいられない。

 今年6月に岩手で開催されたコンバインド・ジャパンカップの優勝後に野口は、「やっぱりスピード。9秒台に近いタイムを出さないと、自信を持って世界とは戦えないと思う」と口にしていたが、改めてアジア大会でもスピード強化の課題が浮き彫りになった。

あと2年で1秒近く削り取れるか。

 昨年から本格的にスピード強化に取り組んでいる野口は、アジア大会前の7月末からの合宿の成果を自己ベスト更新に繋げたが、今シーズンに入ってから本格的にスピード強化に乗り出した各国ライバルたちの叩き出すタイムに比べると、野口としてもうかうかしていられない。

 リード種目の世界的な第一人者で、アジア大会では複合銅メダルを獲得したキム・ジャーインは、今季7月に初めてW杯スピードに出場して12秒95をマークすると、アジア大会の複合予選で10秒49を記録。わずか2カ月足らずで記録を2秒以上も縮め、野口のベストタイムとほぼ変わらない領域に達している。

 野口は6月時点で目標タイムを、「9秒台に近いタイム」と語っていたが、もはや複合種目のスピードは9秒台でなければ勝負にならないレベルになりつつある。ボルダリングとリードで世界五指に入る実力を持つ野口にとっては、東京五輪でも大輪の笑顔を咲かせるためには、ここからの2年間でスピードのタイムをあと1秒近く削り取ることが求められる。

 もうひとりの日本代表の伊藤ふたばは、予選はスピード9位、ボルダリング7位、リード4位で、かろうじて総合6位に滑り込んで決勝に進出。決勝ではスピードとリードで4位、ボルダリングで2位と健闘して総合4位となった。

 今回の結果をバネにして、今後伊藤が奮起することを期待したい。

男子は韓国のチョンが圧巻の金。

 男子は予選4位通過の藤井快が銀メダル、予選トップ通過の楢﨑智亜が銅メダルを獲得した。

 藤井は予選のスピードで23選手中17位と大きく出遅れたが、ボルダリングで6位として総合12位にまで挽回すると、リードで2位になり決勝に進出。決勝ではスピード5位、ボルダリング3位の総合4位タイで迎えた最終種目のリードで、意地を見せて1位になって総合ポイント15点にとどめて銀メダルを獲得した。

 楢﨑は予選ではスピード6位、ボルダリング1位、リード1位と安定した強さを発揮したが、決勝では、4位だったスピードでのミスが響き、ボルダリング2位、リード2位で総合ポイントを16点として藤井に逆転を許して銅メダルに終わった。

 その決勝で圧倒的な強さを発揮したのが韓国のチョン・ジョンウォン。決勝ではスピード2位、ボルダリング1位、リード3位の総合ポイント6点で金メダルを獲得した。

 これまでスポーツクライミングは、オリンピックもアジア大会も無縁なものだったが、今大会に初めて採用された。チョンは高いモチベーションでここに挑み、実力的には遜色ない藤井や楢﨑よりも輝くメダルを手にした。

アジア大会での経験を財産に。

 東京五輪で初めて実施されるスポーツクライミングは、初代金メダリストを目指して世界中の精鋭が牙を研いでいる。彼らを凌駕するモチベーションを保ち続けることはたやすくはないが、そこを乗り越えなければ2年後の金メダルもない。それだけに藤井や楢﨑にとってアジア大会での経験は大きな財産になったはずだ。

 日本選手団の山下泰裕団長はアジア大会を総括して、「予想をはるかに上回る好成績」と評価しながら、東京五輪での金メダル30個の目標に向けて、「一層の飛躍、成長、進化があって結果につながる。大切なのは、この成果をいかにつなげていくか」と、気を引き締める。

 これはスポーツクライミングにとっても当てはまることだ。東京オリンピックでのスポーツクライミングは男女予選が2020年8月4日・5日に、男女決勝が6日・7日に行われる。今回の赤道直下の真夏のインドネシアでの経験を、酷暑が予想される2年後にいかにつなげていけるか。ここはまだ通過点に過ぎない――。

文=津金壱郎

photograph by AFLO


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